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「海外勤務も子育ても、女性は何も諦めなくていい」家族でNY転勤、“駐夫”と妻の2年間

妻のアメリカ転勤が決まり、子どもを含めた家族4人で渡米。「夫の駐在に妻が同行する」というケースが多数派のなか、会社でも前例のない道を選択した小西一禎さん・真美子さんご夫婦。渡航から2年、キャリアを中断する葛藤や、家事・育児分担の変化の影響について聞きました。

「海外勤務も子育ても、女性は何も諦めなくていい」家族でNY転勤、“駐夫”と妻の2年間

「妻の海外転勤に、夫が同行する」

日本においてはまだ前例の少ない、めずらしいケースです。

今回は、妻のニューヨーク駐在に合わせ、夫が駐在夫=駐夫(ちゅうおっと)として同行した小西一禎(かずよし)さん、真美子さんご夫婦にお話を伺いました。

2017年末に家族4人で渡米して、丸2年。大きな変化に、おふたりはどう向き合ってきたのでしょうか。

■仕事を「手放さない」からこそ決断できた「駐夫」という道

――一禎さんは、東京にいた頃は大手メディアの記者、真美子さんは製薬会社で時短勤務で働かれていたとのことですが、おふたりの役割分担はどのようなスタイルだったのでしょうか。

真美子:家事育児は基本ワンオペでしたね。夫の場合、記者という仕事柄、拘束時間も長く不規則です。それを理解していたので、自分の方の業務を調整して、家事育児を担当してきました。

それを特に不満に思うことはなかったですね。私は妊娠中のつわりもない方だったし、子どもたちの性格的にも、今のところ子育てに負担を感じることが少ないんです。このあたりは運や相性もあると思いますが……。そういうのも、夫にそれ以上の協力を求めない理由かもしれません。

――そんななか、真美子さんに海外赴任の打診があった。

真美子:職場で軽く打診されて、ただ実現可能性はそんなに高くないとは思っていました。子どもがいる女性が駐在になるケースは、前例がほぼないんです。仮に実現したとしても、仕事にまい進している夫が一緒に来ることはないだろうなと想像していました。

一禎:私も、彼女の能力の問題ではなく、勤務先や業界の前例から、米国駐在が実現する可能性は低いだろうなと見積もっていました。「本当に行くことになったらどうする?」と聞かれて、その時は「いいね」と軽く答えました。

――実際、予想に反して、真美子さんの米国駐在が決まったわけですよね。

真美子:ただ、駐在についてはふたりともポジティブに考えていて、「じゃあ家族みんなで行くにはどんな準備が必要だろう」と考えていくことになりました。

一禎:「家族は一緒にいたほうがいい」という自身の考えから、同行を決めました。私の勤務先には休職制度があって、妻の駐在についていくにしても帰国後に復職できるので、一時的に収入が途絶えても同行するという行動に踏み切れたと思っています。

これがなかったら、その後経済的に自立できない自分が見えてしまって、また違う選択肢を考えなければならなかったと思います。

■「男の甲斐性」との葛藤

――ご家族でのニューヨーク赴任によって、「夫=仕事、妻=家事育児」だった分業ががらっと変わったわけですが、その変化にはどのように適応してきましたか?

真美子:行く前は、これまで仕事ばかりだった夫が家族と一緒に過ごす時間が一気に増えて、大丈夫かな? と思ってました。ただ、私は日本時間に合わせたやりとりが比較的少ない仕事での駐在なので、共働きしていた頃とあまり変わらずに家事や育児も担当できるかなと予想していて、実際その通りになっています。

一禎:子育てについては、子どもの送り迎えは私がして、その他は妻と分担している面もあります。たとえば、子どものお弁当は妻が作っていたり。

真美子:私は17時に帰れるので、そのあとの家事や育児はそこまで負担には感じてません。他の駐在の方だと、時差を考慮してアメリカ時間の夜から日本とやり取りしたり……といった大変さがあるようですが、私は幸運にもそういったことがないので。

――「私は働いているんだから、もっと家事育児をやってよ」と感じることはないですか。

真美子:もちろん、日本にいたときよりも夫の家事育児分担は増えていますよ。ただ日本では私もワンオペで家事育児をしていたので、夫の現状も想像できますし、期待値もいい意味で低いんですよね。私は食事にもそんなにこだわらないですし。

