産後のお母さんに見られるトラブルや、体調との向き合い方
赤ちゃんが産まれたばかりのお母さんには、不安や心配ごとがたくさんあると思います。産後、お母さんはどのように過ごし、体調に気をつければよいのでしょうか。産後に女性が抱えがちな悩みやトラブルについて、日本産科婦人科学会専門医の山中智哉さんが解説します。
■まずは無理せず自分の体調を大切に。産後の過ごし方
出産が経腟分娩(自然分娩)か帝王切開かによって、産後の過ごし方はいくらか異なります。
どちらの出産になっても、子宮収縮の痛みなど共通の症状はありますが、帝王切開の場合は手術の創部(きず)の回復期間を要しますので、より安静が必要となります。
多くの病院で、産後できるだけ母児が一緒にいられるようにという配慮がなされています。ただ、出産で体力が消耗している期間は無理をせず、まずは体調の改善に努めることも大切です。
産後の入院期間は、経腟分娩で3〜5日、帝王切開分娩で5〜7日程度となります。
入院期間中に、助産師から授乳や沐浴指導など赤ちゃんのケアについて学びます。退院後の産後健診までは1カ月ほどありますが、その期間中の不安やトラブルについては、適宜、出産病院に連絡して助産師の助言を仰ぐことが大切です。
■母乳が出にくい、産後うつ……産後にみられるトラブル
産後に多くの方が悩まれることのひとつに、授乳があげられます。
母乳の出が悪い場合には乳房マッサージをおこなったりしてみて、それでもなかなか出ない場合には、ミルクで対応しても問題ありません。授乳は赤ちゃんとの大切な触れ合いではありますが、産後はホルモンバランスが乱れたり、生活習慣もそれまでと異なったりしてきますので、あせらずに自分の体もいたわりながら過ごすことが大切です。
乳腺がつまって母乳が出にくくなっている場合、乳腺炎を起こし、痛みや熱のため自分ではマッサージが困難になることもあります。その際には病院を受診して、助産師の手を借りたり、抗炎症薬を処方してもらったりといった対処が必要となります。
また、産後うつという症状を発症される方もいらっしゃいます。
これは、産後の生活環境の変化や、ホルモンバランスの乱れなどによって、精神的に負の影響が出たときに生じる症状と考えられます。
女性は出産後、妻としての役割だけでなく母親としての役割も担うこととなります。生まれたばかりの赤ちゃんは、自分ひとりでは食事もトイレも着替えもできない存在で、誰かの助けがなければ生きることができません。その赤ちゃんを育てていくという責任は、誰にとってもいくらかはストレスになるものです。
新しい家族を迎えて、嬉しいことや楽しいこともたくさん増えるとともに、考えなければいけないことも以前より増えることとなります。考えなければいけないことがひとつやふたつであれば対処することができても、3つ4つと増えていくと、それが重圧となっていきます。その責任と重圧は「自分が生んだ」という自覚のある母親が抱えてしまいやすいということを、新たに父親となったパートナーがよく理解して、最大限のサポートをしていくことが大切だと思います。
■産後の過ごし方は人それぞれ。「正解」はありません
最近では、男性の産休制度の導入なども話題にあがっています。女性の中には、産後できるだけ早く仕事に復帰したいという方もいらっしゃると思います。いろいろな公的制度の助けや、民間のサポートなど、まだ自分が知らないよい方法もあるかもしれませんので、インターネットからの情報や母親同士のコミュニケーションからの情報にも目を向けてみてくださいね。
産後の過ごし方には「これが正解」というものはありません。しかし、まずは母親と父親が心身ともに健康に留意し、充実して赤ちゃんを育てられることがなによりだと思います。
医学博士、日本産科婦人科学会専門医、日本抗加齢医学会専門医
現在、東京都内のクリニックにて、体外受精を中心とした不妊治療を専門に診療を行なっています。
不妊治療は「ご夫婦の妊娠をサポートする」ことがその課題となりますが、...