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髪を切らなくてもきれいに。カリスマ美容師が見せる希望の言葉

自分の手で未来を切り拓き、いまここに灯る希望を見せてくれる人を紹介する連載。第三回のゲストは、著書に「あなたは髪を切らなくても変われる」を持つ美容師・小西恭平さんです。美容室と上手に付き合うコツから、小西さんが変えていきたい業界の未来まで。前向きな言葉が詰まっています。

髪を切らなくてもきれいに。カリスマ美容師が見せる希望の言葉



<小西恭平プロフィール>
1988年11月20日生まれ。株式会社COA代表取締役。
月間新規指名数500人以上。全店指名数、売上共にNO.1。自身初の著書【あなたは髪を切らなくても変われる】出版。ライフスタイルに合う再現性の高いカット技術に定評がある。女優,モデル,タレントなど数多く担当し信頼のある最高の技術と実力派。親身なカウンセリングで髪質や骨格などのお悩みを改善し自分史上最高の仕上がりを! 国内海外でセミナー講師,CM雑誌等ヘアメイク担当。

■気分が暗いときこそ、髪型を変える

僕が働く美容業界は、新型コロナウイルスで少なからず打撃を受けました。外出の機会が減ったり、イベントがなくなったりして、多くの美容室からお客さまが遠のいているとよく聞きます。

でも、気分が落ち込んでいるからこそ元気になりたくて、髪を切りに来るお客さまもいらっしゃるんです。きれいに髪の毛を整えて、新しい自分に出会えれば、それだけでテンションがぐっと上がる。そんな方々のお手伝いをするのは、僕たち美容師の使命だと思っています。

Instagramで注目していただいたこともあり、僕のお客さまは20代の方が中心。だけど、その方々がご両親や職場の方を紹介してくださって、近ごろは40~50代のお客さまも増えてきました。周りの人に美容師を紹介するのって、ちょっと勇気がいりますよね。それでも紹介していただけているのは、それだけ僕を信頼してくださっている証だなと感じています。

■持っている素材を生かすのが、素敵な髪型のコツ

40代以降の大人の女性に人気な髪型は、断然ショートです。年齢を重ねると、髪が細くなったり白髪が増えたりするのは自然なこと。それでも素敵に見えるように、髪の毛を短くする方が多いんでしょう。たとえば女優の松嶋菜々子さんも、若い頃のきれいなロングヘアをばっさり切ってショートヘアにされていますが、とてもよく似合っていますよね。ショートヘアのいいところは、若々しく元気に見えることです。

もちろん、大人になってもずっとロングヘアがいい方には、ご自身の骨格や髪質に合わせて「似合うロング」をご提案します。長さだけでなく、テイストも同じ。「かっこいい」「かわいい」「クール」「キュート」など、お好みの雰囲気を伺って、うまく似合わせていくのが僕らの仕事です。

ただ、お顔のテイストが「かわいい」よりも「かっこいい」方っていらっしゃいますよね。でも、ご本人はかわいい髪型を希望されている。そんなときは、希望と反するかもしれないけれど、そのかっこよさを追求する髪型をおすすめすることが多いです。

生まれ持ったものを最大限に生かすことは、自分を魅力的に見せるコツ。髪を切る目的が「素敵になること」だったら、思いきって路線を変更するのもひとつの手なんです。

以前、天然パーマがとても強い60代のお客さまがいらっしゃいました。ストレートロングに憧れがあり、僕のところに来るまでは、別の美容室で縮毛矯正やブローを欠かさずにいた方です。でも、僕はその方の髪の癖がとても素敵だと思ったので、ロングからショートへのチェンジをおすすめしました。

お客さまは半信半疑でしたが、バシバシ長さを切って、癖を生かしたショートヘアに変身。そうしたらとてもよくお似合いで、身支度もたった5分、オイルをなじませればいいだけになりました。これまでは毎朝30分間、ストレートアイロンを当てないといけなかったのに、です。その方はとても喜んで、いまも僕のところに通ってくださっています。