そもそも、夫が主夫業に向いていると思えないので、家事育児の比重を生活のなかでそこまで高めないほうが生活の質は高いだろうと考えています。

一禎:私の性格を理解してくれているからこそ、「操縦」されているんだろうなと思っています(笑)。ふたりの分担バランスがちょうどいい具合になっていると思います。

――「一時的に一禎さんの収入がなくなる」という変化については、いかがですか。

真美子:やっぱり私のお金で生活するというのはどうしても彼のなかで抵抗があるようで。小西家のお財布だから、私が稼ごうと彼が稼ごうと関係ない、とは思っているんですよね。

一禎:休職中は自分の給与はないので、日常で利用するクレジットカードの引き落としは妻の銀行口座からです。「お金の使い方を妻に決められる」「ものを買うときにはお伺いを立てる」ということは一切ないですが、それでもどうしても抵抗感が……。

真美子:私は、日常に必要なものはもちろんですけど、自分が個人的にほしいものは、家族の共有物でなくても、好きに買うべきだと考えています。

彼が特にひっかかるのは、たとえば誕生日などで私へのプレゼントを買うとき。私の給与で購入したという事実から、「自分で買っていない」という思いが強く浮かび上がるみたいです。「自分で買ってあげた」と表現するには齟齬がある、みたいな。

私としては、お金の出所よりも、買ってきてくれた、選んでくれたというところで満足なんですけど。彼にとっては「そうではない」となる。

一禎:この「養われている感じ」とどう向き合うかは、渡米前から気になっていました。「自分のお金」で生活を支えていないという現実は、自分にとっては結構ストレスになることが予想できたので……。

ですので、日本にいる間、自分と同じ状況の男性(妻の駐在に同行)数人に「自分のお金がない」という現実にどう向き合いましたか? と聞いたんです。

すると、若い方は「特に気にしてないですよ?」とか、「むしろラッキーじゃないですか?」みたいな返事で。年代の違いなんですかね。

――真美子さんは一禎さんに対して、「若い人のようにもっと柔軟に受け止めたらいいのに」とかは考えないのですか?

真美子:私、「人の考えは簡単に変わらない」って思うんです。いわゆる「男の甲斐性」から彼が解放されたいって思っているわけではないし、だったらそのまま、自分の目指す形を追求したらいいと思うんです。

私たち夫婦はどちらも1970年代生まれで、「昭和の夫婦」だと思うんですよね。「夫は働いて、妻は支える」みたいな役割分担に、誇りを持っているところもあるというか。

私自身も、妻として母親として、子育てには積極的に参加していたいと考えているし、夫を「一家の“重石”」みたいになってほしいって、やっぱり考えているんですね。

でももし夫が一禎さんじゃなかったら、もっと若い人と結婚していたら、もしかしたら考えが違ったのかも、とも思います。例えば「私が稼いで支えてあげるから、あなたはこうしたらいいよ!」みたいな、指導的な物言いをしたのかも。

■この経験を元に、ふたりでステップアップしていきたい

――真美子さんの駐在の決断や実際の駐在生活のなかで、周りからの反応はどうですか?

真美子:駐在が決まったとき、「離婚したの?」と聞かれたことはあります(笑)。前例がほとんどないのでみんな驚きますよね。ネガティブな反応ではないけれど、「旦那さんどうするの?」って、みんな思うには思うんだろうなと。

一禎:私の周りだと、仕事関係で「(キャリアを捨てて)あいつは終わった」みたいに言う人もいたみたいですね。

――性役割分担のステレオタイプに基づくリアクションをもらったことはありますか?

真美子:こちらの学校等で、子どもの同級生のご両親や先生たちと話してといると、「夫の駐在の帯同で来ている」と思われることがほとんどですね。駐在に関する社内のマニュアルも、男性が駐在することを前提に用意されています。

ただ現状として、多数がそちらなのだから、仕方ないなと考えています。

――一禎さんはどうですか?

