男性はどうしたら女性を理解できる? 清田隆之×牧野圭太
「決断を先延ばしにする」「イキるくせに行動が伴わない」……。数多の女性の恋愛相談から導き出された、男性がやりがちな失敗をまとめた『よかれと思ってやったのに 男たちの「失敗学」入門』の出版記念対談。
「人の話を聞かない男」「何事も適当で大雑把な男」「謝らない男」「イキるくせに行動が伴わない男」……。
恋バナ収集というちょっと変わった活動を行うユニット「桃山商事」の代表・清田隆之氏が、これまで1200人以上の女性たちの失恋話や恋愛相談に耳を傾けるなかで気づいた、失望される男性に共通する傾向や問題点について書かれた本『よかれと思ってやったのに 男たちの「失敗学」入門』が話題です。
当著では、男性の無意識な女性蔑視やジェンダーによる影響などについても触れられています。広告の炎上や「#MeToo」運動の世界的な盛り上がりなど、ジェンダー観のアップデートが求められる現代において、男性は性差別意識や自身の男性性とどう向き合っていくべきなのでしょうか。
著者の清田氏と、博報堂のコピーライターを経て株式会社カラスを設立、「今を生きる女性の暮らしをアップデート」というコンセプトを掲げたメディア「Ladyknows」を運営する牧野圭太氏のおふたりに対談いただきました。
■「僕」ではなくて「男」の傾向だったんだ、って
――『よかれと思ってやったのに(以下、よかおも)』は主に男性に向けた本ですよね。
清田隆之(以下、清田) そうですね。女性から「こういう男性に困っている」という話が、あまりにも似たようなケースが多いので、「同じ男性としてこれをどう受け止めるべきか」「どうしたらこれが男性に伝わるかな」と思いながら書きました。
『よかれと思ってやったのに 男たちの「失敗学」入門』より
牧野圭太(以下、牧野):いやもう、読んでいて、胸が痛かったです。
清田:心当たりがありましたか。
牧野:たくさんありました。特にドキッとしたのは「決断を先延ばしにする男」かな。たとえば僕も、恋人と付き合って仲が深まっていくにつれて、結婚の判断を迫られる時期がくるんだけど、どうしても自分じゃ答えを出すことができないんですよね……。
株式会社カラス 牧野圭太さん
清田:まさに僕も同じようなことで20代後半のときに大失敗をしてしまいました。決断を先延ばしにしていた結果、長く付き合っていた彼女に愛想をつかされてフられてしまったことがありまして……。
牧野:難しいですね。ただ、僕はこの本を読んで、自分の痛いところを突かれたと思う一方で、「これは僕特有の傾向ではなく、男性の傾向なのか」という新たな気づきも得られたんです。
清田:そこに関係しているのが「ジェンダー(社会的性差)」だと思うんですよね。もちろん、ここに書かれている問題は男女問わず当てはまるものだと思うんですが、男性の方が陥りやすい傾向はある、とは言えるかもしれない。
たとえばアラサー世代の女性から恋愛相談を受けていると、彼氏がなかなか結婚を決断してくれない、みたいな愚痴が本当によく出てくる。
桃山商事 清田隆之さん
清田:そこでほぼすべての女性が口にするのが「妊娠のリミット」のことです。彼女たちは産む気のあるなしに関わらず、どこかタイマーが作動しているような感覚がある、と話している。一方の男性からそういう話を聞くことはほぼ皆無と言っていい。
結婚の決断をめぐる問題の背景にはこのようなすれ違いが存在していて、あの頃の彼女も同じような思いだったのかもしれない……とめちゃくちゃ後悔しました。
牧野:結局すべては想像力の欠如につながるんだ、というのは本を読んで納得したところです。清田さんも、女性の話を聞き、具体的な背景を知ることで、今は想像できるようになった。そういう点でも、この本は男性の想像力を鍛える本としていいな、と思いますよ。
■社会のリテラシーに業界の変化が追いついていない
清田:この本は男性読者に向けて書いたものですが、「これって男だけの問題じゃなくない?」という反発がくることが正直少なくありません。牧野さんがどう読むか不安もありましたが、これほど率直に「胸が痛くなった」と言ってくださったのはなぜか、その気持ちの経緯が知りたいです。
牧野:うーん、なんでだろう。もし僕がまだ20代のときだったら、ピンとはきてなかったかもしれない。というのも、僕は30歳で起業したんですけど、それまでは博報堂の中でも下っ端、とにかく奴隷のように働いていて、自分のことでいっぱいいっぱいだった。その後、自分で会社を作り、女性を雇い、一緒に働くようになったら「女性ってこんなに働きづらかったのか」って驚いたんです。
清田:なるほど。
