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2人のママと2人の娘。精子バンクで子供をもうけた女性カップルの話 in シアトル

最近は、日本でも渋谷区が同性のカップルを対象としたパートナーシップ証明書の交付を始めたこともあり、同性カップルへの理解が少しずつではあるものの進んできています。アメリカでは2015年6月に同性婚が合法化されています。 今日は、そんなアメリカにおいて精子バンクを利用し、双子の女の子をもうけた友人カップルのお話をします。

2人のママと2人の娘。精子バンクで子供をもうけた女性カップルの話 in シアトル

■ママが二人に娘が二人。同性カップルに理解のある土地での子育て

今回話を聞いたレベッカさんは、ワシントン州シアトルに妻のベスさんと、彼女が精子バンクを利用して出産した7歳になる双子の娘たちの4人で暮らしています。
シアトルは、全米でもトップ5に入る同性婚や同性婚者の子育てに理解のある土地。彼女たち家族もママが2人いることで問題視されることなく「普通に」暮らしているといいます。

とても仲良く、幸せそうな彼女たち。レベッカさんが精子バンクを利用して妊娠に至るまでと、これまでの子育てについてお伝えします。

■アメリカ・カナダの精子バンク事情

「精子バンク」とは、ドナーと呼ばれる男性が提供する精子を管理する機関のこと。出産を希望するレズビアンカップル、非婚女性、男性側に原因のある不妊症の夫婦たちが主な利用者です。

レベッカさんたちが「子供をつくろう!」と思ったのは、彼女が34歳の時。家族や友人たちに子供を産みたいと言うと、みんな応援してくれました。

「精子を提供しようか?」と申し出てくれた男性の友人や親戚もいましたが、レベッカさんたちはそのことで生物学上の父となる彼と、生まれてくる子供や自分たちが「なにか特別な感情のつながり」を持ってしまうのではないかという不安を覚えました。そこであえて所縁のないドナーを選択できる精子バンクを利用することに決めたそうです。

彼女たちが選んだ精子バンクでは、大学入試スコアまでは分からないものの、見た目や趣味など、幾つもの条件でドナー候補を絞っていくことが可能です。彼女たちが希望したのは、「高身長」「目が良い」「音感がある・楽器が演奏できる」ということ。

子供たちが音楽好きな家族にフィットすることに加え、レベッカさんの背が低く、視力がよくないという遺伝子をできれば引き継がないで欲しいと思ってのことだとか。

ところで精子バンクの利用と言っても、自分たちで精液を膣内に注入する形から病院での体外受精、顕微受精まで、妊娠する確率やかかる費用もまちまち。彼女たちもまずは、最もハードルの低い人工授精を試みたそうです。

ところが、そこから約2年の間、毎月生理がやって来てはまたダメだったと泣き崩れることの繰り返し。ついにはベスさんが妊娠を試みるまでに至ったのですが、結局この方法では二人とも妊娠できず、より確実な体外受精を試すことになりました。

とはいえ、体外受精は1度にかかる費用もなかなかの金額。調べてみると、お隣のカナダならアメリカよりかなり安価で施術ができると分かりました。結局レベッカさんは、カナダで2度のトライを経て、無事妊娠することができました。レベッカさんが37歳の時です。

なお、カナダではアメリカと違い、子供が18歳になってもドナーを開示するという選択肢はないそうです。

■同性カップルを取り巻く環境

さて、とうとう妊娠が判明してからは、嬉しいと同時に、思いの外辛い妊婦生活に怖くなったと言うレベッカさん。「母なる自然」を感じさせるヒッピー系の妊婦になる予定だったのに、悪阻もひどく、猛暑の年に当たったこともあり毎日ダルくて、想像と全然違う……! と苦しむ日々。

そんな時はベスさんが足をマッサージしたり、ビニールプールに水を入れて涼めるようにしたりと献身的にサポートしてくれたそうです。彼女たちのことを知る家族や友人、同僚たちも手助けしてくれました。

ちなみに、「妊娠中、家族や友人以外の社会の目はどうだった?」と聞くと、「私は女っぽい見た目だし、知らない人は普通に夫の子供を妊娠していると思ったはず」とのこと。当然、カミングアウトしている彼女たちですが、余計な波風を立てる必要もありません。

レベッカさんは「自分たちは理解者に囲まれているし、アメリカ国民の多くが同性婚や子育てに合意している」と感じはするものの、根強い反対意見があることも十分に認識しています。

中でも保守的な宗教右派は「同性カップルが子供を育てることは間違っている。子供は、同性の親から『解放』されるべきだ」という意見です。実際、テキサス州やサウス・ダコタ州では、両親が同性だという理由で子供たちを親から引き離し、州の保護下に置くという判決が出たこともあるそうです。

