ダメ女鑑定

結婚できない独身女という企画に「こんなこと馬鹿げてる!」と叫べばよかったと今さら悔やんでいる話。

ダメ女鑑定

 かつてある番組で、「結婚できない独身女」を専門家が鑑定するという企画があった。
 いろんな心理テストをして、その人がどれぐらい結婚に向かないかを鑑定するというもの。

 「あーー、この人はヤバいですねえ」
 「ほら、だからだめなんだよ」
 「ええ?!そうですか?私、そんなに変ですか?」
 「どうしようー、結婚したいのにー」

 心理分析や行動分析の専門家たちは、番組の主旨に沿って、独身女たちを片端から「結婚に適さないダメ女」と診断する。

 自己中心的な人は結婚できない
 頑固な人は結婚できない
 二面性がある人は結婚できない
 完璧主義者は結婚できない
 人任せ体質は結婚できない
 ・・・・・

 理由なんていくらでも上げられるだろう。
専門家のダメ出しをよく聞くと、こういうことだ。
料理ができて、自己主張せず、素直で、男を子どものように世話する素質のある女じゃなきゃ結婚失格・・・その女、いったい誰の理想なの?私、既婚者なのに素質ゼロですけど?

 既婚者代表として彼女たちへのダメ出しを期待されているのは分かったけど、呆れ顔で「だからあなたたちは結婚できないのよ」なんて言いたくない。すごく苦しかった。いっそ空気の読めないゲストとして「こんなこと馬鹿げてる!!」って叫べばよかった。

 とはいえダメ出しされている出演者も、スタッフも、これは番組上の演出だと分かってやっていること。いちいち目くじらを立てるなんて、ものわかりが悪いと苦笑されてしまうだろう。

 でも、これを見た人が受け取るのは「結婚していない人はダメ人間」っていう古色蒼然としたメッセージだ。テレビの怖いところは、制作者にも出演者にもそんなつもりがなくても、ステマみたいに見る人に価値観の刷り込みをしてしまうってこと。

 多くの人が無意識のうちに縛られている「長く独身でいる人は、欠陥人間だから結婚できないのでは」という偏見を、ショーの形で強調し、既成事実化する。見る人は笑いながら、その偏見を増幅してしまう。テレビはそういう無神経なメディアであることから逃れられないけれど、だからこそ言外に伝わってしまうものへの不安を忘れてはならない。

 残念ながら、テレビを動かすのはいまだに男の生理だ。作り手の性別とは関係なく、男の生理を内面化した制作者と出演者しか、生き残れない。女は女であることを突き放して、男の理屈で動くマーケットで自分を売るしかないし、主婦目線だ女性の感性に訴えるだと言っても、「男の考える主婦目線」「男が理解できる範囲での女の感性」でしかない。
それに果敢に挑戦している番組もあるけれど、うんと数は少ないのが現状だ。

 同性愛者を笑い者にする、独身者を負け犬扱いする、中年女性をけなす、更年期障害をからかう、引きこもりを茶化す、空気の読めない人をのけ者にする・・・・

 テレビの世界ではなんでも「ネタですから」で済まされるのかもしれない。でも世間は、誰をからかっていいのか、何を笑っていいのかを敏感に感じ取る。結婚しないで独身でいる人には「あなたにどっか問題があるんじゃないの?」と言ったっていいんだ、そんなことで怒るやつはイタい……そう思っている人は、あなたの周りにもいないだろうか?

 「そんなこと、まるきり余計なお世話だよ!」って言いたかったのに、言えなかった……悔しい、ふがいない。ずいぶん時間の経った今でも、まだあの後味の悪さは消えない。

小島 慶子

タレント、エッセイスト。1972年生まれ。家族と暮らすオーストラリアと仕事のある日本を往復する生活。小説『わたしの神様』が文庫化。3人の働く女たち。人気者も、デキる女も、幸せママも、女であることすら、目指せば全部しんどくなる...

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