介護は毒を吐いたっていい。つらい状況の自分を俯瞰して見る【山田あしゅら】
https://p-dress.jp/articles/5160どうみても、すさまじく大変な在宅介護なのに、ブログを読むと思わず笑ってしまう。主婦でアメブロ公式トップブロガーの山田あしゅらさんが7月、『毒舌嫁の在宅介護は今日も事件です!』(主婦と生活社)を出版しました。今回は本の発売を記念して、いつかはやってくる介護についてのディープなインタビュー。前後編でお届けします。
『毒舌嫁の在宅介護は今日も事件です!』(主婦と生活社)を発売した人気介護ブロガー・山田あしゅらさんへのインタビュー。後編では、突然やってくる介護への向き合い方、介護にどう備えるかについて伺いました。
いざ介護が始まると、必ず出てくるのが「男は介護に後ろ向き」問題です。家事も押し付けられがちな上に、介護まで女性に押しつけられる。でも哀しいかな、男性の気がつかないうちに、女性は介護の問題点をどんどん見つけて、先に動いてしまう。
介護から逃げる夫をイクメンに仕立て、きれいごとでは済まない在宅介護の日々を笑いでまぶした『毒舌嫁の在宅介護は今日も事件です!』(主婦と生活社)が、7月に刊行されました。
著者で介護をテーマにしたブログが人気の山田あしゅらさんに、前編に引き続き、いつかはやってくる介護への準備や心構えについて、話を聞きました。
介護は毒を吐いたっていい。つらい状況の自分を俯瞰して見る【山田あしゅら】
https://p-dress.jp/articles/5160どうみても、すさまじく大変な在宅介護なのに、ブログを読むと思わず笑ってしまう。主婦でアメブロ公式トップブロガーの山田あしゅらさんが7月、『毒舌嫁の在宅介護は今日も事件です!』(主婦と生活社)を出版しました。今回は本の発売を記念して、いつかはやってくる介護についてのディープなインタビュー。前後編でお届けします。
――ご主人は当初、介護に協力的ではなかったんですよね?
男の人は、家の外に出て働くことが多いので、「あ、俺、仕事あるから!」って逃げられるところがあるのは仕方ないんですよ。それに主人は血のつながった両親が変わっていく姿を目にして、余計に落ち込んで、必要以上に関わりたくない気分になってしまったようで。
はじめは彼が“介護やりたくないオーラ全開”で仕事から帰ってくると、私も本当にやるせない気分になりました。時々私がヤケクソで飲んだビールの空き缶を、主人はそうっと片づける(笑)。自分が介護をしていないから、主人は私の気持ちに付き合えないんです。
でも、主人、かわいそうに私のブログを職場の休み時間に読んじゃったばっかりに、もう介護せざるを得なくなっちゃって(笑)。
――読んじゃったばっかりに(笑)。
ブログで一番反響があるのが、主人が介護でやらかしたことについてです。これを書くと、すさまじく共感のコメントが来る。それを主人が読んで、地味に落ち込む。それをまた、私がブログで拾い上げる。
よその奥様方が、私の代わりに「ご主人は違う!」と意見してくださるので、読んでいる彼も「ああ、そうなのかなあ」って。だから、私が主人に今日起こったことをいちいち言わなくても、ブログを通じて彼には伝わるんですよね。
――ご主人も自分に矢が向いていると嫌な気分になるけれど、あしゅらさんは外に向かって矢を放っている。だから、ご主人も腑に落ちる。
主人も職場の休み時間にブログを読んで、私の放った矢が背中にブチブチ刺さっているとは思いますけどね(笑)。
ほら、夫が仕事から帰ってきたときに、奥さんが「今日はこうでこうでこんなことがあって」と一気に報告すると、もう旦那さんって一気に引くじゃないですか。ウチも同じことをしていたら、主人は介護を拒否していたと思うんです。
ワンクッション置いて、主人は前日の出来事を職場で読む。在宅介護が徐々に上手く回って、主人が介護イクメンに変わっていったのも、ブログが良いコミュニケーションツールだったということが言えますね。
――ご主人が介護イクメンになったお話が出ましたが、在宅介護の約10年間、ご夫婦の関係性はどう変わっていきましたか?
もし、おじいちゃん、おばあちゃんのお世話をしていなければ、今ほど夫婦の会話ができていなかったように思います。もしかしたら会話レスの夫婦になっていたかもしれない。私たち夫婦の関係も、介護を通じて良くなっていきました。
あと、息子が3人いるのですが、彼らが介護に携わってくれたのも大きいですね。毎日悪戦苦闘していますが、なんだかんだで家族が笑いながら生活できていることが、私たちにとっては一番の救いなのかもしれません。
――御本に「介護ができる、介護するって特権? それとも罰ゲーム?」というセンセーショナルな記述があります。介護ができるというのは罰ゲームでしょうか? 特権でしょうか?
病状や介護者との関係など、被介護者の状況も介護家庭によってさまざまですし、介護者がおかれている状況も千差万別。ひとたび介護に巻き込まれてしまうと、なかなかそこから抜け出せないものでもあります。
罰ゲームというより貧乏くじというか……。でも、罰ゲームは罰ゲームなりに得るものは何かしらあると思います。介護によって介護者が押しつぶされないように用心しつつ、その「何か」を見つけること。
こうすれば上手く介護が乗り切れるという方法はないのですが、自分の気持ちに「折り合いをつける」ことも、この罰ゲームに相対する手段のひとつなのではないでしょうか。
――介護は、そもそも備えられるものでしょうか?
