女性の体に起きている変化〜妊娠初期「8~12週」編
妊娠した後、女性の体はどう変化していくのでしょうか。妊娠4〜15週頃の「妊娠初期」を3つの時期に分けて解説します。胎児の頭や身体、手足などが見えるようになる8週頃から〜12週頃の変化と、この時期に欠かせない検査について解説します。
■「胎芽」から「胎児」へ
妊娠8週を過ぎると、「胎芽」と呼ばれる状態から「胎児」といえる状態になり、超音波検査でも、胎児の頭や体、腕や足なども徐々に見えるようになってきます。
この時期、胎児を包む嚢(ふくろ)すなわち「胎嚢」の大きさには、いくらかバラつきがありますが、「胎児の大きさ(頭の先からお尻の先までの長さ=頭殿長)」の個体差はほとんどありません。
したがって、「最終月経から数えた妊娠週数」と「胎児の大きさ」に差が大きい場合には、胎児の大きさに合わせて妊娠週数も修正し、妊娠予定日も計算し直します。
これは、前回のお話でも触れましたが、医学的に「排卵日=妊娠2週0日」と決めて、妊娠の管理を行うことによります。この週数の修正をこの時点で行っておくことは、その後の妊娠経過を見ていく上で、ひとつ重要なポイントとなります。
「女性の体に起きている変化〜妊娠初期『4~8週』編」
■妊娠8週~12週頃の超音波検査がなぜ重要か
時々、「妊娠に気づかなかった」とか「何かの事情で産婦人科を受診することができなかった」ということで、妊娠20週以降に初めて産科を受診される方がいらっしゃいます。
妊娠20週を過ぎると、胎児の大きさには個人差が生じ始め、いわゆる正常範囲とされる大きさから逸脱して「大きい」あるいは「小さい」という評価がされることも。
特に「小さい」と評価された場合、妊娠8~12週の所見がわからないと、「排卵日が想定される時期よりも後ろにずれたため、見かけ上、胎児が小さい」のか、「胎児や胎盤、あるいは母体に何か異常があって、胎児が小さい」のか、その判断が難しくなる場合があります。
それでも、時期を変えながら複数回、超音波検査を行うことで、そのどちらなのかを見極めることは可能です。ただし、胎児の状態を安全に管理するためには、妊娠初期の超音波検査の所見が重要であると、おわかりいただけるかと思います。
■妊娠8~12週頃に胎児の状態を正確に把握する
妊娠8週の胎児の大きさは約15ミリで、妊娠12週には60ミリ前後になります。
この時期、頭蓋骨や脊椎など大きな構造の異常については、超音波検査で判断がつくものもありますが、心臓などの体内の臓器や微細な異常などについては、診断することは非常に困難です。
それでも、産婦人科医にとって、何かしら異常があるとしたら、少しでも早くそれに気付き、対処することが大切です。超音波検査機器の進歩はその一助となってきましたし、超音波検査を通して見られる胎児の像の中に、異常の可能性がある所見の解釈も進められてきました。
そのひとつにNT(胎児後頸部の浮腫)と呼ばれる胎児の首の後ろのむくみの所見があります。NTは妊娠10~15週くらいの間に、正常な胎児にもいくらか見られることはありますが、3ミリ以上の厚みがあると、その厚さによって何か染色体の異常を伴っている可能性があるという解釈がなされています。
NTは妊娠15週を超えると徐々に消失してしまうため、この時期に超音波検査を行うべき重要な理由といえます。
■NIPT(新型出生前診断)のこと
従来、胎児の染色体を評価するためには、絨毛あるいは羊水を採取して検査を行うしかありませんでした。しかし、そこには子宮内感染や流産などのリスクも伴うため、検査を行うかどうかは、そのリスクも考慮して判断する必要があります。
NIPTは母体血を採取し、そこから胎児の染色体について評価する方法で、上記のような胎児のリスクはありません。妊娠10週から検査を行える点においても、早期に胎児診断ができるという利点はあります。
しかし、すべての染色体異常を診断できるわけではなく、特定の3種類の染色体異常についての評価にとどまることや、倫理的な観点からも、現在日本では原則35歳以上の妊婦さんを対象に、産婦人科学会の認定施設でのみ行うことができるなどの規定が設けられています。
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・「女性の体に起きている変化〜妊娠初期『4~8週』編」
※この記事は2019年10月9日に公開されたものです