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妻が夫の姓を名乗るのはなぜ? 「結婚で変わるべきは女性」はもうやめよう

「結婚したら女性が姓を変える」「男性が“大黒柱”になる」。結婚に伴う性の役割はどのように生まれ、そしてこれからどう見直され、変化していくべきなのでしょうか。家族社会学の専門家・永田夏来先生に聞きました。

妻が夫の姓を名乗るのはなぜ? 「結婚で変わるべきは女性」はもうやめよう

「結婚する」と言えば、「おめでとう」と祝われる。でも、結婚ってそんなに「めでたい」もの?

法律婚による姓の変更や退職・帯同、家事育児の役割は女性に偏りがちで、一方で男性は女性よりも稼ぎ家族を養っていく、というプレッシャーを与えられやすいことがしばしば問題視されます。

想い合うふたりがともに生きていくことは素敵なことかもしれませんが、それによって望まぬ負担を押し付けられてしまうのは別問題です。この法律婚による性の役割はどのように生まれ、そしてこれからどう見直され、変化していくことができるのでしょうか。家族社会学の専門家・永田夏来先生にお話を伺いました。(聞き手:園田もなか)

永田夏来先生 プロフィール

1973年長崎県生まれ。社会学者。
2004年に早稲田大学大学院にて博士(人間科学)取得後、現職は兵庫教育大学大学院学校教育研究科講師。家族社会学の観点から、結婚・妊娠・出産と家族形成について調査研究を行っている。単著『生涯未婚時代』(イースト新書)、松木洋人との共編著『入門家族社会学』(新泉社)他、共著多数。

■女性が男性側に改姓するのはどうして?

結婚制度により(多くの場合は女性が)「姓」を相手方のものに変えることは、今まで築いてきたキャリアに影響を及ぼしたり、それに伴う手続きの負担の大きさが度々問題視されます。

しかし、そもそも一般人による同一姓の使用が制度として成立したのは明治以降であり、歴史自体はあまり古いものではありません。

「一般人も『姓』を持つという仕組みについて考えるときには、"家父長制"を知っておく必要があります。その背景にあるのは、長男が家の財産を継ぐ、という武士などに見られる慣習ですね。明治期にそれを制度として採用し、一般人でも父から長男へ財産を相続するという流れが戸籍として可視化されるようになった。ただ、戦後は憲法改正に伴い戸籍制度も見直されることになり、制度上は男女のどちらが姓を変えてもよくなったんです。

だから、女性が男性の姓に変えるというのは、制度上強制力があるものではなくて、ただ習慣的になんとなく選ばれている、というのが実際の背景です」


今でも、結婚後に妻が夫側に改姓するケースは96%(※1)と大多数を占めます。もちろん望んで夫側の姓を名乗るケースもありますが、「どちらかの親にそうするよう言われた」「夫が姓を変えることを嫌がった」「夫がひとりっ子だったため姓を継いでほしいと言われた」などの理由もよくあると永田先生は言います。制度上強制力がないとはいえ、「妻が改姓するべき」という風潮はまだまだ根強いと言えそうです。

■「夫は仕事、妻は家事育児」はいつから?

“妻が夫の姓に変える”慣習のほかにも、結婚に伴う性役割として根付いている考え方のひとつに、「夫は外で働き、妻は家事育児を担う」というものがあります。

「“専業主婦”という観念が生まれたのは、サラリーマンが誕生した明治時代以降と言われています。ただし当時は警察や官僚など、数少ないエリート層のみの雇用であり、サラリーマンが激増したのはその後の高度経済成長期です。当時から男女の学歴格差はあり、大学に進むのは基本的に男性。その中でも長男が優遇されていたという背景があります」


「結婚したら将来安泰」「結婚=ゴール」といった考え方も、元々はこの格差から生まれたものだと永田先生は語ります。

「当時は今よりもさらに女性の進学率が低かったこともあり、そもそも女性が定年まで会社に勤めることが想定されておらず、老後の安心や住むところなど生活のすべを得るほとんど唯一の手段として結婚がありました。景気が良い時期は雇用も安定していたので、結婚して専業主婦になることが女性にとって生活の安定の手段となり、『結婚したら将来安泰』と言えた時代はたしかにあったと思います」