一禎:「昼間家にいて何をしているの」と聞かれることはありますね。自分より世代が上の男性から聞かれることが多いです。駐妻には絶対聞かない質問ですよね。当然ながら、家事や育児をしているわけですが、それがかなりの時間を必要とすることだとあまり理解されていないのかなと思います。

「ご飯作っているんですか」という質問を受けることもあります。料理は女性がするものっていう価値観がその方のなかで強くあるんだろうなと感じます。

――「妻が駐在、夫が帯同」というのがまだ少数派であるからこそですね。この立場だからこそ強く意識する、もしくは意識させられることも多いのではと想像します。

一禎:ロールモデルとして見られることが増えてきているとの実感はあります。ただ、記者という職業柄、きちんと現実を率直に伝えたいと考えています。たとえば、さっき話したような「“男の甲斐性”に縛られている」こととか。

真美子さん:女性も何も諦めなくていいんだよということは、伝えたいなと思います。子どもを連れて海外に住んで、育児もしながら仕事で成果も出す。やりたいことはちゃんと実現できると伝えたいです。

ただ、一禎さんが言うように、きれいごとではいかないこともあるのが現実だと思うんです。いろんな葛藤もあって、でも融通をきかせて生活を進めているんだってことは、わかってもらってもいいのかなって思います。

繰り返しになりますけど、私は「男としてこうありたい」という一禎さんの考えを無理に変えてもらおうとも、「旧来の“男だから、女だから”をぶち壊そう」とも思っていないんですよね。

ーー渡航から2年が過ぎましたが、今の生活を選んでよかったと感じる点について聞かせてください。

真美子:今の生活は、仕事がめちゃくちゃ楽しいし、夫の家事育児へのコミットが増えて仕事に集中できる環境も整っているし、すごく助かっています。無駄な残業がなく、夫が土日に家にいるので家族みんなで過ごせるのも良いと思っています。

一禎:子どもを迎えに行って、子どもが笑ってこっちに駆け寄って来たときに幸せを感じますし、仕事以外の生きがいについて改めて気づかされたと思います。

あとは、妊娠出産、夫の転勤でキャリアが途絶える女性の悩みについて、理解が深まったんじゃないかなと思っています。これまでの執筆記事やブログなどを通じて、世界中の駐妻、駐夫から頻繁に連絡をもらいます。大変うれしいですし、多少なりともお役に立ててるのかと感じます。

真美子:これまで私がひとりで向き合ってきた育児の現実に、やっと夫が直面した! と思っています(笑)。ようやく育児の悩みを共有できた、という実感がありますね。

――真美子さんは、「彼のキャリアを中断させてしまった」とか「犠牲を払わせているな」と考えることはありますか?

真美子:そんなことはないんですよ。彼にとって、子どもとの関係を深めたり、自身のキャリアや生活を見つめ直したりするいい機会になったんじゃないかなと考えています。

私、ものすごくポジティブシンキングなので、私の駐在から始まった夫の経験が、彼の人生を支えるものになっているだろうなって思ってます。

一禎:さまざまな人種がいて、世界最先端の価値観が生み出されるアメリカで、いろんな生き方があるのだと知れるのは本当にいい経験です。本帰国後は、駐夫としてこちらで見聞きしたものを紹介し、積み重ねた経験を日本社会に還元したいですね。

真美子:さっき、「夫は働いて、妻は支える」という役割分担に誇りを持っているところもあると話しました。ただ私は、自分が仕事をやめて家事育児に専念するという支え方ではなく、「仕事を続けつつ、どうやって彼のキャリアパスをサポートできるかな」と考えていきたい。この経験を元に、ふたりでステップアップしていきたいなと思っています。

▼小西一禎さんのブログ
ちゅうおっと(駐夫)のアメリカ主夫・育児奮闘記@ニューヨーク・ニュージャージー


そもそも「結婚したら女性が男性の仕事を優先する」という役割の固定観念は、どのように形作られてきたのでしょうか。家族社会学の専門家・永田夏来先生にインタビューしたこちらの記事も、ぜひ併せてご覧ください。

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山浦 雅香

85年生まれ茨城育ち。事実婚の夫、小学生の息子と東京で生活中。就職2年目の27歳で出産退職、子育て専業2年、再就職、フリーランスを経て、インバウンドメディアの編集部に。大学時代の1年間の北京留学経験を活かして、翻訳・執筆も。

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