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人に委ねながら、もっと先へ。高畑充希が周りに流されながらたどり着いた場所

くっきりと濃い線で、輪郭を描かれた人だ。この揺るぎない存在感で、さまざまな役柄に命を吹き込んできた。5月公開の映画『明日の食卓』に出演する高畑充希が、母親を演じて感じたこと。コロナ禍で見つけ出した希望について、聞いた。

人に委ねながら、もっと先へ。高畑充希が周りに流されながらたどり着いた場所

高畑充希は、小学生のころから舞台女優を志していたという。コーラスや声楽を学び、数々のオーディションに挑戦。ホリプロに所属し、高校進学を機に大阪から上京したあとは、ミュージカル『ピーターパン』で8代目ピーターパンも務めた。まっすぐな努力を積み重ねて、みずからの人生を切り拓いてきた人だといえる。

その意志の強さは、佇まいにもにじんでいるように感じられた。なんというか、線の濃い女性だ。決して主張していないのに、彼女の周りだけくっきりと、空気がクリアに見える。けれど、大切にしている行動指針を尋ねると、意外な答えが返ってきた。

「周りに流されるようにしています。好きなことが昔から明確だからか、こだわりが強いように見られがちなんですが……意外となんにも考えていない。だけど『これは楽しそうだ』とか『あれは面白そうだから参加したいな』とか、そういう“感覚”はあるんです。だから、基本はそのセンサーに従っていて。でも、周りの誰かに別の意見を提案されたら、そうなのかもってすぐ思う(笑)。結構ブレブレなんですよね」

だから周りの人を大切にしているのだと、続ける。

「いい“気の持ちよう”の人と一緒にいるようにしているんです。私をいい方向に向けてくれたり、気づきをくれたりする、ポジティブな人がありがたい。自分が大切にしたい部分はいまのところ揺らぐことなくいられているけれど、具体的なやり方などにはそこまでこだわりがないぶん、影響を与えてくれる周りの人はとても大切です」

確固たる核があるからこそ、周囲からさまざまなものを上手に吸収して、みずからを高めていけるのだろう。5月28日(金)に公開となる映画『明日の食卓』では、『楽園』『糸』などの瀬々敬久(ぜぜ・たかひさ)監督と、はじめて仕事をした。

「瀬々さん、すごく映画が好きな方なんだなって思いました。演技指導をなさる、というよりは、モニターをキラキラした目でずっと見てらっしゃるんです。そのうちモニターを食べちゃうんじゃないかっていうくらい、ずっとくっついている感じ。年に何本も撮っているすごくお忙しい方なのに、映画を撮ることにそれだけのエネルギーを注いでいらっしゃって……すごいバイタリティですよね。その映画愛についていこうというスタッフさんがたくさん寄り添って、タイトな現場を乗り切っていらっしゃると思うと、すごい世界でした」

■年齢を重ねて、少しずつ周りに頼れるようになってきた

高畑が演じたのは、大阪に住むシングルマザー・加奈。撮影は約1週間という怒涛のスケジュールで進められ、集中力が途切れる暇もなかったという。

「私も東大阪の町工場が多い街で育ったし、シングルマザーの方も周りにたくさんいたので、加奈は他人という感じがしなかったです。経験したことのない“母親”を演じる難しさはあったけれど、大阪という空気の懐かしさや記憶に助けられました」

加奈はいくつものアルバイトを掛け持ちしながら、ひとり息子を育てている。息つく間もないほど忙しく、誰にも助けてもらえないのに、息子の前では笑顔を絶やさない。その強さと危うさを、高畑の芝居が際立たせた。

「加奈は、何事も自分が解決しなくちゃと思っていて、誰かに頼るのが下手な人ですよね。自分で突破口を見つける以外の方法を知らない感じは、私にもよくわかりました。20歳前後で、まだエネルギーがあふれているころは、私もそういう思考回路だったような気がする。でもいまは年齢を重ねてきたからか、少しずつ周りに委ねられるようにもなってきました」

10代のうちからいくつもの舞台を踏み、21歳でNHK連続テレビ小説『ごちそうさん』に出演してからは、破竹の勢いだった。高畑はそれからわずか3年のうちに、数々のドラマや映画で主演を務めるようになる。しかしその状況は彼女にとって、プレッシャーにもなった。

「主演はどしっと構えていなくちゃいけない人、っていうイメージがあったんです。でも、私は急に主演をやらせていただくようになったので、泰然とした主演俳優のイメージに自分がまったく追いついていなくて。どうしよう、自分で何とかしなくちゃって、悩んだ時期もありました。

でも、そういう機会が増えるほど、不思議と周りに頼れるようになっていったんです。周りの人にうまく頼ったり、任せたりしたほうが、自分ひとりで背負い込むよりもずっといい作品ができることがわかっていった。おかげでいまは主演になっても、いい意味で気楽に臨めるようになりました」

■10代のうちにたくさん転べて、いまがある

本作に出てくる母子は3組。菅野美穂演じる留美子はフリーライターで、やんちゃ盛りの男児をふたり育てている。尾野真千子演じるあすみは、立派な家を切り盛りしながら利発な息子を育てる専業主婦だ。家庭に抱える事情も、家族関係も、もちろんそれぞれに違っている。