牧野:たとえば、生理についても、毎月これだけの期間こんなに苦しいのか、みたいな気づきがある。もしくは、いろいろなところに仕事で出向くと、ナチュラルにセクハラ発言を受けている現場を目の当たりにしたりする。あれ、今ってこんなにひどい状況だったのか、と30歳を過ぎてからようやく実感できた。
清田:知り合いの働き方を見ていると、広告業界って、時間の境もなくて、プロジェクトのためには寝泊まりは当然、というようなイメージがあります。そうするとどうしても、女性の身体にフィットしない、マッチョな労働環境になってしまうのではという気もします。
牧野:そうですね。やっぱり男性社会になってしまうし、僕が会社にいた頃は、チームに女性がひとりもいないことも多かった。
清田:あと、「彼氏が忙しい人でなかなか会えない」「連絡がつきづらく、浮気してるんじゃないか不安」といった恋愛相談も結構多いのですが、そういう女性の話を聞いていると、彼氏が広告代理店勤めというケースがわりとありまして……。
牧野:そうなんですか。
清田:これは官僚とかパワーエリート系の企業の人たちにも当てはまるんですけど、めちゃくちゃタフな働き方をしながら、自由に使えるお金がたくさんある男性の破天荒な恋愛ぶりというか、それで泣きをみている女性の話を聞くことが多い。
もちろん、その仕事をしている人が必ずしもひどい恋愛をするというわけではないですが、恋愛観やジェンダー観に何か共通する部分が見えるような気もするんですよ。
牧野:僕は制作の現場で働いていて、あまり直接的な場面を見たことはないんです。ただ、話には聞いていることもありましたね。業界のセクハラパワハラ問題など、旧態依然としている部分はまだまだあると思います。
――たとえば昨今、広告はジェンダーについての問題で炎上するケースを多く見るようになった気がするのですが、そういった業界の体質と関係することはあるのでしょうか。
牧野:少なからずあると思います。というのも、僕はこの3年くらいで社会のリテラシーが急激に上がったな、と思っているんです。5年前だったらスルーされて終わっていただろうと思うような広告コピーが、想定外に炎上してしまった、というケースが多くある。
たとえば西武そごうの広告だって、内容自体はネガティブなことを言っていたわけではないんだけど、広告の伝え方や作り方の点で想像力が足りていなかった。
――3年前の着物の広告コピーが今になって炎上した件(※)もありましたね。
牧野:観衆の目が厳しくなっている。それをネガティブに捉えている人もいるだろうけど、僕は社会の変化としてはいい傾向だと感じています。ただ、その一方で、社会が変わる速度に、業界が変わる速度が追いついていないという現状がある。たとえば僕より上の世代にとってこの変化はキツいだろう、というのもわかります。20年30年やってきた常識が、たった3年程度でガラッと変わってしまう。
清田:戸惑いますよね。広告ってコミュニケーションの仕方が「1対n(不特定多数)」だから、そのnの多様性をふまえて配慮しながら、誰に向けてどういうメッセージを打ち出すか、まで考えないといけない。今の時代は特に、そこの配慮が欠けてしまうと直ちに炎上につながってしまうリスクがある。自分も文章を書く仕事なので、常にそのことは意識しています。
牧野:加えて、広告って当然エッジがないといけない。多様な人たちへの配慮をしながらもエッジを効かせる、というのはもう、針の穴に糸を通すような作業です。「これで広告業界が萎縮しないといいな」みたいな意見をいう人もいます。
ただ、僕はそこを追求できない限りはこの仕事はやめた方がいいのではないかと思ってもいる。その困難なところをやるのがコピーライターの仕事であり、想像力を大切にしないと広告は作ることができないですから。むしろ、これから広告がどう変わっていくのか、すごく楽しみながらやりたいくらいなんですけどね、僕は。
清田:たしかに「あれ言っちゃダメ、これ言っちゃダメ、じゃあ何を言えばいいの!?」と横槍を入れてくる人はいると思いますが、牧野さんが言う通り、そこを諦めるというのはクリエイティブを諦めるということかもしれませんね。
■「合理的に考える」を徹底すれば「フラット」になれる
――『よかおも』の失敗談や広告の炎上問題は、結局「女性の立場」に対する認識が甘かったり、想像力が足りていないことが主な原因として挙げられるわけですよね。その場合、どうすればもっと自分とは立場の違う人たちに対しても想像力を働かせて、配慮することができるのでしょうか。
