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地元の田舎で押しつけられる「普通」が苦しい。だから東京で生きている 2/2


■「故郷で生きようか」迷う私を待っていたのは、大人になったからこそ見える田舎の暗部だった

故郷の駅に降りたつと、相変わらずゆっくりとした、新幹線の駅だとは信じがたいくらい静かな空間がそこにはあった。都会でため込んだ緊張がほどけていって、全身の細胞が深呼吸しているような、不思議な感覚に襲われる。「こっちでのんびりするのもいいな……」とまた思う。

でも、数日間過ごして、友人・知人にも会ってみて、結局私は「帰らない」と決めた。そのとき抱いた故郷の印象は、私が幼かった頃とも、二十歳前後の頃とも別のものだった。

20代後半の私が感じたのは、年配の人たちから向けられる「そろそろ結婚?」の目線。お盆でも年末年始でもない時期に東京にいるはずの人間が帰ってくるとご近所から「何事だろう」と訝しがられる気配。

結婚して1年経っても子供ができない女性には「仕事を辞めろ、病院にいけ」と迫ってくる義母(たった1年で……。しかもその義母の行動は非難されない)。30代独身男女に貼られる「どっか変わっとるんやろうね」というレッテル。DINKSに向けられる「変わってる」「かわいそう」という周囲の勝手な評価。

地元で少し名の知られている誰かが病院でいけば「癌か」と噂になる安直さとプライバシー観念の欠如。引っ越してきた人への無遠慮な憶測。「結婚して落ち着くのが女の幸せ」と信じて疑わない友人たち。そして「どこに行っても知り合いばかりでやりづらい」とこぼす都会育ちの母の顔。

大学生の頃は都会の生活に気圧されすぎて、故郷の良いところばかりに目が向いていたけれど、ああなるほど、大人になったひとりの女性としての目で、生活者の目線で、「ここで暮らす」と仮定してアンテナを張ると、保守的で閉鎖的な面が見えてくる。

もちろん、これらの点は田舎に住む良さと表裏一体だ。それはわかっている。無遠慮さやプライバシー観念の欠如は、良いふうに出れば、地域のつながりが密接で、人が世話好きであたたかみがあることにつながる。

変わったことがあると訝しがられたり噂になったりするのも、治安の良さを保つのに一役買っているともいえる。それに物価は安く、自然が多くて、満員電車に乗ることもない。

■だから今も東京で、ふたりで生きている

でも、私はここでは生きられない、と思った。いつ結婚するかもわからなかったし、その当時から「子供を産まないかもしれない」とうっすら感じていたこともあって、田舎でいわゆる「普通」とされる女の人生を歩めないだろうなという予感があったからだ。

普通でないと訝しがられ、普通でないと噂になりやすく、普通でないと普通になった方が幸せなはずだと諭される、そんな地域社会では私は生きづらいだろう。そう思った。

東京は忙しないが、自由だ。「王道」の「普通」を歩まなくても、どこかに居場所がある。そして無縁社会の心細さや寂しさを受け入れるのと引き替えに、群衆に紛れられる。

結局私は故郷に居を移すことなく、32歳の現在も東京で暮らしている。結婚はしたが子供はおらず、夫婦ふたりの生活6年目だ。この先故郷に戻ることがあるかもしれないし、ないかもしれない。故郷でないどこか地方の街に行く可能性だってゼロじゃない。でも今は、東京に根を下ろしている。

いろいろな生き方をなんとなく受け入れてくれる都会の良さを享受しながら、東京が自分にとって「ただただがんばる都会」ではなくて、「がんばるし、疲れることもあるけど、ここでちゃんと充電もできる」と思える場所であり続けてくれるよう、日々模索しながら

※ この記事は2017年4月22日に公開されたものです。


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吉原 由梨

ライター、コラムニスト。1984年生まれ。東大法学部卒。外資系IT企業勤務、教授秘書職を経て、現在は執筆活動をしながら夫と二人暮らし。 好きなものは週末のワイン、夢中になれる本とドラマ、ふなっしー。マッサージともふもふのガ...

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