出生前診断と着床前診断の違いや問題点は?診断技術の進化から考える
https://p-dress.jp/articles/3489「出生前診断」と「着床前診断」の違いについて、ご存知の方は多いかもしれません。今回のコラムでは、着床前診断の以前から行われていた出生前診断の歴史を紐解いていきます。倫理的な問題が絡んでいるともいえる技術だからこそ、技術ができるまでの背景を十分に理解してほしいと思うのです。
新型出生前診断(NIPT)を通じてわかること、検査の方法、メリット、リスク、他の診断方法(羊水染色体検査や絨毛染色体検査など)との違いなどを山中智哉医師が解説します。
新型出生前診断は「NIPT」とも呼ばれます。これはnon-invasive prenatal genetic testing(無侵襲的出生前遺伝学的検査)を略したもので、言葉の通り、「胎児や母体に悪影響を与えることなく、生まれる前の胎児の遺伝検査を行なうことができる検査」を意味します。
これまでお話しした羊水染色体検査や絨毛染色体検査も、同じ出生前診断ですが、検査によって引き起こされる流産の可能性が前者で約0.3%、後者で約1%あります。
一方、NIPTは母体の血液検査で診断を行なうため、採血以外には母体にも胎児にも影響はありません。その点では、前回コラム超音波検査より詳しい「羊水染色体検査」でわかることは?検査方法、メリット、リスクも知ってお話した「母体血清マーカーテスト」と同じといえます。
費用は、自費診療となるため病院によって異なりますが、およそ20~25万円ほどとなります。
それでは、「NIPT」は「母体血清マーカーテスト」と何が違うのでしょうか。
女性は妊娠すると、妊娠していないときにはなかった胎児や胎盤などを体内に宿し、それによって、血液中には妊娠に由来するホルモンやタンパクが増加します。21トリソミー(ダウン症)や18トリソミーといった染色体異常では、そのホルモンやタンパクが特異的に上昇するため、「母体血清マーカーテスト」ではその上昇の程度をデータ化し、統計学的に染色体異常の確率を測定しています。
一方、NIPTでは、母体の血液中を流れる「胎児のDNA」の断片を解析するため、母体血清マーカーテストよりも精度の高い診断を行うことができます。とはいえ当初は、DNAの断片からすべての染色体の状態を把握することはできませんでした。
はじめは21トリソミー(ダウン症)の診断から始まり、そして18トリソミー、13トリソミーといった主要な染色体異常の診断ができるようになり、今後はさらに多くの異常の診断ができるようになることが期待されています。
また、NIPTにはまだその精度に関して課題があります。
例えば、NIPTでダウン症が疑われると診断された場合でも、必ずしもダウン症であるとは限りません。その精度は年齢によって影響を受ける部分もあります。報告にもよりますが、40代では、NIPTで陽性と診断されても10%前後は正常であり、20代~30代前半では、40%前後が正常といわれています。したがって、NIPTで陽性と診断された場合でも、羊水染色体検査を行なわなければ、はっきりとした診断とはなりません。
こうして考えると、無侵襲的な検査としてNIPTを行なったがために、かえって羊水染色体検査という侵襲を伴う検査を受けなくてはならなくなるという、当初の目的とは逆の結果となり得ることも考慮しなければなりません。
ただ、NIPTでダウン症が陰性と診断されたときの診断精度は非常に高く、実際にダウン症である確率は1%以下となります。高齢出産する方にとっては、羊水染色体検査を受けなくても安心できる要素として捉えることができます。
こうした医療技術の革新は、いち早く疾患を見つけ、治療するという医療の目的にはかなうものかもしれません。ただし、胎児診断については、その異常がわかった際には、多くの方が中絶を選択するのが現実です。診断結果を通じて、胎児という生命にどう向き合っていくのかは、医療者だけではなく、その両親もよく考えなくてはならないでしょう。
そして、この早期診断という技術は、胎児になる前の受精卵にも向けられています。それが「着床前診断」です。次回は、この着床前診断について詳しくお話したいと思います。
出生前診断と着床前診断の違いや問題点は?診断技術の進化から考える
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