専業主婦の覚悟

はっきりいって専業主婦は大変です。相当なリスクをとっています。でも働く女も大変です。どちら選択をしても、お互いの道をリスペクトしてほしいと思います。

専業主婦の覚悟

 最近の学生は専業主婦指向が増えているんです、などと聞く。専業主婦と働く女、どっちが正しいか論争は不毛だ。どっちが正しいかじゃなくて、どっちも大変なのだから。

中には、働くのは大変そうだから専業主婦を指向するという若者もいるのかもしれないが、専業主婦という呼称が、ことの本質を見えにくくしていると思う。

あなたは、生きるためのお金を自分で手に入れる人生と、人からお金をもらって生きていく人生と、どっちを選びますか?

こう聞かれたら、どう答えるのだろうか。

働いてお金を稼ぐか、働かないで人に食べさせてもらうか。

この二つしかない。

働くのも大変だが、自分では一切収入を得ることができなくて、ただ養ってくれる人を当てにする人生っていうのも、相当大変だぞ。

相手が浮気したら?
リストラされたら?
病気になったら?
死んじゃったら?

そういうことがないと信じているのか。自分に限ってはそういう面倒なことは免れると。人は変わってしまうのに?世の中は変ってしまうのに?

だから専業主婦はやめておけと言いたいのではない。
むしろ、専業主婦をなめんなよと言いたい。
働くの大変そうなんで、家事と育児だけやって食べさせてもらいまーす、とかいうほど家事も育児も楽じゃねーし!

ひとのお金を当てにしているってことは、その人がダメになったら一文無しで世間にほっぽり出されるかも知れないってことだし。
金に物言わせて浮気放題とか、じつはDVでした、っていう最低なやつだったら逃げ場もないし。

それを覚悟で「ひとのお金で生きて行く」選択をするって、相当に大変なこと。専業主婦は楽じゃない!という話はいつも、家事労働の大変さや子育ての尊さに終始するけれど、働きながら家事や育児をしている人はいくらでもいる。

問題はそこじゃない。専業主婦は、自力では食べて行けないことを分かった上で、その不安とリスクを引き受けているという点において、明らかに働いている人よりも大変なのだ。相当なリスクをとっている。

分かりやすいのは、最近注目される「専業主夫を選んだ男たち」の話。仕事を辞めて妻を支えることを決断した男性、仕事よりも家事と育児に向いていることを自覚し、妻に宣言して辞職した男性、失業を機に主夫になった男性・・・彼らの話は「勇気ある選択をした男性、チャレンジする新時代の男性」という語られ方をする。

なぜって、男は仕事するのが当たり前で、収入ゼロの男なんて誰から見てもリスクが高すぎる人生だから。それを選択した男は、大きなリスクを引き受けた決断の人という言われ方をする。そして事実、その通りだ。それが男でも女でも。

だから、女の専業主婦だって同じだとちゃんと言わなきゃいけない。勇気ある選択で、リスクを自覚した上でやっているんです、って。
そう一人称で語る女が現れて初めて、専業主婦がきちんとリスペクトされるのではないかと思う。

お金を稼いでいない=楽している
という偏見が、専業主婦の地位を貶める。

収入なしで生きて行く選択をする=相当大変な決意
と声を大にして言えばいい。それを敢えて選択した自分を誇りに思う人が増えれば、とりあえず働くのしんどそうだから専業シュフ、などという世間をなめた若者は減るだろう。

生きて行くのはどの道大変だ。どっちが大変かを競うのではなくて、お互い大変だからリスペクトし合う世の中に私は生きたい。人それぞれに大変なのだという労りの気持ちで繋がりたいものだと思う。
 

小島 慶子

タレント、エッセイスト。1972年生まれ。家族と暮らすオーストラリアと仕事のある日本を往復する生活。小説『わたしの神様』が文庫化。3人の働く女たち。人気者も、デキる女も、幸せママも、女であることすら、目指せば全部しんどくなる...

関連するキーワード

関連記事

Latest Article