それでも私たちは夫婦で一緒に働きながら暮らして生きていく

それでも私たちは夫婦で一緒に働きながら暮らして生きていく

ひとりでも楽しく、充実して生きていける現代。でも、あえて面倒で、他人とすり合わせながら生きていく「ふたり」を選んだ兎村彩野さん。連載「一緒に働いて、一緒に生きていく。」最終回では、命ある限りこれからも、ふたりで生きていくことを改めて考えます。


夫婦で一緒に働きながら暮らしていくコラムを書き始めてちょうど1年になりました。夫や編集長と相談しながら「今月はなにを書こうかなぁ」とテーマを探し書くことで、自分の中の「曖昧だけどそこにある気持ち」と出会うことができ、とても楽しい時間でした。


夫婦で一緒に働いていますと人に話すと「ストレスはないですか?」「本音を言いにくくないですか?」「喧嘩したらどうするんですか?」と聞かれる日々ですが、きっと私たちは一緒に働いてもいなくても、ストレスはないし、本音は言えるし、喧嘩をしないで話し合えると思います。自立したふたりの人間がほどよい距離感で1つ屋根の下に住んでいる関係を楽しんでいただろうなと感じています。

私は夫と結婚する前、誰かに合わせて無理をして生きるくらいなら、ずっと一人でもいいかなと思っていました。そのために、ライフプランナーさんに生涯一人で生きていくのにかかるお金を計算してもらったり、そのための保険に入ったり、会社を作ったり、着々と「おひとりさまコース」という孤城を築いていた気がします。


なんとなくおひとりさまコースという城が完成して、あぁ、ひとりでもなんとか生きていけそうだし、孤独をごまかすために恋愛をするのはもうやめようと、停滞していた人生が自分の力で吹っ切れたとき、夫と出会いました。

■あえて面倒くさいふたりを選んだ先に、人間的な成長があるのだと思う

不思議なもので、この世界はテクノロジーの発展・発達で自分に都合の良いもので溢れかえるようになりました。気楽な付き合いのできる友人に快適な家、楽しい都会のコンテンツ。近い考え方の人がグループ化するSNS、同じ趣味だけで集うパーティー。24時間好きなことができる街の仕組み。


おひとりさまでもそれなりに自立していれば、生きていける時代になった反面、思い通りにいかないものがどんどん減っていくんだなぁと思いました。新しい技術をニュースで見る度に、自分に都合の良い肯定的なコミュニケーションだけをしてくれる人工知能の恋人が生まれる日も、そう遠くないんじゃないかなぁと、妄想をしたりしています。


そんな関わりやすい人工知能の恋人と人間の夫は違います。夫は他人という人間です。どんなに愛しても、どんなに会話しても、彼の心が本当はどう思っているかはわかりません。彼の気持ちに近づくことはできても、彼という人間は死ぬまで私にはなれません。私も彼になれません。


おひとりさまを選択できる時代だからこそ、心から愛した大好きな他人と結婚してみる。少し面倒な他人とあえて一緒に暮らしてみる。思い通りにならないことがいつも暮らしの真ん中にあり、思い通りにならないことを受け入れたりお願いしたりしながら、なるべく苦痛が少なく、なるべく楽しく、なるべく相手を尊重して、なるべく自分も大事にされて。
そんなとてもとても面倒くさい時間を選んでみることで、都合の良いものだけではできない「人間としての成長」があるのかもしれないなと思いました。

■愛し抜いた人生は後悔がない――勝手に思い込むのも人生のおかしみ

他人と一緒に働くコトも、他人と一緒に暮らすコトも。すべては自分の思い通りにならないモノとの敬愛関係であり、思い通りにならないコトが楽しいと思えれば、他人と謙虚に生きていける気がします。そういう生き方には、もはや同僚とか夫婦とか恋人とかという言葉は必要ありません。代わりに大事なのは、他人という愛おしく面倒で決して100%わかり合えることのない他者と自分の関係をどう工夫するか、ということなのかなと思います。しかし、そこには希望があります。ゆるやかな優しい気持ちや思いやりでのつながりは確かにあります。その関係こそ、実はこの世界そのものなのかもしれません。