結婚が生活の手段となった結果、「結婚=女の幸せ」というイメージも同時に作られていきます。永田先生によると、特に大きな影響を与えたのは、1959年、皇太子・明仁親王(当時)と、一般市民(当時)であった美智子さまのご結婚。自由恋愛を経ての結婚は「昭和のシンデレラ」「世紀のご成婚」と呼ばれて大々的に報道され、「ミッチー・ブーム」と呼ばれる一大ブームを作り上げたといいます。このご成婚が当時の若者のモデルとなり、「結婚(して相手の家に入ること)が女性の幸せ」という風潮が強まっていきました。

家父長制の名残で、結婚後は女性が男性の姓に変える慣習が残っていること。それに伴い、「結婚したら男性の家に入る」「男性側を立てる」というイメージが引き継がれたこと。さらに、明治〜高度成長期に「男性が働き、女性が家庭を守る」という構図ができたことにより、結婚に伴う性役割は強固なものになっていきました。

また、“専業主婦とサラリーマン”という画一的な家族像が理想のように描かれるのは、日本の特殊な部分が影響しているそう。

「女性よりも男性の方が優先的に教育を施される、というのは日本特有の事例というわけではありませんが、“専業主婦とサラリーマン”という家族像(たとえば、日本の長寿アニメである『ドラえもん』や『クレヨンしんちゃん』『ちびまる子ちゃん』などは専業主婦とサラリーマンの夫婦による家族であり、それが日本のベーシックな家族のように描かれる)が現在でも主流である背景のひとつに、日本の労働環境があります。

まず、日本のサラリーマンの働き方の大きな特徴として、労働時間の長さがあります。なぜ専業主婦がいないと暮らしていけないかというと、サラリーマンの帰宅時間が遅いからです。スウェーデンなどは男女平等な社会で専業主婦が少ないと言われていますが、それはどういうことかというと、男女ともに時短やテレワークなど働き方が多様だという点がまずあります。だから家事や育児をする余裕が生まれるし、そうすれば女性も外に出て働きやすい。結果的に、専業主婦は少なくなります。

働き方が画一だと、家族のあり方も画一になる。結婚や妊娠・出産をきっかけに専業主婦を多くの女性が選んでいるという現状(※2)は長時間労働や残業を美徳とするような日本の働き方が強く影響している、とも言えるんです」


結婚・出産後も仕事を続ける女性は増えている(※3)ものの、こういった背景から、「妻が夫の転勤に帯同する」「妻が育休をとり時短勤務を選ぶ」など、男性の仕事が優先されるケースは未だに多くなっています。それは高度成長期に作られてきた「働くのは男性」というイメージの名残であるとも言えます。

■改めるべきは「結婚によって変わるのは女性」という考え方

結婚に付随する性役割は、これまでに挙げたさまざまな要素によって作られてきました。

ただ、時代は変わっています。大学入試での男女差別が明るみに出たことや、依然として存在する給与格差など、まだまだ解決しなければならない問題はありますが、進学率や就職率の男女差が少しずつ減っていることも事実です。また、働き方改革により、長時間労働も見直されつつあります。

しかし、結婚はふたりでするものである限り、必ずしもお互いの理想とする家族像や価値観が一致するとも限りません。性の役割や社会の形が変わりつつあるいま、私たちはどのようにパートナーと関係性を築いていくべきなのでしょうか。

「やはり『結婚によって変わらなきゃいけないのは女性』という考え方は不平等ですよね。時代が変わったとはいえ、姓も働く会社も住む場所も、変えるのは女性の方が一般的です。いざ結婚をしてみると、変えなくてはいけないことが多くあることに驚きますよ。銀行口座からクレジットカード、免許証、お店のポイントカードまで。姓を変えると多くのことを変更しないといけない。また、女性は妊娠や出産などの身体的な負担を避けることができません。そうやって考えると、女性であるというだけの理由で、結婚をきっかけに多くの変化に晒されているという現状があります。

ただ、今の日本で法律婚をする上では、『どちらも何も変わらない』のは難しい。だから、ここで必要なのは、変える必要がある相手の負担に想像力を働かせて譲り合う精神ですよね。たとえば、女性が姓を変えて大変な思いをしているなら、男性側が、引っ越しの手続きなど他の部分で負担を引き受ける。負担を抱えるのは誰だって嫌ですから、お互いに想像力を働かせて、できることをフォローしあうような関係性が必要だと思います」