「加奈を演じるなかで、加奈と子どもは『守るもの/守られるもの』みたいに明確な関係じゃないんだろうなと感じました。加奈は一生懸命働いて子どもを養ってはいるけれど、守ってやる、みたいな意識はないというか……。ほか2組の親子に比べたら、ちょっと目線が近い、友達みたいな感覚のある親子関係をイメージして演じました」

高畑自身の母は“溺愛タイプ”だった、と語る。

「母は私のことをすごく愛してくれていて、その分とても心配性な人です。たとえば、私の前になにか障害物が落ちていたとしたら、それを拾ってくれるタイプ。父は『障害物があるなら、ぶつかって転んで学べ』という人で、私もそのスタンスなんですが(笑)。だから、15歳という早いうちに地元を出てしまったことで、結果的にたくさん転べたのはよかったなと思っています。10代のうちにちゃんとたくさん挫折をしておけて、よかった」

「私の近しい人も子どもを産んだりしていますけど、子どもとの距離感って本当に人それぞれですよね。べったりの人もいれば、子どもだけど他人だからってスタンスの人もいる。でも、パートナーシップと同じで、唯一の正解はない気がしています。私がもし母親になったら、ある程度距離を持って、子どもの好きなようにやらせてあげたい。私自身が自由にやらせてもらってきたから、余計にそう思います。でも、実際に産んでみたら、心配で口うるさくなっちゃうかもしれないけど……(笑)。そればっかりは経験していないことだから、わからないですね」

作品に絡めて親子の関係を語るとき、高畑が「私は子どもを持ったことがないので」「想像でしかないのですが」と、丁寧に前置きするのが印象的だった。知らないことを決めつけない。一方的に語らない。その優しい想像力が、彼女の演技の深みを裏打ちしているように思える。

■いままでは自己満足だけだった。これからは、誰かのためにも

2020年に入ってからというもの、社会はいままで以上に閉塞感を抱えたままだ。エンターテインメントの業界はなおさらで、高畑が出演予定だったミュージカル『ミス・サイゴン』は全公演中止。そのほかの撮影にも、さまざまな制約が生まれている。だからこそ、彼女にいま見えている希望を尋ねてみた。

少し考えて、まずは自分の変化を話しはじめる。

「……いままで私は、人に知ってもらいたいとかっていう欲望がまったくないまま来ていたんです。お芝居が面白くてやっていたら、いろんな人が見てくださるようになった、という感じ。だから、20代のうちはその感覚と立場の変化に違和感をおぼえていたりもしたんですね。だけどコロナ禍があって、人に知ってもらっている自分が何かをやることで、誰かの役にも立てるんだって感じたんです」

2021年3月から、新型コロナウイルス感染拡大防止のために細心の注意を払いながら、ミュージカル『ウェイトレス』で主演。明るくポジティブな作品は、こんな時世だからこそ余計に多くの観客の胸を打った。

「舞台を観てくださった方々から『元気になった』とか『毎日しんどかったけれど、この思い出でしばらく明るい気持ちでいられる』とか、うれしい感想をダイレクトにいただくことが多くて……そこで、観てくださる方々のために仕事をするっていうシンプルな形があるのかと、気づいたんです。これまでは究極の自己満足で生きていて、誰かのために仕事をするって部分が見えていなかった。人の視線ばかり気にしているとストレスにもなる仕事だから、あえてそこを排除していたのもあるんだけど、逆にモチベーションにできればすごくいいなって」

一つひとつの仕事と真摯に向き合ってきた先で、また、新しく見つけたやりがいだ。

「誰かが元気になるためのエンタメを作りたいな、と思うんです。ただ好きだから、という理由でお芝居をしてきたけれど、そもそも、観てくださる方々あっての仕事ですもんね。そういう感覚は自分のなかでは新鮮なので、なんだか希望だなって思っています」

#クレジット
Text/菅原さくら
Photo/タケシタトモヒロ
Stylist/Shohei Kashima(W)
Hair&Make/根本亜沙美
編集/小林航平

ビスチェ¥10,000,スカート¥14,000/すべてパブリック トウキョウ(パブリック トウキョウ 渋谷店),ピアス¥12,000/ユーカリプト(ユーカリプト),リング(人差し指)¥17,273/ガガン(ガガン),リング(中指)¥9,000/ソワリー(ソワリー),その他スタイリスト私物

#映画情報
映画『明日の食卓』
5月28日(金)全国ロードショー
WOWOWオンデマンド、auスマートパスプレミアム、TELASAにて、6月11日(金)より配信開始
出演:菅野美穂 高畑充希 尾野真千子 ほか
監督:瀬々敬久
配給:KADOKAWA WOWOW
公式サイト:https://movies.kadokawa.co.jp/ashitanoshokutaku/

菅原 さくら

1987年の早生まれ。ライター/編集者/雑誌「走るひと」副編集長。 パーソナルなインタビューや対談が得意です。ライフスタイル誌や女性誌、Webメディアいろいろ、 タイアップ記事、企業PR支援、キャッチコピーなど、さまざま...

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