生まれ持ったものを生かすことができれば、手間もかからないし、よく似合うし、とってもいいと思いませんか? もちろん、僕のご提案を聞いても気持ちが変わらないくらい強いご希望がある場合は、リクエスト通りに対応させていただきます。それだけ意志がはっきりしているのも素敵なこと。なんだかんだ言っても、自分の好きなスタイルが「正解」です。

■「できる」「できない」は気にせず、自分の希望を見つけてみよう

ただ、せっかく美容室に行っても、うまく自分の希望をオーダーできないという方は少なくないみたいです。僕はいつも、お客さまがどんなふうになりたいのか、気持ちを聞くことから始めます。“似合わせヘア”を得意としているけれど、初めて会った方に一番似合うヘアがなんなのかは、正直わからない。今日着ている洋服やメイクは普段のイメージと違うかもしれないし、これを機に大幅なイメチェンがしたいのかもしれない――。

そんなときに美容師にとってありがたいのは、カラーやカットで好きなスタイルの写真を、3種類ずつくらい持ってきていただくこと。Instagramやネットで検索したものでかまいません。この時点では、現実的な「できる・できない」も気にしなくてOKです。そうすれば、僕らはお客さまのお好みをもとに、細かい部分を調整して、しっかり似合わせていきます。

このやりとりは、お客さまにとってリスクヘッジでもあるんですよ。初めての美容師に、髪型の全てをゆだねるのはちょっとリスキー。「似合わせヘア、お任せで」というオーダーをいいことに、自分の好みに仕上げてしまう美容師だっていると思います。それで仕上がりが気に入らなかったとしても、最初にお任せしてしまった以上、文句を言うわけにはいきません。自分の逃げ道を確保しておくためにも、ある程度はオーダーすることをおすすめします。

■美容室には来なくてもいい。でも、ヘアケアだけはしてほしい

2020年6月に『あなたは髪を切らなくても変われる』という本を出しました。このタイトルの通りで、僕は、必要がなければ美容室にも来なくていいと思っています。ご予約のお客さまでも、なりたいスタイルを伺った結果カットが不要だと思えば、なるべく切りたくはありません。アレンジの方法だけをお教えして、そのまま帰っていただくこともあります。本当はいらないカットやパーマを押しつけられて、出費だけが増えてしまっては、お客さまにとってプラスにならないからです。

正直な話、新人の頃は売上を増やすために、なるべくメニューの追加をおすすめしていた時期もありました。意識が変わったのは、指名で来店してくださるお客さまが増え、自分ひとりでは対応しきれなくなってきたとき。お客様の目線で考えてみれば、ヘアに自信を持てさえすれば、しょっちゅうカットやカラーを重ねる必要はないと思ったからなんです。

それに、SNSから予約されるお客さまは、たいてい「SNSで有名な小西さんのお店だ」という感じで、とても緊張していらっしゃいます。そんなときに僕があれもこれもメニューを勧めたら、きっと断りにくいですよね。だから、きちんと素敵なヘアに仕上げつつ、不要なメニューはバッサリ外す。そうするようになったら、もっとお客さまが増えました。

お客さまに、無駄な出費はさせたくない。それは前提にあるけれど、毎日のヘアケアには、もっとお金や手間をかけていただきたいと思っています。

化粧品にはお金をかけるのに、ヘアケアはあまり意識したことがないって方って多いんですよね。なんとなく、市販のシャンプーやトリートメントを使い続けている方ばかり。でも、髪はお肌と一緒です。お金や手間をかければ、ぐっと健康に、美しくなります。髪の毛にツヤがあるだけで、その人の魅力はさらに大きくなるはずです。

とくに年齢を重ねると、髪の毛は細くなり、乾燥が目立つようになります。ハリがなくなると、湿気の影響を受けてまとまりにくくもなっていく。そんなときこそ、目元にちょっといい美容液を使うように、いいトリートメントを試してみてほしい。乾燥防止で乳液を塗るように、ドライヤーで乾かす前にオイルをつけてみてほしいです。