■トランプ大統領就任とLGBTQ


LGBTQ(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、クィアもしくはクエスチョニング:性的マイノリティ)への差別は長く続いているものですが、同性婚が最高裁で合憲だと認められ、ホワイトハウスがレインボーカラーに染まった前政権時には、少なくとも「差別を表明するのはいけないことだ」という認識が広がっていました。

ところが、トランプ政権になってからは、LGBTQに差別的な感情を持つ人たちが、それを表明する権利があると感じるようになっています。

彼らの中には、自らの倫理や宗教に基づく信念から性的マイノリティを否定するというよりも、単に自分の生活の不満やいら立ちの捌け口として、社会的弱者で「自分とは違う」彼らをターゲットに選んだに過ぎない人も少なくないように思います。

そして、彼らが現大統領のように、例えば暴言・暴力のような、思慮のない解決法に飛びつきがちなのも、LGBTQにとっての不安要素になっています。

■「ママが二人なんて変」。クラスメートから投げられた言葉

ところで、私が住むポートランドも北のシアトルや南のサンフランシスコ同様、LGBTQ人口が多いリベラルな街です。娘の通う公立小学校でも、パパが二人いる、ママが二人いる、という生徒も各学年に数人いますが、問題になることはなさそうです。

マイノリティや多様性に寛容なエリアでは、大人たちがママが二人いることに悪意や疑問を呈することはありません。ただし、初めてそんな家族に出会った子供たちの反応は、また別の話です。

レベッカさんの娘たちが4歳の頃、保育園のクラスメートが彼女たちに向かって、「ママが2人なんて、変だよ! ママは1人しかいちゃいけないんだよ!」と言う事件が発生。

レベッカさんの家では子供が小さい頃からドナーの存在を隠さず、赤ちゃんがどうやってできるのかなど、多様な家族の形について説いてきたものの、いわゆる「伝統的な」お父さんとお母さんのいるその子の家庭では、特に他の家族のありかたについて話し合う機会がなかったのでしょう。

その子自身は思ったことをそのまま口に出しただけだと思われますが、言われた当の双子ちゃんたちは、急に責められたことで、傷ついてしまいました。

この話を聞いたレベッカさんは、クラスのみんなにママが二人という家族の形もあることを、きちんと伝えなければいけないと思い立ちます。そして幼稚園の先生と話し合い、児童書“Heather Has Two Mommies(ヘザーちゃんにはママが二人)“を教材として読んでもらうことにしました。

Heather Has Two Mommies
著者:Leslea Newman
 絵:Laura Cornell
発行:Candlewick

実はこの本、1989年に初版が出た時に論争を巻き起こした、同性カップルの子育てをテーマにした児童書の草分け的存在です。2015年にイラストも新しくなり、ママたちの指にも結婚指輪が光るなど、時代に合わせた改訂版が出ています。

日本でも同性カップルだけではなく、シングルマザーやシングルファザー、再婚によるステップファミリー、祖父母や伯父伯母が共に暮らす大家族、祖父母が保護者代わり、養子など、家族の形はどんどん多様化しています。

学校でも保護者や先生が「伝統的な」家族以外の形をタブーのように排斥しようとしたり、見て見ぬふりをしたりするのではなく、子供たちが認識し合えるような環境づくりをしてあげたいところ。

■同性カップルの子供が「かわいそう」と言われる世間から、子供を守るためにできること

レベッカさんが「日本の状況や文化について分からないから、『日本人のみなさんへ』といった形で話はできないけれど」とした上で、「ママが二人って最高だから!」と、レズビアンカップルの子育てについて次のアドバイスしてくれました。

1. 子育てをする際に、リベラルな地域を選ぶこと。

2. 子供に対して、その子のユニークさや、ママたちのユニークさについてオープンであること。そして、その子がどうやって家族の一員になったかについて、誠実に伝えてあげること。年齢に合う児童書の利用もおすすめ。

3. 子育てをする同性カップルの交流グループに入ること。子供の「自分の家庭は他と違う、おかしい」という不安を取り除くことに役立つから。

4. 子供の友達の親や学校の先生からたくさんの質問をしてもらい、オープンに話し合うこと。周りの子供たちに、自分たち家族について誤った形で伝わることをなくすため。

5. 学校の図書館やクラス図書に、同性婚家族についての、年齢にふさわしい本を買って寄付すること。

■いろんな形の家族がある。多様性を受け入れる社会を

家族には、いろんな形があってもいい。大切なのは、みんなが愛し合っていること。

堂々と胸を張って、真摯なコミュニケーションを取っていけば、きっと理解は広がっていくはず。
日本がもっともっと、自分と違うことも受け入れる、寛容な社会になっていくといいですね。

東 リカ

フリーライター。アメリカで出会ったブラジル人の夫と、リオデジャネイロ、レシフェ、東京、サンパウロを経て、2014年末よりポートランドへ移住。現在は、フリーライターとして現地情報を日本メディアに提供。得意分野は、カルチャー、ラ...

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