また、性役割が個々の価値観だけではなく、社会の状況が複雑に絡み合って作られたものである以上、問題意識の向け方にも注意が必要です。

「たとえば、夫婦の話で"家事"がテーマになると、どうしても男性の意識の低さばかりに目がいきがちです。夫に『なぜ家事をしないんだ』と怒る気持ちもわかりますが、もしも夫が家事や育児のことを考える余裕がないほどに働かされているのだとしたら、男性も別の部分で被害者でもあるわけです。まずは企業側に対して『うちの家事の戦力なのに、なぜ帰らせてくれないんですか』と怒る方が問題の捉え方としては正しいかもしれない。その方がみんなでよりよい社会に変えていこう、という意識に向きやすくなるとも思います」

■『逃げ恥』に『沈没家族』。さまざまな家族の形を知り、結婚観を育てる

女性の就職率が上がり、「サラリーマンと専業主婦」が当たり前とは言えなくなったことで、結婚観や家族の形も多様化していくのが自然な流れ。その点について、永田先生はこう語ります。

「私はまず、結婚や家族での暮らしに関する情報があまりにも不足しているように感じます。家族の形は必ずしもテレビドラマやアニメに出てくるような既存のイメージ像のものだけではなく、多種多様です。実際に存在するいろいろな家族の形を見ながら『こういう家族だったらできるかも』という落とし所をふたりで相談して見つけていくことが大切です。いろんな材料を持ち寄りながら、どういう家族像がしっくりくるか探っていく。

誰にでも当てはまる正解の家族の形なんてものはないので、ふたりにとっての正解を探していかないといけない。それすら話し合うことができない人なら、そもそも結婚自体をおすすめしません」


新しい家族像を知る上で、永田先生は以下のような作品を勧めます。

「ドラマにもなった『逃げるは恥だが役に立つ』は、夫婦のあり方や性の役割について改めて考え直すことができるいい作品だと思います。あとは映画『沈没家族』。これはシェアハウスで大勢の大人に囲まれて育った男性が、大人になってから生まれ育った家庭を振り返るドキュメンタリー映画です。

映画『万引き家族』もいいですし、作家の紫原明子さんのエッセイ『家族無計画』『りこんのこども』もおすすめです。本人著『こうしておれは父になる(のか)』やヨシタケシンスケさんの『ヨチヨチ父 とまどう日々』は、男性目線で自分の経験や葛藤、悩みなどを率直に描いているので、多くの男性にとって家族を考えるハードルが低くなるかもしれません。

もちろん結婚における性の役割というのは依然として残っているものですし、それが問題視されることは多くありますが、少しずつ家族の形が多様化してきているのも事実です。男性が結婚に伴い女性の姓に変えたという話もしばしば聞くようになりましたし、『結婚して将来安泰』だと思う女性だって減ってきた。それは、今まで挙げてきたようなさまざまな家族像を見たり、自ら情報を得て考えたりして、自分の価値観を育ててきたからです。

だから、たとえば今のパートナーがこれからの時代に通用しにくい価値観をもった人だとしても、今までとは違う感覚を育ててほしいと伝えて、実際に育てていくことはできるのではないかと思います。大切なのは、ふたりにとっての正解を探すために、お互いが向き合って話し合うことです」

(※1)厚生労働省「人口動態統計特殊報告『婚姻に関する統計』の概況」より
(※2,3)男女共同参画局 「共同参画」2019年5月号より


Photo/阿部萌子(@moeko145



従来の性役割にとらわれない“自分たちが心地良いパートナーシップ”は、具体的にどうすれば築いていけるのでしょうか。こうすれば万事が解決する、なんて魔法のような方法はないのかもしれない。けれど、今この時代を生きている夫婦の在り方から自分たちにできることを考えてみたい。

そんな想いからスタートしたDRESS2月特集では、ふたりにとってベストな結婚の形を模索してきたさまざまな夫婦のインタビューを実施させていただきました。

第1弾は、産後うつをきっかけに「男は働き、女は家事育児」をリセットした薗部雄一さん&陽花さん夫婦。「一時は離婚も考えた」というおふたりが危機を乗り越えてきた葛藤の軌跡、ぜひご覧ください。

産後うつで離婚危機。「夫は仕事、妻は育児」をやめたら、夫婦仲が劇的に良くなった



※ この記事は2020年2月17日に公開されたものです。

園田 もなか

記事を書く仕事をしています。ハリネズミのおはぎとロップイヤーのもなかと暮らしている。Twitter:@osono__na7

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