正直言うと、備えようがないですよね(笑)。先のことが読めないのが介護ですし、何年続くのか、どういう状態で進んでいくのかは、人それぞれです。
ご両親がお元気なうちから備えるようなことはしなくていいと思いますが、いざ介護が始まった時に情報収集ができる力をつけておくのは大事ですね。
――情報収集が大切ですか。
担当するケアマネジャーの手腕はもちろん重要なのですが、いかに自前で介護に関する情報をいろいろなところから仕入れるかだと思います。
介護で受けられるサービスは、地域や自治体によって大きく異なります。もし介護が始まりそうになったら、まず地域の包括支援センターに出向いてみるといいと思います。その他、地域で行われる講習会、講演会や介護者の集まりなどに参加するのも良いかもしれません。
わが家のトイレは元々和式で、介護が始まってから実に不便な思いをしていました。たまたま参加した地域主催の講習会で、介護保険とは別個に地域独自の住宅改修の助成金があることを教えてもらい、早速申請したところ、工事費半額負担程度で洋式トイレにリフォームしていただくことができたんですよ。
――インターネットの情報収集はいかがですか?
インターネットから情報を仕入れることも多いです。でも、良いことも正しくないことも載っているのがインターネットなんですよね。なので、情報を信じるか信じないかは自己責任になってしまうので、やはり地域から直接情報を取りにいく姿勢が重要だと思います。
――介護をこの先経験する可能性がある方に向けて、これだけは絶対にやった方が良いと思うことはありますか?
私は義父母が88歳、92歳なので、介護の最終段階に差しかかりながら、ひとつだけ絶対に諦めちゃダメだなと思ったのが書道です。要は夢中になれる趣味ですね。だから、書道が続けられるうちは、介護がどんなに大変だろうと、私は精神的に大丈夫だなと思っていました。
――イラストが描ける上に、書道も続けていたのですか。
書道は月3回通っていますね。自分の作品を提出する際に落款を押すので、自分用の判子がほしくて、篆刻も始めました。判子彫りは月1回通っています。お稽古の日は、「おじいちゃん。お願い、デイサービス行って!」と思いながら、介護のスケジュールを組んでいましたね。
――何かしら無心でやれることはあったほうがいいですよね。
介護を忘れられる時間は、絶対に必要ですね。
義父がデイサービスに行くことを3年ほど渋った時期があって、そのときはおじいちゃんが2階の自分の部屋に上がった瞬間、大きな紙(画仙紙)を居間に広げて、「今だ!」って思いながら作品を書いていました。どうしてもどいてもらえない場合は、食卓を動かしてキッチンで、というときもありましたが……。
実は、義父が施設に入所したのに、今は自宅であんまり筆を持っていないんです。そうか、当時は意地で書いていたんだなって(笑)。
――お義父さんの存在が、ある意味張り合いになっていたのですね。
夢中になれる趣味は不思議なもので、時間あるからできるものでもないんです。その当時の私は、父が居間からいなくなった瞬間に筆を持つことを習慣にしていて。
だからどんな状況でも、自分のやりたいことは絶対捨てたらダメです。多分私はブログだけでも書道だけでもダメで、両方あったから何とかやってこられたのだと思います。
――介護は本当に大変なので、お世話をする人のモチベーションが持たないことがあります。そうならないために、夢中になれる趣味を持つ話が出ました。その他にどんな心構えをしたら良いでしょうか?
介護は、気力も体力も落ちていく人を目の当たりにします。介護する側が一緒に気力を落としてしまうと、ある段階で一気にもろとも崩れ落ちてしまうと思うんです。
介護はハッピーエンドでは終わらない。最終的には死が待っています。たとえ死に直面しても、お世話をする側の気分が落ちてはダメなんですよね。
それでも、やがて訪れる義父母の死で、一番落ち込むのはウチの主人です。なので、もし義父母が亡くなっても、主人の気持ちが持ちこたえられるような前向きな出来事を考えていこうと思っています。
――介護が終わった先を見据えるんですね。
介護は人生の一過程であって、ずっと続くものではないことを頭の片隅に置いてほしいです。先の見えないことでも見通さなくてはいけないのが介護。まず手始めに、介護が終わったときのことをイメージしてみるのは、とても大事なことだと思います。
だって私たちは、たとえ要介護の肉親が亡くなったとしても、その後も生きていかなくてはいけませんしね(笑)。
(完)
ブログ「13番さんのあな―介護家庭の日常」の管理者。50代後半の専業主婦。3人の子どもを育て上げてホッとしていたのもつかのま、同居していた義父母の介護が始まる。2008年より介護の本音(グチ)を吐き出す目的でブログを開始。コミカルなマンガとリアルな介護体験談が多くの共感を呼び、たちまち人気ブログの仲間入りを果たす。訪問数は1日1万人以上、Ameba公式ブロガーに認定される。
https://ameblo.jp/arahaka1962/
イラスト/山田あしゅら
いろいろな顔を持つ女性たちへ。人の多面性を大切にするウェブメディア「DRESS」公式アカウントです。インタビューや対談を配信。