1. DRESS [ドレス]トップ
  2. ライフスタイル
  3. 秋元才加が重い枷を外すとき「私は私としてここにいる」

秋元才加が重い枷を外すとき「私は私としてここにいる」

社会のことや人生のこと、これからの生活のこと、健康のこと。暗いニュースがとびかう毎日では、先のことを考える気になれないときもあるかもしれません。でも、一歩ずつ未来を切り拓こうとしている人も、確かにいます。いまここに灯る希望を見せてくれる人を、紹介していく連載。第一回のゲストは秋元才加さんです。

秋元才加が重い枷を外すとき「私は私としてここにいる」

■SNSに「使われる」のではなく「使える」ようになりたい

新型コロナウイルスによって、世の中はどんどん変わってきています。もちろん、私もそう。そのなかでもひとつ大きく変わったのが、SNSとの向き合い方です。

2020年の春、海外のさまざまな国や地域がロックダウンを実施しました。でも、こもりきりの生活のなかで、家族と歌を歌ったり、踊ったり。ロックダウン中も楽しく生きようというユーモアにあふれた動画も、たくさんアップされました。

それを見ているうちに、なんだか元気が出てきた私。
「私もなにかやってみようかな」と、軽い気持ちでダンス動画の投稿をはじめました。日本では、まだ緊急事態宣言が出る前のこと。うれしい反応もたくさんいただくようになり、せっかくだから緊急事態宣言が明けるまで、毎日動画をアップしよう! と決めたんです。

ただし、スタートは、本当の本当にただの思いつき。だから、それをきっかけにこんなにまじめな取材のオファーを受けたりすると、なんだか申し訳なくなってしまいます(笑)。

でも、理由をこじつけてみれば、「コロナで仕事が減るだろうから新しい発信をはじめてみよう」「日本がどんよりしているから、バカな私を見てくすっと笑ってほしい」「少しでも、肩の力が抜ける瞬間がつくれたら……」みたいな気持ちは、少なからずあったように思います。
飽き性で、この仕事しか続いていることがない私だからこそ、毎日なにかを続けてみようという意識もありました。せっかくの機会にこつこつと日課をやり遂げられたら、どこか成長できるかもしれないと期待もしていました。動画を観てくださる方々は、日を追うごとに増え、なんだか不思議な感覚でした。

それと同時に、いままで巡り合わなかったタイプの方々と、インターネット上で接する機会が増えました。SNSはお互いがとても気軽につながって、相手にタッチできるもの。だけど気軽がゆえに、めちゃくちゃ恐ろしい落とし穴が隠れているのかもしれない、と思うようになったんです。

たとえば、Twitterの140文字では、とても物事を伝えきれません。でも、受け取るほうは、140文字だけですべてを受け取ろうとします。連投ツイートから一部だけが拡散されれば、一部だけでは言葉足らずの内容が「真実」かのようになってしまう。誤解のないように発信することを心がけていても、なかなか伝えきることができないんです。思いがけない解釈をされたり、分かり合えなさを感じたりすることが、しばしばありました。

だからこそ、きちんと割り切って。SNSに使われるのではなく、使えるようにならなくちゃいけないと、意識が変わったのです。SNSを適切に使うためには、なにが正しい情報なのか判断する力や、自分のメンタルに与える影響を考える力も必要。場合によっては、SNSから離れることも選択できたほうがいいでしょう。そんなふうに考えるようになったのは、ある意味で私の成長だったと思います。

■新人類に進化したばかりで、まだヨチヨチ歩きだけど……

そんなふうに価値観の変わることを経て、秋元才加は、“新人類”に進化しました(笑)。守るべき部分を守れるように、心の盾が少しずつ固くなり、どんどん強くなっているのを感じます。もう、以前の自分ではありません。

きっといま私には、アップグレードが必要なのだと思います。
意見を持たず、周りにふんわり合わせていても生きられた時代は、終わろうとしていて。
「わかりあえない人もいるけれど、それでもいい。私は私として、ここにいる。こう感じている」――そんなふうに生きられる強さが、いまの私には必要だと思うんです。

もちろん、物事の本質を見つめたり、強くあろうとしたりすることは、簡単ではありません。私はまだヨチヨチ歩きをはじめたばかりだから「何もわかっていないくせに」「勉強が足りない」などと言われたら、怖くもなってしまいます。

だけど、完璧でいられないのは当然。自分がどうありたいかを自問自答して、できることからはじめればいいんじゃないでしょうか。いろんなことを学んだり、考えたりするなかで、間違っていることに気付いたらそのとき直せばいい。「いまはこう思っている」と発信しながら、少しずつ前に進んでいきたいと思っています。

「強さ」という言葉には、なんだか固いイメージがありますよね。融通が利かないようにも聞こえるかもしれません。でも、本当の強さは芯こそ通っているけれど、もっとしなやかなものだと私は思う。素直に意見を変えることだって、ある意味で「強さ」です。

これまでは、迷ったときに誰かに聞けば、たいてい答えがもらえました。でも、予測できない世の中では、誰にも本当の答えはわかりません。大変な時代が訪れているけれど、いまここを乗り越えて自分で考える力を身につけられたら、きっと大きくなれる。みんな大変でつらいなら「大変だね」って励まし合いながら、成長していきたいです。

■自分の意見を持って、伝えていくために。日常でもできる練習

昔の私はいろんなことを考えすぎてしまい、自分の意見が言えませんでした。喉まで出てきた言葉を、飲み込んでしまう癖もありました。

だけどいまは、つたなくても自分の意見を持って、それを表明していくステップだと感じています。アイドルだったころ、自分の役割は、与えられた「1」をせめて「1.5」にして届けることだという感覚だったし、自分の意志はそこまでなかった。私自身の意志を求められる機会も、それほど多くはなかったように思います。

