『毒舌嫁の在宅介護は今日も事件です!』(主婦と生活社)を発売した人気介護ブロガー・山田あしゅらさんへのインタビュー。後編では、突然やってくる介護への向き合い方、介護にどう備えるかについて伺いました。
介護は毒を吐いたっていい。つらい状況の自分を俯瞰して見る【山田あしゅら】
どうみても、すさまじく大変な在宅介護なのに、ブログを読むと思わず笑ってしまう。主婦でアメブロ公式トップブロガーの山田あしゅらさんが7月、『毒舌嫁の在宅介護は今日も事件です!』(主婦と生活社)を出版しました。今回は本の発売を記念して、いつかはやってくる介護についてのディープなインタビュー。前後編でお届けします。
久しぶりに実家に戻ると、ふいに父母の老いに直面することがあります。もしかして、ウチも介護が始まるのかな。実家との往復をしながら介護なんてできるのかな。そんなことを考えてしまいます。
一度始まると、雪崩に巻き込まれるような感覚になるのが介護。知恵のついた大人を相手にするのは至難の業で、育児の大変さとは似て非なるものです。
病気の異なる義父母を在宅介護で一度に見る。想像を絶する日々を鋭いツッコミと親しみやすいイラストで描いた『毒舌嫁の在宅介護は今日も事件です!』(主婦と生活社)が刊行されました。
著者であるアメブロ公式トップブロガーの山田あしゅらさんに、ご自身の介護体験、家族を介護することについてお話を伺いました。
■介護中は本を出さないと決めていたのに、まさかまさかの書籍化
――御本を拝読しました。もともとこの本は、ご自身のブログを基にしていらっしゃるんですよね。
2008年1月に始めたアメーバブログ『13番さんのあな』のダイジェスト版です。初期のイラストは手描きをスキャンしてPCに取り込んでいたので、印刷にかけるには解像度が足りなくて、2週間で300点以上、書籍用にイラストを描き直しました(笑)。
――気が遠くなりそうな点数ですね(笑)。山田あしゅらさんのイラストは非常に愛嬌があって、ブログ開始5カ月目の2008年5月には、構成が今と同じ漫談形式になり、ボケ&ツッコミありのテンポの良いスタイルを確立しています。
意外なことにブログを始めてすぐに読者の方がつき、コメントをくださる方が増えていったんです。最初は本当に“介護のグチを吐く場”としてブログを書き始めたのですが、皆さんのコメントを読むと「ああ、介護をされている方は、皆さん私と同じこと考えているんだな」ということがわかって。それならば、読者の方にお話して聞かせる構成にしようと、初期の段階で考えました。
でも、介護について文章で伝えるというよりも、もともと結婚前に勤めていた出版社でイラストを描いていたので、絵を描きたかったというのが正直なところですね。
――在宅介護をする義理のお父さん、お母さんが亡くなり、やがて介護から解放されるであろう日を“Xデー”と称するなど、書かれている内容も痛快です。これだけ面白いブログですから、今回主婦と生活社さんから出版されましたが、他社さんからもお声がかかったのではないですか?
実は主婦と生活社さんの前にも、書籍化のお話をくださる方が何名かいらっしゃいました。でも、在宅介護は日々いろいろなことが起きますし、まだおじいちゃん、おばあちゃんも存命中なので、本を出すのはさすがにいかがなものかという思いがありましたね。
ごく普通に介護される義父母を描きたかったですし、このブログをライフワークにして、ふたりの最期まで描き続けることを目標にしていました。
介護も10年以上続くとだんだんつらくなっていくんですよね。介護される側がどんどん衰えると同時にする側も年を取っていく。
日々の介護が日常となっているので以前ほどの大変さはないものの、ふと立ち止まったとき、「自分の人生こんなんで終わっちゃうのか?」という思いがよぎるようになり、イライラが募ってきました。のんびりした私もさすがに極限状態に達していたんです。
それで主人に「ちょうど主婦と生活社さんからお声がけいただいているから、もう本にしようと思っているんだけど」と相談したら、「えっ、いいんじゃない?」と、ものすごく軽く言われまして(笑)。義父母なので気を遣っていたのですが、何もそんなに難しく考えることはなかったのかもしれませんね。
■介護の環境は人それぞれ。必ずしも施設入所がベターではない
――在宅介護のてんやわんやの日々を象徴するフレーズで、「お風呂に入る時間が10分」というのがあります。
そうですね、お風呂は10分も入っていないですね。義父母以外の息子と私はとにかく手早くお風呂を済ませないと、その後にやってくる義父母入浴の地獄がすごくて(笑)。
特におじいちゃんは、お風呂に入ると気を良くして、大の方の便をしてしまうんですね。すごい臭いですけど、もうアロマの香りと思わないとやっていられない(笑)。これが毎日なので、もうだんだん私たちも臭いに対して麻痺してきてしまって。
――入浴ひとつとっても大変な在宅介護ですから、施設の入所を勧める読者の方もいらっしゃったと思います。
施設の入所をすぐに考えなかったのは、義父母ふたりの同時介護だったからです。おばあちゃんは元看護師のキャリアウーマンで10年以上前から認知症。おじいちゃんは元電鉄の経理マンで難病認定からうつ病になり、ちょっと気難しい。
プライドの高いおじいちゃんに施設に入ってもらいたいと思った時期もありましたが、お金の計算もきちんとできる頭のしっかりしたおじいちゃんを先に入所させるなんてことはできないわけです。
義父は介護されている身ですが、自分が義母を介護しているつもりでいるので。これはもうおじいちゃんの入所なんて、とんでもないなと。ふたりの病気の進み方もまちまちですし、家で義父母を見るしかないなと思いましたね。
■ほっこりしたり、笑ったり、ものすごく頭にきたり。それが介護
――介護を通して、あしゅらさんご自身が変わったことはありますか?
