行ったり来たり

南北8000キロを3週間ごとに往復。日豪「出稼ぎ生活」の意外な発見とは?

行ったり来たり

 ほぼ3週間ごとにオーストラリアと日本とを行き来する暮らしをしていると、大変なことも便利なこともある。
 
 乗り換え込みでおよそ14時間のフライトは、ほとんど寝ているので案外大変ではない。でも機内が冷蔵庫並みに寒いときがあるので、年中ダウンケットが手放せない。気流が悪い時は不安になるが、飛行機はどんなに揺れてもそれが理由で落ちることはないらしい。あんまり不安なときは翼を見ると怖くなくなることがわかった。揺れるときはけっこう翼がしなっているので、ああ、なるほど揺れるわけだなとわかる。なんだかわからないけど揺れるよりは、はるかに納得感があっていい。

 幸い、時差は1時間しかないので時差ぼけはゼロだが、季節は逆だ。私が住んでいる西海岸のパースは温暖な気候で涼しい海風が吹いているのだが、夏はたまに40度近くになる。摂氏10度の真冬の東京から38度のパースに行ったりすると、さすがに3日ぐらいは夏バテで具合が悪くなる。

 でもそれ以上に辛いのは、1月から5月まで日本のスギ・ヒノキの花粉症で、8月から11月までパースでまた花粉症になることだ。ずいぶん激烈な症状だなと思ったら、オーストラリアヒノキという針葉樹が、自宅の庭に生えていることに気づいた。それ以外にも、年中なんかの花粉が飛んでいて、抗アレルギー剤が手放せない。まあ、それは日本も同じか。ちなみにインフルエンザの予防接種も日本とパースで年2回だ。
 
 便利なこともある。今回、3月上旬に日本に戻るときにふと、今年の冬はショートブーツを買おうと思って買っていなかったことを思い出した。3月はロングブーツじゃ重たいけど、まだパンプスでは寒いという微妙な時期。しまった、買っておけばよかったなと思ったのだが、もう日本では春物しか売っていない。
ところがパースでは、まさに秋物が出始めたばかり。スチュアート・ワイツマンの新作が出ていたので、買って帰ることができた。新作といっても北半球の半年遅れなのかもしれない。
 
 服も、パースの2月のサマーセールで買った服を日本に持っていくとちょうどこれから着られる。もっとも、パースでは夏はすぐにビーチに行けるようなリラックスした服が多いので、おしゃれな人の多い東京ではご近所着かもしれない。そこらじゅうでモード誌に載っている服が売っている東京ってすごいな、と実感する。パースは1年の3分の2はビーサンで、年齢を問わず、デニムのショートパンツやリゾートっぽいサマードレス。男性はサーフブランドのTシャツと短パン。ブランド物を持っている人も、中心部でたまに見かけるぐらいだ。だが物価は高いので、パースでも人気のジェームス・パースのTシャツなんかは東京で買っていった方が安い。

 化粧品は何と言っても東京の免税店が一番安い。乗り換えで寄るシンガポールや香港よりも、もちろんパースよりも安い。東京の免税店で5500円のリップカラー2本組が、香港やパースでは6000円以上する。為替にもよるが、やはり東京はブランド物も化粧品も他より安いので、アジアから旅行者が大挙して訪れるのもわかる。
 
 気持ちの問題でいえば、全然違う場所を行ったり来たりするのは気分転換になっていいものだ。街の風景も、鳥の声や海の色も、季節も言葉も何もかも違う。なんだか人生を二つ同時に生きているようで面白い。仕事も、日本では人前に出るものが多く、パースではひたすら部屋で執筆しているので全然違う。私は飽き性なので、同じ場所に3週間もいると飽きてくる。東京とパース、いつもの居場所を交互に、というのがちょうどいいのかもしれない。

 ふと、二股恋愛をしている人ってこういう気分なのかなと思うことがある。全然違うタイプの人と同時進行で付き合うと、いつも新鮮な気持ちでいられるのかもしれない。だけど色々工夫も必要だろう。嘘がばれないようにするのにはかなりエネルギーを使いそう。そんな気苦労で恋に疲れて、だけどやっぱり一人じゃ飽き足りない人は、地方に農地でも借りて、田舎と都会を行ったり来たりする暮らしをしてみたらどうだろう。案外それで満足して、あぶない恋から足を洗えるかも。

小島 慶子

タレント、エッセイスト。1972年生まれ。家族と暮らすオーストラリアと仕事のある日本を往復する生活。小説『わたしの神様』が文庫化。3人の働く女たち。人気者も、デキる女も、幸せママも、女であることすら、目指せば全部しんどくなる...

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