働きながら介護に携わって15年。働く世代が備えたいこと【岩佐まり】
フリーアナウンサーで、「若年性アルツハイマーの母と生きる」の介護ブロガーとしても知られる岩佐まりさんへのインタビュー。後編では、働き世代に向けての介護の備え方について話を聞きました。
2015年にブログをまとめた著書『若年性アルツハイマーの母と生きる』を出版し、TBS系『サンデー・ジャポン』をはじめ、テレビでも広く紹介された岩佐まりさん。
54歳から若年性アルツハイマー型軽度認知障害を発症し、大阪の実家で暮らしていたお母さんを、岩佐さんが29歳のときに引き取り、母娘ふたりの介護同居生活を始めました。その生活も5年目に突入。現在、お母さんの認知症は進み、会話も減りましたが、穏やかな日々が続いています。
インタビュー前編「介護とは人を支えること」に引き続き、岩佐さんにDRESS世代に立ちはだかる「介護と恋愛」問題や、介護生活を乗り切る知恵について話を伺いました。
■認知症の「家族会」へ参加して情報収集、つながりを持って
――29歳で大阪のご実家からお母さんを引き取って、東京で母娘の介護同居生活に入られました。それまで、岩佐さんのお父さん、弟さんはお母さんとどのように接していましたか?
私が26歳のときに、半年間、一時的に母と同居する以外は、父が仕事をしながら母を見ていました。ですが、父は基本的に介護にはノータッチというか、アルツハイマーであることを理解しようとせず、母をうつ病のように思っていました。母とは喧嘩が絶えなかったですね。弟は実家を出ていて、我関せずでした。
――仲の良いお母さんの病状が悪くなっていくのを、遠方から黙って見守るしかできないのは、辛い経験でしたね。それにしても、男性に介護をお願いするのは、やはり無理なのでしょうか?
男性だから女性だからという話ではなく、人間である以上介護は必要不可欠なことです。介護で助けてもらいたいときは、男性も女性もできることは同じだと思います。
――介護で人から助けてもらいたい場合はどうすればよいですか?
デイサービスなどの介護サービスは基本的に本人が使うもので、介護者の介護負担を減らすとはいえ、介護者自身のサービスではありません。現時点では介護による疲労や精神的ケアは自力で何とかするしかない状況になっています。
私の経験上、ひとりで孤立せずに家族会などの集まりに参加して同じような境遇の仲間と支え合っていくことが大切だと思いますし、そこで生まれる情報共有など、勉強も怠らないでほしいです。
――ちなみに男性はそういう集まりに来られるのですか?
男性は集まり等が苦手だなと感じます。人に助けを求めることが苦手で、自分で全部解決しようとしたり、世間体を気にしたりする方も多い。しかし介護をする上では、集団の中に自ら身を置いて、自分を助けてもらうような心がけが大切です。
――岩佐さんのおっしゃっている家族会について教えてください。
認知症の家族会ですね。全国にありますが、私の住む神奈川県にもたくさんあって、これから参加しようと思われる方は、自分の一番近い地域のところに参加するのがいいと思います。
私と母が参加しているのは若年性認知症の家族会ですから、母と同じように若くして認知症になられた方とそのご家族がたくさん参加されています。
月1回のペースでレクリエーションを楽しんだり、家族だけの相談会を設けそれぞれの悩みを言い合い、医療・介護従事者の方から病院や使える行政の制度などを教えてもらったりします。仕事や経験に基づく確かな情報はとてもためになります。
■介護をしていると「近くの友だち」に助けられる
――岩佐さんは今、34歳で、人生の一番華やかな20代に介護をスタートしました。介護と恋愛の両立については、どう思いますか?
介護をしていると「時間がなさそう」「面倒くさそう」と思われるみたいですね。実際、介護によって時間が拘束されて、デートができないとか、そういうことがマイナス要素にはなっていくと思います。
介護が恋愛においてプラスの要素になるとは思えないのですが、その壁を乗り越えられる気持ちの通じ合う出会いがあれば、介護自体はそこまでマイナス要因にならないかもしれません。
――でも男性って、介護に偏見がありませんか?
あると思います。でも介護の偏見でいうと、男性に限らず、女性もあります。仕事中に、「今日は介護でちょっと早く帰らなくては……」と切り出すと、「ああ、もういいわ」という態度を見せられてしまったりとか。
――岩佐さんは今年4月に全身性障害者移動支援従業者(ガイドヘルパー)の資格を取られて、知識を付け、情報収集をすることで、介護生活を乗り越えてきました。知識を付ける以外に必要なことは何ですか?
自分が困っているときに、助けてくれる友だちをつくるべきです。介護をしていると時間が制限されてしまうので、その限られた時間の中でも会ってくれたり、寄り添ってくれたりする友だちがいいですね。
例えば、私が在宅介護をすると決めたときに、闇雲にやめたほうがいいよと反対されると、友だちとしてちょっと違うかなと思ってしまいます。私の話を傾聴して、「あなたがそうするなら、応援するよ」と支えてくれる人が側にいるといいですね。
――どうしてそう思ったのですか?
「介護は離れている家族よりも、近くの友だち」だと思うんですよね。遠くにいると話を聞いたりアドバイスしたりする分にはいいですが、介護って近くにいないとできないことがいっぱいあるんです。徘徊して困っていても、遠くにいたら助けられないわけですし。助けてほしいと思ったときに、すぐに力になってもらえる友だちを持つことは重要ですね。
■母の介護を15年続けてきて思うこと
――お母さんは認知症がかなり進んで、ブログでは末期の状態と書いていらっしゃいます。認知症になると、何をなくして、何が残りますか?
認知症になるといろいろなものをなくします。記憶、言葉、体の機能、最期は命も落とします。母もあと何年生きられるかわからないのです。でも今でも母の優しい人柄やうれしい、悲しいといった感情は残っていますし、私が娘であることの認識もできます。
――今、20代の一番辛い時期を思い返して、あの頃の岩佐さんは自分を客観視できましたか?
客観視はできなかったですね。今もできているかというと微妙ではありますが。20代の時は、「私、辛い。辛い。どうしよう」と、そんなことばかり考えていました。今は落ち着いて、迷いがなくなりました。
――なぜ迷いがなくなったのですか?
若い頃は介護をひとつやるにせよ、選択肢がいろいろありすぎてよくわかりませんでした。でも今は、母の命が尽きないように進む道しかないので、そのために何をすべきかある程度決まっていて、悩みようがないんです。必要になれば母を施設に入れることも考えたいですが、できるならば在宅で母の最期を見届けたいですね。
(完)
岩佐まりさんプロフィール
1983年大阪生まれ。フリーアナウンサー。これまでにケーブルテレビのキャスター&レポーターや、ネットチャンネルの司会などを務める。2003年に55歳の若さで「若年性アルツハイマー」を患った母を、2013年より働きながらひとりで介護している。2009年に、介護の様子や気持ちを綴ったブログ「若年性アルツハイマーの母と生きる」を開始し、同様に介護で苦しむ人たちなどの間で共感を呼ぶ。2014年に数々のTV番組で紹介され話題となる。著書に『若年性アルツハイマーの母と生きる』、共著に『私と介護』がある。
https://ameblo.jp/youko-haha/
『若年性アルツハイマーの母と生きる』書籍情報
Text・Photo/横山由希路
プロ野球の見すぎで「やきうモンスター」とあだ名されるライター&編集者。エンタメ系情報誌の編集を経て、フリーに。コラム、インタビュー原稿を中心に活動。ジャンルは、野球、介護、演劇、台湾など多岐にわたる。
※写真の一部は岩佐さん提供
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