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男性に「体外受精の現実」を知ってほしい理由

いつか父になるかもしれない男性、すでに父になっている男性……すべての男性に向けた連載「男性も知るべき妊娠出産の現実」。第2回となる今回は不妊治療について。選択するご夫婦が多い「体外受精」という不妊治療についてお話しします。

男性に「体外受精の現実」を知ってほしい理由

■18人にひとりが、体外受精で生まれた子ども

世界で初めて体外受精で生まれた女性、ルイーズ・ブラウンさん。昨年、彼女は40歳の誕生日を迎えました。

それは、体外受精という技術が生まれて40年経ったことを意味します。

体外受精とは、女性の卵巣内にある卵子を取り出し、体外でパートナーの男性の精子と受精させ、受精卵を再び子宮に戻して着床させる治療法のこと。

タイミング法や人工授精より医療介入度が高く、妊娠率の高い不妊治療として知られ、日本では体外受精によって年間2万人もの赤ちゃんが生まれています。

平成28年の日本産科婦人科学会のデータでは、体外受精で生まれた子どもは、出生数全体に対して、18人にひとりの割合です。

これを多いと感じるか、意外に少ないと感じるかは人それぞれかもしれませんが、その10年前には約100人にひとりの割合だったことを考えると、技術の進歩と普及が非常に早かったことがわかります。

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■着床前診断と出生前診断

この傾向は今後さらに進んでいくと見られますが、最近では、受精卵の染色体異常がないかを調べる「着床前診断」という技術も開発されているのをご存知ですか。

現在、学会でも、その技術が妊娠率や流産率、あるいは出産率などに良い影響を与えるのかということが調査されています。

着床前診断よりも前から、妊婦さんに対して胎児に異常がないかどうかを調べる「出生前診断」という技術があります。出生前診断も、以前は羊水検査でしかわからなかったことが、母体の血液検査だけでわかることが増えてきました。

そういった検査には、倫理的な検証が必要で、一概に推奨できるものではありませんが、より高い医療技術を確立しようとする医療者の思いと共に、「より安全に、健康な子どもを産みたい」というご夫婦の思いもまた、それらの技術の後押しをしているのかもしれません。

■体外受精に偏り気味? 日本の不妊治療

平成28年に日本で行われた採卵(体外受精および顕微授精)と胚移植を合わせた件数は24万件を超えています。これは世界第1位の件数で、2位の米国の1.5倍近くにのぼります。

これについては、人口に対して件数が多すぎるなど、いろいろな意見があります。結果、日本は世界一の採卵件数を誇りながら、採卵件数に対する妊娠率が非常に低いというデータが示されています。

中には「体外受精しか行わない」と謳うクリニックや病院もあり、日本の不妊治療そのものが体外受精に偏重傾向があるともいえるでしょう。

理由のひとつには、患者さん側の背景として、晩婚化の影響によって、第一子あるいは第二子を希望する年齢が高くなり、自然妊娠する力が下がってきた時期に出産を望む方が増えていることが挙げられます。

それに伴い、医療者側も患者さん側も、より早期の妊娠を求め、体外受精が積極的に選択される傾向が出てきました。しかし、それでも諸外国と比較して、日本の体外受精の件数が飛び抜けて多いのは、そこに医療ビジネスとしての側面があるからかもしれません。

■体外受精にかかる費用は50〜80万円

ちなみに、体外受精の費用の体系は、各施設によっていくらか異なりますが、採卵から胚移植まで行うと約50~80万円前後がかかります。

採卵するにも都度、費用がかかります。例えば、自然周期でひとつずつ採卵を行っている場合は、卵子が採取できなかったり、良好な受精卵が得られなかったりすると、採卵を繰り返すたびに料金が積み重なっていくことになります。

体外受精の治療件数が増えるにつれて、画一的な治療しか行えなくなる弊害も指摘されています。普通に採卵や体外受精、胚移植を行って良い結果が出ないご夫婦にも、同じ治療が繰り返されてしまう可能性があるのです。

体外受精がうまくいかない場合、なぜその周期で行った体外受精がうまくいかなかったのかを考える必要があります。

標準的とされる体外受精の方法で結果が出ない場合には、考えられる原因を追究し、体外受精という方法は変わらずとも、手技や薬剤、培養液などを検討し、治療に工夫を加えることが大切です。

■男性不妊専門のクリニックも

最近では、まだ数は少ないものの、「男性不妊専門のクリニック」も開設されるようになってきました。

勃起不全などの機能的な問題だけではなく、精子数の減少や精子の質の低下などに対し、より高度な治療が行われるように。

私のクリニックでも、男性不妊クリニックで選別された良好な精子の提供を受けて、体外受精を行うことがあります。

より良い結果を得るために、体外受精を試みるだけではなく、クリニック間での医療連携も今後は必要なことだと考えています。

■連載予定テーマ

・不妊治療の今
・人工授精、体外受精の違い
・男性不妊を知っていますか
・妊婦さんの体〜妊娠初期とはどんな状態
・妊婦さんの体〜妊娠中期とはどんな状態
・妊婦さんの体〜妊娠後期とはどんな状態
・妊娠中の夫婦生活、パートナーシップ
・知っておきたい流産のこと
・出産のすべて
・産後の女性の体と心

※内容は変わることがあります。

画像/Shutterstock

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山中 智哉

医学博士、日本産科婦人科学会専門医、日本抗加齢医学会専門医 現在、東京都内のクリニックにて、体外受精を中心とした不妊治療を専門に診療を行なっています。 不妊治療は「ご夫婦の妊娠をサポートする」ことがその課題となりますが、...

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