ものづくりには「正解」があると思う【ジルデコchihiRo×JUCO.#2】
ジャズバンド「JiLL-Decoy association」のボーカルを務めるchihiRoさんがホスト役となり、同じく「ものづくり」に携わる方を招き、ものづくり、クリエイティブをテーマにあれこれ語らう対談企画初回では、シューズブランド「JUCO.」のデザイナー、ジュコさんをお招き。前編に続き、後編をお届けします。
ジャズバンド「JiLL-Decoy association(以下、ジルデコ)」のボーカルを務めるchihiRoさんがホスト役となり、同じく「ものづくり」に携わる方を招き、ものづくり、クリエイティブをテーマにあれこれ語らう対談企画がスタート。
初回ゲストはシューズブランド「JUCO.」のデザイナー、ジュコさん。ブランドの立ち上げ年とジルデコメジャーデビュー年が同じ2006年。
10年以上に渡り、かたや音楽、かたやファッション、ジャンルは違えど、広義でクリエイターとして走り続けるふたり。いったいどんなものづくり論が飛び出すのでしょうか。
前編「7万円のブーツは高いかもしれない。でも、金額を下げなかった理由【ジルデコchihiRo×JUCO.対談#1】 」に続き、後編ではものづくりをする上での「進化」や「変化」の仕方を中心に話が盛り上がりました。
■ものづくりの世界に「正解」はあって、そこにたどり着けるのがプロ
chihiRo:今はプロとアマの境界線が曖昧になっている時代だと感じてて。例えば一般の方がアクセサリーや小物を作って販売するサイトは大人気で、YouTubeでは一般の方が「歌ってみた」と動画をアップして、再生回数がものすごいことになるケースもある。
ジュコ:あるね。
chihiRo:そういうのを見ていると、プロとしての立ち位置やあり方が、すごく難しいなと思うこともある。プロとすごく支持されているアマの違いって、ジュコちゃんはなんだと思う?
ジュコ:モノと向き合う姿勢、がひとつ違いとしてあると思う。私は靴を作りながら行き詰まったとき、自分がしっくりくるまでとことん考える。手を動かしながら考え続ける。10年間、靴と向き合ってきた経験で、考えて、考えて、考えた先にゴールがある、ってわかってるから。
chihiRo:同じだ! 私は「歌詞の神様」がいる、と信じてて。考え続けた人にだけ、神様は答えをくれる。考え続ければ、本当に「おりてくる」ときがあるんだよね。
ジュコ:考えれば考えるだけ、おりてくるよね。考え尽くした結果、最初に思いついたアイデアに戻ることもあるけど(笑)。でも、一回違う方向にいって、ぐるぐる回ってから戻ってくる、というプロセスが大切なこともある。考え抜いて、妥協のないものをつくることが、何よりも大事。
chihiRo:どれだけ時間がかかっても、自分のなかでしっくりくるものが出てくると、すべてが報われたと思えるよね。自分のなかで納得していないものはメンバーにも見せたくないし、メンバー全員に「自分がしっくり来ないものは出すべきじゃない」という共通した考えがあって。クリエイティブなものって、一見正解がないようで、実は正解があると思う。
ジュコ:そう思う。正解にたどり着くまでは、相当の時間がかかる。誰でもものづくりができる時代、というのは誰でもチャンスがあって、素晴らしいことだと思うけど、プロと一般の人との違いは、かけた時間、向き合ってきた時間の差だと思う。じっくりと地に足のついたものづくりを続けていれば、見てくれる人は必ずいるし、お客さんは違いを感じとってくれると思う。
chihiRo:私も。ときどき不安を感じることもあるけど、音楽と本気で向き合い続ければ、ジルデコを好きでいるファンの皆さんに、ついてきてもらえるのかな、とは思ってる。
■「こんなの初めて。でもいいね!」が理想。半歩先を行くものづくり
ジュコ:既存のファンやお客様を飽きさせない取り組みや挑戦をするのも、ものづくりをする人にとって重要なことだと思うんだけど、そのあたりはどう考えてる?
chihiRo:すごく意識してるのは、未経験のことをやってみること。でも、なぜそれをやるのか、どういうプロセスがあって、その挑戦をするのかは、ファンの皆さんにきちんと説明する必要があるのかな、って。
ジュコ:それはどうして?
