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「住む場所は個人の哲学を反映する」――はあちゅうさん×速水健朗さん対談・中編

かつて上京した人たちが住む場所といえば東京の西側が中心でした。しかし近年、以前は不人気だった東側、そして価格が高い中心部に人が流れつつあるよう。『東京どこに住む?住所格差と人生格差』を上梓した速水健朗さんと、現在東京都内で2拠点生活をする作家・ブロガーのはあちゅうさんに住む場所について語り合ってもらいました。前編です。

「住む場所は個人の哲学を反映する」――はあちゅうさん×速水健朗さん対談・中編

かつて上京した人たちが住む場所といえば、東京の西側が中心でした。しかし近年、「『引っ越しで人生は変えられる』――はあちゅうさん×速水健朗さん対談・前編」に出てきたように、以前は不人気だった東側、そして価格が高い中心部に人が流れつつあるよう。『東京どこに住む?住所格差と人生格差』を上梓した速水健朗さんと、現在東京都内で2拠点生活をする作家・ブロガーのはあちゅうさんに住む場所について、語り合ってもらいました。

■東京と田舎、コストがかかっているのはどっち?

:この本(『東京どこに住む?住所格差と人生格差』)を読んで思ったのは、私はここに出てくる会社勤めの人たちとは違って、場所にとらわれる仕事はあまりしてないので、東京に住む必然性がないんですよね。神奈川の実家を両親に売ってもらって、わざわざ都内に越したんです。なぜそこまでして東京にこだわっているのか、読んでいてすごくモヤモヤしました。

:そこ! 僕もそこが一番気になっていて、自分もどこに住んでもいいんだよね。ただ好き嫌いもあるし、逆に地方に住む必然性がないから住んでいないだけなんだけど。はあちゅうさんの中に答えはあります?

:刺激の中にいたいんだな、っていうのと、あと会える「人」ベースだと思いました。でもイケダハヤトさん(高知に移住したプロブロガー)の生活をnoteのマガジンで定点観測していると、たまにすごく負けた気になるんですよ。

私は東京が好きで住んでるんですけど、彼は田舎でしか思いつかないようなことをどんどんやっているんですよね。私は東京に住むのが好きすぎて、他の土地で住むことなんて考えないから、そんな私ってすごく柔軟性がないんじゃないかと。そう思わせるイケハヤさんがスゴいんですけど。

:都市から地方に移住して生活している人の取材もしたけど、逆に彼らはそこで何かをしていることをアピールしないと存在意義がなくなるから大変だなと思ってしまいました。

:イケダハヤトさんのブログを見ていると結構贅沢な暮らしをしているのに、家族の生活費が月々十数万円しかかかっていないって。その倍以上の家賃を払ってまで、私が東京にいたい理由はなんなんだろうかと、アイデンティティを問われている気がしてるんです。

:生活費や家賃だけみると田舎のほうが安いように見えるけど、本当にそうかは疑問があります。たとえば地方生活だと、クルマが必需品になる。僕はクルマ好きだから気になるんですけど、イケダハヤトさんが乗っているプラグインハイブリッドのオフロード車って、輸入車の高級セダンくらいの値段ですし。田舎だと、夫婦で住むには1人1台クルマが必要だから、ちょっとそのコストだけ考えても、家賃とのトレードオフにしても高い気がする。

:その視点はなかったです! そっか、見えないコスト……そういうものもあるかもしれないんですね。

:都市のメリットは、遠くまで行かなくてもおいしいものを食べに行けること。距離だけじゃなく、お店に関する口コミが入ってくるかどうかもある。田舎だとずっと同じメンツで、同じ店で飲んで……おいしいと言われる店の情報も10年前から情報が変わってなかったり(笑)。

:速水さんの話を聞いていたら、東京に住む良さを取り戻してきた感じがしますね。

:都市の美味しいお店は、それこそひと月前とかでも予約できないとか混みすぎているというデメリットはありますけど。

■住む場所の選び方は哲学思想に似ている

:サイバーエージェントの取材をしてるんだけど、そこで働く人は住宅補助が出ているから、みんな渋谷界隈に住んでいるんだよね。住む場所と働く場所が一緒になるってことは、飲む場所も一緒になる。全部が1ヶ所で収まってしまうというのが、通勤都市だった東京都は違う、新しい東京像。通勤だけで見ても、東京の変化っておもしろいんだよね。なんで、この人たちは通勤しないんだろうって。

:通勤しないことに慣れたら、もう通勤に耐えられない体になるんだなって思いました。昔は地元のたまプラーザから渋谷までラッシュアワーに通ってたんです。でも昨日半蔵門線に乗ろうとしたら、4〜5分くらい遅れたんですよね。それですごくイライラして。久しぶりに、これが通勤の感覚だったわ、と思い出しましたね。

:住む場所の選び方って、もっとよく考えるべきテーマですよね。たとえば、通勤をしない、会社の近くに住むというのは、高い家賃とトレードオフで、浮いた時間を自分の時間に使うということ。安いからそこに住んでいるというのと、自分への投資でそこに住んでいるのかでは、随分と意味合いが違ってくる。

そんなことをこの本で一番書きたかったんですよね。「引っ越してみてはどうですか」「住む場所はいつでも変えられますよ」と伝えたかった。ちなみに、はあちゅうさん、これから引っ越そうとは考えていますか?