でも、AKB48を卒業して海外でお仕事をはじめてからは、自分の判断を尋ねられることが増えました。衣装ひとつとっても「あなたはどれが好き?」と聞かれる。「なんでもいいです」と答えたら「いや、そうじゃなくて、あなたの衣装でしょう? あなたのいいところは、自分でわかっているはずだから、自分で選んでください」と言われるんです。

人の意見や顔色をずっとうかがってきたから、最初は自分で決められませんでした。でも、いろんな国のいろんな人がいる場では、自分なりの意志を見せていかないと、いない人間にされてしまう。

なにかを自分で選ぶことには、責任が伴います。失敗することもあるし、誰かのせいにすることもできません。でも、だからこそ自分で判断することの先には、大きな喜びが待っていると気づきました。怖がりながらも選んだ衣装を「似合っている」と褒めてもらえて、とてもうれしい気持ちになったんです。些細な話かもしれませんけど(笑)。

何気なく生きている一日にも、小さな選択はたくさんあります。私は日常から、少しずつ自分で選ぶ練習を積み重ねていきました。たとえば「なにが食べたい?」「なんでもいいよ」ではなくて「焼肉かなぁ」という、小さな選択。これまでは「なんでもいいよ」と言っていた習慣を、少しずつ辞めていったんです。そのうち、言葉を飲み込まずに、伝えられる場面が増えてきました。

私が変わっていけたのは、私のことを理解して、寄り添ってくれた存在のおかげでもあります。たとえば、AKB時代の仲間たち。家族のように濃密な時間を一緒に過ごしてきたからこそ、彼女たちとは卒業したいまも、いろんな話ができます。きっとおばあちゃんになっても、この関係は変わらないんじゃないかなぁ。

■意見を言うことは、自分の権利をまっとうすること

自分の意見を持つことは、いろんな関心を持つことにもつながっていきます。
たとえば、政治や人権のこと。それは限られた人だけの話題ではないし、誰もが自分のこととして話していいはずです。自分たちの生活に直結するテーマなのに、なんとなくタブーの雰囲気があることには、違和感をおぼえていました。

「芸能人だから、イメージを守るためにあまりそういう話をしてはいけない」という理屈は、まぁわかります。でも、この年齢になって、自分がそういう話をしてはいけないジャンルの芸能人じゃないことに気づいてきました(笑)。

政治や社会、人権など、センシティブなテーマに対しても自分なりの意見を発するようになってから、少しずつ責任感や自信もついてきて。「思ったことを言える」ことの大切さを、心から感じています。

私はフィリピンと日本のダブルで、貧しい家に育ちました。「修学旅行の積み立てが足りないかも」「卒業アルバム代が払えないかも」……そんなハラハラを、つねに抱えて生きていたんです。でも、いまは自分の好きな仕事でお金をいただき、納めるものを納めて、自分らしく生活できています。この状態にすごく喜びを感じているし、こうして生きていることの権利を、最大限にまっとうしたいと思うようにもなりました。私にとって「意見を持つこと」は、自分の権利をまっとうする行動のひとつなのだと思います。

■社会は変わる。一人ひとりが変わっていくから

以前フィリピンでは、スラム街出身の人が、市長になることがありました。そういう背景もあってか、貧富の差が激しいことや、今日一日を生きるのが大変な人もいるということは、目の前にある「現実」。きっと誰もが、そのように理解をしています。だけど、日本では、苦しんでいる人の存在が見えにくいのではないかと思うときがあります。ですが、国を本当によくするには、困っている人を救い上げていくことも、大切なのかなって思うんです。

私がAKB48のチームリーダーを務めていたときも、同じでした。上位のメンバーばかり歌やダンスがうまくなり、露出が増えていくだけでは、下位のメンバーはくさっていってしまいます。そうすると、チーム全体がダメになってしまう。
思うように活躍できていない、能力を発揮できていない人たちをいかにサポートするか……というのもチーム力を上げるポイントなんです。個人がよくなればチームにも還元できるし、チームがよくなれば、個人に還元できるものも多くなる。もしも人をうらやんだり足を引っ張ったりしているなら、その時間と労力を自分自身に投資して、みんなで成長していくべき。そんなマインドで、チームのことを考えていました。

……こんなふうに、私が私なりの考えを発信することで、誰かの考えるきっかけになればすごくうれしい。「私が社会を変えたい」なんて大それたことは考えていないけれど、一人ひとりが考えることで、きっと社会は変わっていくはずだと思っています。これからの時代は、誰かに変えてもらうのを待っていても仕方ありません。まず自分が変わっていくしかない、と思うんです。

Photo/Nanami Miyamoto(@miyamo1073
編集/小林航平

秋元才加さん プロフィール

1988年7月26日生まれ。千葉県出身。B型。
AKB48第2期生として2006年デビュー。2013年同グループを卒業。
現在は女優として映画、ドラマ、舞台に出演する他、スポーツ番組のMCを務めるなど幅広く活躍中。
今夏、映画『山猫は眠らない8 暗殺者の終幕』にてハリウッドデビューを果たした。『山猫は眠らない8 暗殺者の終幕 ブルーレイ&DVDセット』は2020年12月2日にソニー・ピクチャーズエンタテインメントより発売。

菅原 さくら

1987年の早生まれ。ライター/編集者/雑誌「走るひと」副編集長。 パーソナルなインタビューや対談が得意です。ライフスタイル誌や女性誌、Webメディアいろいろ、 タイアップ記事、企業PR支援、キャッチコピーなど、さまざま...

関連記事

Latest Article