もちろん、たくさんのお金を遣ってほしいとは思っていません。髪が長くてさほどメンテナンスがいらない方なら、美容室に行く頻度を減らして、そのぶんの予算をケア製品にあててみてください。いまあるお金を上手に割り振って、無理のないようにケアしていただきたいです。

■「休めない、給料安い、残業多い」の美容業界を変える

2021年の秋、僕は仲間と一緒に、銀座で40席以上ある大型サロンをオープンさせます。在籍する美容師はインスタグラマーも多く、業界内では注目してもらえている新店です。だからこそトップを走れると思うし、美容師業界のシステムを変えていけるのではないかと考えているんです。トップランカーがお金儲けばかりに執着してしまえば、そこに続く若手も同じような考え方になってしまう。けれど、“いい店”をつくることに力を入れていれば、みんなも後に続いてくれる気がして。

例えば、美容師は給料が安くて、休みがなくて、残業が多いといわれています。さらに店内の人間関係がうまくいかなかったりして、実際に、退社率もすごく高い。僕たちは今後、この全てを改善したいと思っているんです。

僕らの会社の休みは月8日で、残業はさせません。店でも「毎日練習しなくていいよ」「疲れたときは早く帰りな」と伝えています。ただ、みんなモチベーションが高いので、残って練習しているんですが……。でも、それは昔みたいに強制させていることではないんです。僕自身、新人のころは言葉遣いなどのマナーを知らなかったこともあり、同期のなかで一番怒られていたけれど、これからの新人が同じ苦労をする必要はないと思っています。

無駄に人間関係で悩むこともないように、僕らの会社は悪口・陰口は絶対禁止。どうしても言いたいことがあるなら本人に。本人には言えないことなら、僕たち経営陣に相談してもらうようにしています。

給料も美容業界にしては高いほう。アシスタントに対しても歩合をつけるので、頑張り次第で毎月数十万を稼ぐ子もいます。スタイリストになったあとは歩合率を引き上げるから、年収1000万も普通にいけるはず。店舗の売上を、経営陣だけでなく、営業を支えてくれるメンバーにきちんと分配しているんです。自分が頑張ったぶんが、ちゃんと自分に還元される仕組みをつくれば、業界全体の風通しがよくなる、そうすれば、美容師のきついイメージもなくなって、みんな楽しく働けるんじゃないでしょうか。

もし、それでもスタッフが悩むことがあれば、全力で一緒に悩みます。でも、睡眠不足になるとメンタルがやられちゃうから、めちゃくちゃ悩んでいる子に対して一番言うのは「今日はここまでにして、早く寝て」ですね。「身体動かしな」「筋トレしてアドレナリン出して」もよく言います。頑張るのはいいけど、ただ頑張りすぎてもダメ。心身を健康にしておかないと、続かないですから。

■ハサミを手に、ヒーローは今日も行く

最近は、有志の仲間と地方出張カットも始めました。「Instagramを見て気になる美容師さんを見つけても、東京まで行くのは大変」って声、よく聞くんです。だから、こないだは仙台まで行きました。コロナによって混乱している状況が落ち着いてきたら、海外にも行ってみたいですね。好きな美容師さんを求めて地方からお客さまがいらっしゃるのではなく、美容師がお客さまのもとへ足を運ぶ形があってもいいですよね。

ただ、美容師にとって、時間も削られるし売り上げも下がる地方出張には、あまりメリットはありません。でも僕は、心から納得できる自分に出会える機会を少しでも増やしていきたいし、そういう人が地方にも増えていったらうれしい。腕のいい人が地方でカットやカラーをすることで、髪型の素敵な人が増えれば、きっと地方のサロンも盛り上がるはずです。「こっちのお客さまをとるな」と思われるかもしれないけれど、美容師みんなで力を合わせて、たくさんのお客さまをきれいにしていけばいいと思います。

取材・文:菅原さくら
写真  :宮本七生

菅原 さくら

1987年の早生まれ。ライター/編集者/雑誌「走るひと」副編集長。 パーソナルなインタビューや対談が得意です。ライフスタイル誌や女性誌、Webメディアいろいろ、 タイアップ記事、企業PR支援、キャッチコピーなど、さまざま...

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