:ありだと思うんですけど、物件ベースですね。あまり今のライフスタイルを変えたいとは思っていません。ただ外国の方と結婚した友人から、将来は縁もゆかりもないフランスでワイン農場をやろうという話を夫としている、という話を聞いて、あまりにグローバルで、人生の選択肢が多くて素敵だなと思いましたね。

:すごいな、それも(笑)。

:そういう話を聞いていると、物件次第でとか言いながら引っ越しができない私は、心の柔軟性がないんじゃないかという気がしてきましたね。

:でもどこにいてもできる仕事だから、1ヶ月後にはニューヨークにいました、なんてことはあり得るの?

:NYはないけど、大好きな香港ならあり得ますね。実際、2年間住んでるんですけど、たぶん合ってるんだと思います。適度に人に興味がない香港人は、東京に似ていると思いますね。

あと、あそこにいると完全に外国人なので、悩みを引きずることがないんですよ。いざとなったらここを離れればいいだけだって思うことで悩みがすごく軽くなるので、香港にいたころは気楽さがありました。ここに属してないっていうのは、ある意味で武器になるなと思いましたね。

:人生のリセットという意味では都市を変えるって最大のリセットだからなぁ。アメリカだと普通に、都市間移住があるんだよね。西海岸から東海岸へとかもある。でも日本だと地方都市から地方都市への移住例は、かなり少ない。会社の転勤ならあるけど。多いのは、地方から大都市へという移住ばかり。もうちょっと、好きな都市に住むみたいな選択肢が出てくるとおもしろいかなとは思いますけど。

■東急線ユーザーと中央線ユーザーは交わらない?

:ニューヨーク在住の同業ライターから聞いた話なんだけど、ブルックリンとマンハッタンに住んでいる人ってあまり付き合わないんだって(笑)。たとえば電車で1駅だとしても、なんとなく違うという、階級意識のようなものがあるみたいで。

:へえ、そうなんですね。

:東京の中で付き合う、付き合わないという感覚はないような気がするけど、東急線沿線に住む人と中央線沿線に住む人は合わない気がする。

:その感覚、わかります。私は住む場所って価値観がかなり反映されていると思っているので、住む場所や遊ぶエリアが違う人とは恋愛に発展しづらいんだろうなと。

:食べ物の趣味や読む本の違いとかに、住む場所が結構関わっている感じがする。

:そうですよね。私は下北沢や吉祥寺に住んでいる人とはなかなか付き合えないなと思っていて。あのエリアに住んでいる人って、自分とは価値観の置き方が全然違う気がしてるんです。

:じゃあ、どのあたりだったら合いそうな感じ?

:私になじみのある恵比寿、渋谷、六本木、銀座とかですね。ただ私は他の人とは違って、なじみのない場所に対する反応が強く出るタイプなのかもしれません。

:東京の広さって、文化が違うし距離も遠いんだよね。東京生まれの人ほど、自分に縁のある場所以外は行ったことがないっていう人は多いし、そもそも東京が広すぎてスカイツリーも「私が住んでいる東京と違うんじゃないの」というくらい別の街の意識。

ただ、いろいろ取材したなかで、中央線は女性に人気がない。「中央線沿いに住んでいる人は苦手」ってみんな言うのね、おもしろいくらいに(笑)。東京は街ではなく沿線にキャラクターがついているので、なんとなく植え付けられた沿線に対するレッテルやイメージが本質性をもってしまう、みたいなところはありますね。

(後編へつづく)

前編https://p-dress.jp/articles/2006
後編https://p-dress.jp/articles/2008

構成=ミノシマタカコ

はあちゅうさん
ブロガー・作家。慶應義塾大学法学部政治学科卒。在学中にブログを使って、「クリスマスまでに彼氏をつくる」「世界一周をタダでする」などのプロジェクトを行い、女子大生カリスマブロガーと呼ばれる傍ら、レストラン、手帳、イベントをプロデュースするなど、幅広く活動。2009年電通入社後、中部支社勤務を経て、クリエーティブ局コピーライターに。2011年12月に転職し、トレンダーズで美容サービス、動画サービスに関わる。2014年9月からフリーで活動中。
月額課金制個人マガジン「月刊はあちゅう」、オンラインサロン「ちゅうもえサロン」「ちゅうつねサロン」などを運営。著者に『疲れた日は頑張って生きた日 うつ姫のつぶやき日記』(マガジンハウス)、『とにかくウツなOLの、人生を変える1か月』(KADOKAWA/角川書店)、『自分の強みをつくる』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)『恋愛炎上主義。』(ポプラ社)『半径5メートルの野望』(講談社)など。雑誌、オンラインメディアなどでの連載多数。催眠術師資格を保有する。

ブログ:http://lineblog.me/ha_chu/
Twitter:@ha_chu

速水健朗さん
1973年、石川県生まれ。ライター、編集者。コンピューター誌の編集を経て現在フリーランスとして活動中。専門分野は、メディア論、都市論、ショッピングモール研究、団地研究など。TOKYO FM『クロノス』にMCとして出演中。『東京どこに住む? 住所格差と人生格差』『東京β: 更新され続ける都市の物語』など著書多数。

Twitter:@gotanda6

DRESS編集部

いろいろな顔を持つ女性たちへ。人の多面性を大切にするウェブメディア「DRESS」公式アカウントです。インタビューや対談を配信。

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