うつによる混乱期が義父に訪れてからは、私もパートを辞めて自宅にいる生活になりました。おじいちゃんは何かしてあげてもねぎらいの言葉をかけてくれる人ではないので、一緒にいると、腹の立つことも多いんです。
でも私、マゾっ気があるのか、おじいちゃんのことをわざと真正面から見るようにしたんです(笑)。それまでは折り合いが悪いから、お互い顔を背けているような関係性だったのですが。
相手を正面から見ることで、今まで見えていなかった義父の考え方や本当にやりたかったことがわかるようになりましたね。
――考え方が理解できるようになるにつれ、お義父さんに変化はありましたか?
昭和一桁生まれでシャイですから、おじいちゃんは「ありがとう」とか「頼む」なんて言葉を絶対に口にしないのですが、私のお誕生日に、日ごろの御礼の手紙をワープロで一生懸命打って渡してくれたんですね。
態度では見せてくれませんが、素直に気持ちを伝えてくれました。あの手紙は大事にしていますね。
――お義母さんはいかがでしたか?
おばあちゃんは、もしかして認知症かなと思った途端に一気に病気が進行して、まるで別人のようになってしまいました。
認知症が進んで、義母が笑うことを忘れてしまった時期に、ある日息子がDVDの整理をしながら、ドリフのコントを観ていたんです。すると、おばあちゃんが画面を観て、コロコロと笑い出すんですよ。「あ、おばあちゃん、まだ笑うんだ!」って思って(笑)。
面白かったのは、義母が何度観ても同じギャグで笑っていたことですね。おばあちゃんのそんな姿を見て、私たちもとても楽しい気分になれましたね。
――それでも介護は、愛しくも切ないものです。介護中、やりきれない気持ちになって、本当に頭にきたときはどうしていたのですか?
義母は穏やかなので、問題は義父ですよね。おじいちゃんの存在を脳内から消すために、やたらラジオの音を大きくして家事をしたり。車の後ろに義父を乗せているときに、すごい大音量でロックをかけたり(笑)。
――やること自体がロックですね(笑)。
介護の最初の頃は、何か問題が起きるたびに、頭の中から一度義父の存在を消すのに必死でした。介護をしているとキツいことが増えてしまうのですが、あとで冷静になって振り返ると、そんなに私は怒らなくても良かったのにと思うこともあるんです。怒ると自分もストレスが溜まりますし。
ブログには「介護の最終日はXデー」とか、結構ブラックなことも書いています。でもね、皆さんもっと面白おかしく吐き出しちゃっていいと思うんですよ(笑)。介護のストレスは、本当に溜めるとよくないと思うので。
(後編へつづく)
『毒舌嫁の在宅介護は今日も事件です!』書籍情報
著者 山田あしゅらさんプロフィール
ブログ「13番さんのあな―介護家庭の日常」の管理者。50代後半の専業主婦。3人の子どもを育て上げてホッとしていたのもつかのま、同居していた義父母の介護が始まる。2008年より介護の本音(グチ)を吐き出す目的でブログを開始。コミカルなマンガとリアルな介護体験談が多くの共感を呼び、たちまち人気ブログの仲間入りを果たす。訪問数は1日1万人以上、Ameba公式ブロガーに認定される。
https://ameblo.jp/arahaka1962/
イラスト/山田あしゅら
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