chihiRo:なんの説明もなく、いきなり「◯◯さんとコラボすることになりました」と発表すると、皆さんは背景に“大人の事情”があったのでは、と複雑な気持ちになりかねない。だから、「最近こういうきっかけがあって、こういう音楽を聴くようになって、いつかこの方とコラボできたらいいなぁと思ってます」みたいに、ブログやSNSで伏線を張る。
ジュコ:ストーリーで見せるんだね。
chihiRo:うん。そうやって点じゃなく、線で自分の活動や考え方をていねいに示していくと、思いを汲んでくれるから。ジュコちゃんはどう? これまで路線変更するタイミングが、何度かあったと思うけど。
ジュコ:#1でも話した、メンズっぽいサイドゴアブーツを発表したときとかね。なかには今までのJUCO.のほうがよかった、と離れていくお客様もいるけど、基本的には私自身が素直に「いい」と思うものを作るのが一番だ、と考えてるかな。
chihiRo:自分の感覚を信じる、ということなのかな。
ジュコ:そのスタンスでものづくりを続けていれば、お客様が「あれ、JUCO.ちょっと変わったな」と感じても、「JUCO.が提案するならチャレンジしてみようかな」とついてきてくれるんじゃないかな、って。JUCO.を長く好きでいてくれているお客様のことを信じている、と言ってもいいかもしれない。
chihiRo:お客様の好みや感性も、自身の状況やライフスタイルの変化とともに進化していく。そう考えるとJUCO.の進化を一緒に楽しんで、歳を重ねていくお客様も多いんだろうな。
ジュコ:同じことを続けていても飽きちゃうしね。私自身、展示会を開催する度に「裏テーマ」を掲げてるんだ。技術や作り方、素材……どれでもいいんだけど、必ず未挑戦のことを取り入れて靴をつくることにしてるの。
chihiRo:すごい! だからいつだってJUCO.は新鮮に見えるのか。
ジュコ:靴づくりって、続ければ続けるほど、どんどん知らないこと、やってみたいことが出てくる。自分ができることをひとつでも増やしたい、という気持ちがあって、それを展示会に反映させてるの。理想は「こんな靴、見たことない。でも、いいね!」と感じてもらえる、時代の半歩先をいく靴。
chihiRo:JUCO.って、あまり継続商品がないのが特徴だよね。毎回新作がたくさん出る。
■新たな価値を提供する、心地よい「刺激物」として存在していたい
ジュコ:色も素材も変えて出すのがほとんどかな。展示会では常に新しい靴と出会える、みたいな「刺激物」として存在していたくて。でも、その気持ちがいきすぎたコレクションも過去にあって、バイヤーから「いったいどうしたの? 売りづらくてしょうがない」と言われたこともあった(笑)。
chihiRo:それ、いつのコレクションだろう? ものすごいインパクトのある靴、ってことだよね。
ジュコ:chihiRoちゃんが知っているのを挙げると、あの「パールがついたローファー」だね。
chihiRo:あ! あれかぁ!
立体的なデザインがかわいらしい。パール同士がぶつからないように、中間サイズのパールをつけたり、見た目のベストバランスを考えて数は8個にしたり、と試行錯誤した後に完成。
ジュコ:私は普通のローファーにパールがついていたら、すごくかわいいんじゃないかな、と思って作ったんだけど。でも、初めて出した年は皆、「えっ」と思ったみたいで、そんなに売れなかった。親友からは「超カッコいい!」と言われたけど。2年目は「あのパールのローファーが気になってて……」と言ってくれるお客様がちらほら出てきて、3年目が一番売れたかな。
chihiRo:同じ商品を3年連続で出すのって、ジュコちゃんとしては珍しいよね。
ジュコ:そうしたのは初めてかな。少しずつ浸透したというか、皆見ているうちに、徐々に違和感がなくなってきて、「やっぱりかわいい。ほしいかも」って思い始めたのかな(笑)。
音楽と靴――つくるものは違えど、ものづくりに本気で向き合い、生みの苦しみも喜びも、数々味わってきたふたりだからこそ、深い対談となりました。次回はchihiRoさんが某有名シェフをお迎えします。音楽と料理のプロの対談は、どんな化学反応を起こすのか。公開は10月中旬となります。お楽しみに。
(完)
取材協力 JUCO./ジュコ
「履くと特別な気持ちになる靴」をコンセプトにしたブランドJUCO. 。
2006年シューズブランド JUCO.設立。
半年に一度の展示会を中心に、洋服ブランドのシューズデザイン・制作から、撮影用の一点モノまで、さまざまな靴を手がける。
www.jucojuco.com
JUCO.展示会情報
‘18 Spring-Summer collection 「JUCO.のクツ展」
<東京展>
'17.10.10(Tue)-'17.10.15(Sun)
12:00-20:00(最終日のみ19:00まで)
場所/DAYS- gallery 東京都目黒区上目黒1-7-5
<アトリエ展>
'17.10.27(Fri)-'17.10.29(Sun)
12:00-19:00
場所/JUCO. design room 東京都台東区東浅草1-9-4
<大阪展>
'17.11.2(Thu)-'17.11.5(Sun)
11:00-19:00(最終日のみ17:00まで)
場所/Gallery Sasaki 大阪市中央区心斎橋筋1-6-4 佐々木ビル3F
JiLL-Decoy association 360° LIVE Guest : BASI(韻シスト)~Daikanyama LOOP 9th Anniversary~ 情報
■日程
2017年11月12日(日)
■会場
代官山LOOP
〒150-0035 東京都渋谷区鉢山町13-12 B1
http://www.live-loop.com/
■時間
【1st】OPEN 14:00 START 14:45
【2nd】OPEN 18:00 START 18:45
■TICKET
<前売>¥3900
<当日>¥4500
※入場時にドリンク代(¥600)が別途必要となります。
【 Peatix オンラインチケット (整理番号付) 】
http://171112liveloop.peatix.com
構成/池田園子
写真/小林航平
いろいろな顔を持つ女性たちへ。人の多面性を大切にするウェブメディア「DRESS」公式アカウントです。インタビューや対談を配信。