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持ってる・持ってない と できる・できない

「彼女は何でも持っている」と言うのは、女は誰でも結婚と子どもと仕事を望んでいるという前提にたっているだけ。べつに結婚はしてもしなくてもいい。できる・できないと烙印を押さないでほしい。

持ってる・持ってない と できる・できない

 ある男性が結婚するときに、妻となる女性の実家に挨拶に行くと、父親がこう言ったそうだ。
「娘と結婚したら、必ず子どもを作るように。人間としての義務だからな」
 その父親は、自分の娘が子どもを持たない選択をするかもしれないとは夢にも思っていないのだろう。あるいは娘やその伴侶が子どもを望んでも授かるのが難しい身体だったら、なんと言うのだろうか。

 たとえ自分の娘であっても、妊娠・出産に関することは本人の問題なのに、義務だなどとよくも言ったものだ。当の男性はどう思ったのか知らないが、私は他人事ながら腹が立った。

 人は誰でも結婚したがっている、と信じて疑わない人がいる。人はみんな恋人が欲しく、結婚したくて、子どもが欲しいものだと。

 そういう人は、結婚する・しないという発想を持たない。結婚はできる・できないの二択だ。結婚していないということは、結婚を選ばなかったのではなく、望んでも叶わなかった結果なのだと考える。

 たまに、いいわね、あなたは結婚できて、と言う人がいる。相手も状況も異なるのに、なんで「いいわね、あなたは結婚できて(わたしはできないけど)」と一緒にしてしまうのだろう。

 あなたは結婚して子どもも生んで仕事もしているから全部持っていて羨ましい、と言われることもある。その人に尋ねたい。

 あなたは私の夫と、私の子どもたちと、私の仕事を手に入れたくて、羨んでいるの?
 それとも、結婚して子どももいて仕事のある女という肩書きを、羨んでいるの?

 おそらく答えは後者なのだろうが(前者だったらホラー)、だとしたらほんとに余計なお世話だ。私の結婚とあなたの結婚とは違う。私の家族や仕事と、あなたが欲しがっているものはきっとまるきり違うものだろう。私の暮らしを勝手に条件づけて「全部持っている」とかっていうの、ほんとにやめてくれないかな。

 例えば、あの人は都心のマンションもベンツもバーキンも持っているから羨ましい、というなら分かる。誰が持とうが、同じものだからだ。でも、結婚も家族も仕事も、商品じゃない。何でも持ってますね、なんて軽々しく言えないものだ。

 アクセサリーで自分を飾るように、結婚して子どもを産んで仕事を持っている女もいるのかも知れないが、そうであったって相手は生ものだから思うようにはならないだろう。アクセサリーとして見せびらかすどころか、裸になって出直すぐらいの思考の大変革を迫られることもある。

 「彼女は何でも持っている」と言う女は、女は誰でも結婚と子どもと仕事を望んでいるという前提に立つから、それらを経験している人を「みんなが欲しいものを全部手に入れた女」と一括りにしてしまうのだろう。それはみんなが欲しいものじゃない。あなたにはそう見えるというだけのことだ。

 生活って、それぞれに必死なものでしょう。ひとりでも家族といても、働いていてもそうでなくても、他人には分からない大変なことはある。自分にはそう見えるというだけで、持ってる・持ってない、できる・できないの烙印を押すなんて、馬鹿げている。 

 したいけど出来ない辛さや、欲しいけど手に入らない切なさが個別のものであるのと同じように、他人の人生も一括りには出来ない。バラバラの寂しさと喜びを生きる孤独を引き受けるところから、ほんとうの自立が始まるのだと思う。
 

小島 慶子

タレント、エッセイスト。1972年生まれ。家族と暮らすオーストラリアと仕事のある日本を往復する生活。小説『わたしの神様』が文庫化。3人の働く女たち。人気者も、デキる女も、幸せママも、女であることすら、目指せば全部しんどくなる...

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