牧野:難しいですよね。僕、よく「フェミニスト」と呼ばれることがあるのですが、正直なことを言うと、僕はフェミニズムについて深く勉強をしたことがないし、わかっていない部分も多くあります。ただ、経営者という立場でいうと「ビジネス上のフェミニズム」に限定した場合、女性が感じている格差をもっとなくし、働きやすくするべきだ、とは確信しているんですね。
清田:ビジネス上のフェミニズムですか。
牧野:ビジネス上での不均衡というのは明らかじゃないですか。たとえば数字だけでいえば、上場企業の女性役員は約4%です。もしこれが逆だったら、と考えてみる。96%の役員が女性で、その会社で僕は若手社員で、その中で頑張っていくのはかなり大変なんじゃないかと思う。
それが今女性が置かれている立場なわけですよね。男性社会で当然のように男性が出世していく中、ビジネスで戦っていきたいと思う女性にはかなり高いハードルがある。収入面の格差もそうです。働いていて年収が350万円以下って、たしか女性だと5〜6割ですが、男性は2割程度だったと思うんですよね。
そういった知識を得るだけでも、自分自身の想像力や言葉の伝え方って変わってくると思うんですよ。
男性では年間給与額300万円超400万円以下の者が523万人(構成比17.8%)、女性では100万円超200万円以下の者が473万人(同23.6%)と最も多くなっている。
1年を通じて勤務した給与所得者の1人当たりの平均給与は432万円(対前年比2.5%増)であり、これを男女別にみると、男性 532 万円(同 2.0%増)、女性 287 万円(同 2.6% 増)となっている。
ーー国税庁 民間給与実態統計調査(平成29年)より
清田:本の中でも取り上げましたが、「男性は下駄を履かされていることに無自覚」という問題もありますよね。
牧野:そうですね。それに、実際会社を経営してみて思ったんですけど、女性のビジネスチャンスって実はこの停滞している日本社会の中でもゴロゴロ転がっているんですよ。たとえば生理用品なども、作っている現場に女性が多くいたとしても上の立場で指揮をとっていたり決断をしていたりするのは男性社員だったりする。
でも、女性の身体や悩みに理解が深い女性社員がそこに入っていくことで、既存のものとはまるで違うものが生まれるかもしれない。……まあ、社員として働いていたらライバルとなってしまうわけで、そこは僕が経営者だったから単純にチャンスだと思えるだけかもしれませんが。
清田:不均衡をチャンスと捉える視点は経営者ならではかもしれませんね。とはいえ、経営者だからといって誰しも牧野さんのようにフラットに考えられるわけではないですよね。
牧野:僕の場合は、かなり合理的な性格だからか、感情のハードルがたまたまなかったんですよね。僕の会社で働いている女性社員に「彼女に頼みたい」と仕事の問い合わせがたくさんくる。それに対して「女なのに」みたいな気持ちはなく、「ビジネスチャンスだな」と感じる。仕事の上でも「男だから」とか「女だから」って考えてしまうのは、単に変な先入観に邪魔されているだけのようにも思います。
清田:なるほど、感情ではなく論理で考えるというわけですね。本には「教えて先生!」という、5名の男性性研究者へのインタビューも掲載されているのですが、その中のひとり、セクハラ問題の専門家である金子雅臣先生が同じようなことを言っていました。
金子先生は、アメリカでセクハラという概念を知り、日本に広めた方なんですが、先生は労働問題について、とにかく論理的に考えると言っていました。正しいなと思ったら相手の発言を受け入れるし、おかしいなと思ったら、その理由について考える。そのときに見つかった理由や導き出された結論が論理的であれば、それを信じる。そして、そこに男女のバイアスはあまり持ち込まない、と。
先生のお話や牧野さんのお話を聞いていると、「理屈で考えればこうなるよね」に忠実になっていけば、自然とフラットになるんじゃないかと思えてきます。そこに変なジェンダーバイアスが入ってくると、話が謎の方向にねじ曲がってしまう。
■男はもっと「幸福の調達先」を増やすべき
牧野:ただ、僕にもフラットになりきれない部分というのはあって。たとえば、女性に対しては「わからない」「だから想像しよう」と考えられるけど、男性に対してはどうしても「男だからいいだろう」と思って、無理な働かせ方をしてしまうときがある。男性の大変さに対しては無自覚だったりするんですよね。
清田:ああ、それはちょっとわかる気がします……。男性相手だと途端に「俺がお前くらいのときは徹夜してたし」「俺だってできたんだからお前もできる」みたいな謎にマッチョな発想になってしまうことがある。
牧野:適材適所の話でいえば、平均的に考えて男性の方が肉体的にパワーがある人は多いから、力仕事は男性に任せた方がいいかな、みたいな部分はある程度あると思います。ただ、男ばかり働かせてしまうと、結果的に彼らが成果を残していくことになり、結局男性が出世しやすい現状は変わらない、となってしまう気もする。