「すべてが思い通りにいかないかもしれない。けど、心底好きなんです。」と言える人と結婚し、夫婦を楽しむのは、人間として生まれた人生への挑戦でもあります。不器用で、自分勝手で、少し優しく、どこかずるく、どこか賢い、人間という不思議な動物に生まれたという運命の冒険。


この人生の正解はどこにもないけれど「この人を愛し抜いた」と言ってこの人生を終われたらいいなと思っています。愛する・愛されるといったことを通り越して、もはや、自分自身の信念で愛し抜いてみたい。その先になにがあるかわからないし、なにもないかもしれない。それでもその景色を見てみたい。そんな気持ちで日々、朝を迎えます。

愛し抜いた人生は後悔がないかもしれない。いや、後悔がないと思い込もう。そういう自分勝手さもまた他人と一緒に生きていく面白さなのかなと思います。愛するとはずっと昔からとても勝手な行為なのでしょう。勝手だからこそ、丁寧に相手の立場になって想像してみなければならないのですが。

■思い通りにならないことを楽しんでみる

未来の自分に聞いてみたいことがあるとすれば「今日も夫が好き?」とか「一緒に作った仕事や作品はどんな感じ? みんなの役に立ててる?」とか。これから先に生成される記憶のすべてに夫がいて、夫と一緒に作り続けた創作物が世界にたくさん隠れていること。きっとそれが私の幸せな風景です。


社会が作った夫婦というルール。私を守ってくれている部分もあれば、面倒な部分もあります。平等ではないかもしれないし、古くなっている部分もあるかもしれません。それでも長い時間、みんながそのルールを使ってこの国は生きてきました。私もそのルールを借りて夫と生きていく道を選びました。


「一緒に働いて、一緒に生きていく。」


それはとても楽しい、思い通りにならない物語です。一緒に働くために日々仲良く過ごし、一緒に生きていくために一緒に悩む。たくさん話をし、たくさんの時間を共有する。ときどき、面倒が愛おしい。臆病にならずに思いきって面倒を愛してみる。思い通りにならなくても、それもそれで新しいのだと受け入れてみる。


好きになった人と結婚するのが恋人の時間で、結婚した人を毎日好きになっていくのが夫婦の時間です。夫婦の時間は長いですから。ふたりで努力して、人として思いやりのある優しい人に成長していきたいです。

■思い出したいものがたくさんある人生は素晴らしい

私たち夫婦は、よりたくさんの時間と経験を共有できることが喜びで、好きな人が働く横顔も家事をする背中も「おはよう」も「おやすみ」も「いただきます」もこの生活にはあります。今日も一緒に働いています。


たぶん、単純に、こういう生き方が私は好きだっただけなのだと思います。理由なんか本当になく、たまたまそうだった。そんな気がします。これは私という生き方のひとつのサンプルであって社会の正解ではないです。ただ、誰に聞かれても「いいもんですよ」とは言える生き方です。


「もしいつか、どちらかが遠くへ旅立つ日がきて、片方がひとりになっても。私たちはふたりで過ごした時間が多すぎて、思い出すだけでも結構大変だから、ひとりの時間はなんとか生きていけるかな。でも、やっぱり寂しいから一緒に長生きしたいね」ふたりで酔っぱらった帰り道、そんな冗談を言いながら歩いていましたが、私の本音です。思い出したいものがたくさんあれば、この人生は素晴らしい。それがひとりでも。ふたりでも。

さて、今回で「一緒に働いて、一緒に生きていく。」のコラムは最終回です。おつきあいして1年。結婚して3年。4年の時間の中から12本の物語を書いていたらついにネタ切れをしました。


なので、この物語は一旦ここで閉幕です。何年か経ってネタが貯まったら、どこかでゆっくり続きを書こうと思います。1年間たくさんの方に読んでいただき感謝いたします。いろいろなところで「読んでますよ〜」と声をかけていただき嬉しかったです。照れました。


書くことの楽しさを教えてくれたのはDRESSでした。ありがとうございました。このコラムが「こんな生き方もあるんだなぁ」という誰かのヒントになれば幸いです。


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この記事のライター

Illustrator / Art Director

1980年東京生まれ、北海道育ち。高校在学中にプロのイラストレーターとして活動を開始する。17歳でフリーランスになる。子ども向けの絵(NHKおかあさんといっしょの「黒ネコダンス」や「ながぐっちゃん」など)や女性向けの絵、アウ...

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