――男女平等の問題を考えたとき、そういった男性に対する世間のプレッシャーのようなものも解決しなければいけない課題になると思うのですが、そこについてはおふたりはどう考えますか。
清田:これは田中俊之先生など男性学の研究者がずっと指摘されていることですが、男性と仕事の結びつきがあまりに強すぎるという問題はたしかにあると思います。それを剥がすためには、物理的な労働時間の見直しはもちろんのこと、「男性が稼ぐ役割を担うべし」という価値観や圧力も、少しずつ解体されていくといいですよね。
清田:その一方で、そういった制度や意識の改革とともに、僕が個人的に思っているのは「男性はもっと“生活”をするべきでは?」ということで。漠然としていますが、要は衣食住やプライベートの時間です。
身のまわりを眺めても、男性たちの多くは毎日の仕事で心身ともにいっぱいいっぱいになっていて、休日は疲れを回復させるために休む……みたいな過ごし方をしている人が少なくない。家が単に寝に帰るだけの場になっている人が多数派です。
牧野:僕、今でもそうですけどね。生活、捨ててるんです。毎日夜中の3時頃帰ってきて、15分以内には寝て、次の日は仕事のために家を出る。電気がつかない家です。
清田:めっちゃわかります。自分自身も油断するとすぐにそうなってしまう。もちろんそれで人生が充実しているのであればなんの問題もないと思うんですが、男性って充実感や自己肯定感の調達先のバリエーションがとても少ないように感じるんですよね。
そうじゃなくて、好きな洋服屋に行くとか、毎日美味しいコーヒーを入れるとか、散歩するとか、誰かと他愛ないおしゃべりをするとか、「幸せの調達先」の選択肢がもっと多様になるといいなって思います。忙しすぎてそんな余裕ねえよって話かもしれませんが……。
牧野:男性自身が個としての主体性を回復する、ということでもありますね。
清田:それと合わせて、自分たちができる形でジェンダーによる不均衡を少しでも減らしていけたらいいですよね。男性優位な社会構造は女性の生きづらさに直結する問題ですが、それは我々男性自身をも縛りつけるものであると思うので。
僕は文章を書く仕事なので、意識や価値観に対してアプローチすることしか今のところできませんが、牧野さんの場合は経営者という立場で職場環境や働き方などを具体的に変えていくことができる。
牧野:そうですね。僕は、自分の会社から日本を代表する女性の経営者が生まれたらいいなと思っていて、そのためのサポートもしていきたいんです。
まだまだ道のりは長いけど、たとえば今の博報堂の新卒の女性社員の率は、10年前に比べてずっと高いんですよ。僕のときは、たしか2割くらいだったと思いますが、今は4割くらいかな? かなり増えているはずです。そうやって次第に女性社員の比率が上がっていけば、確率的に女性のリーダーが増えていく可能性は高まる。そして、僕自身もその波に乗っていけたら、と思っています。
清田:女性の昇進をさまたげる見えない障壁を「ガラスの天井」と言いますが、それとはまた別に「Sticky floor(ねばねばの床)」という言葉があることを最近知りました。これは「低い賃金の仕事を割り振られやすく、その状態が長く続くこと」を意味する言葉だそうです。また、普通に働きたいのに、働きづらい環境のせいでパフォーマンスが上がらず、「やっぱお前ダメじゃん」と低い評価を下されることに腹を立てている女性も少なくありません。
生理痛、妊娠出産育児などに理解のない職場環境だったり、嫉妬で足を引っ張ってくる男性社員だったり、働きづらい中で頑張ることを強いられている女性ってめちゃくちゃいるじゃないですか。これってたとえるなら、整備された芝生の上でサッカーしている人とボコボコの地面でサッカーしている人の差にも似ていると思うんですよね。ボコボコの地面でサッカーをしているチームが本来の力を発揮できなくても、それはその人たちのせいじゃない。
だからこそ、その不均衡を理解し、できれば肌で感じた上で、「じゃあこうして変えていこう」「その方が数字としてもいいじゃん」と合理的なモチベーションに基づいた環境整備を進めることができたら、社会としても少しずつ変わっていけるような気がします。
※ ツイッターでの拡散をきっかけに、2016年の呉服店「銀座いせよし」の「ハーフの子を産みたい方に。」という広告コピーに批判が殺到した。
記事を書く仕事をしています。ハリネズミのおはぎとロップイヤーのもなかと暮らしている。Twitter:@osono__na7