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”男性の生きづらさ”から脱出。「見栄」よりも「プライド」重視で生きる

「男らしさ」には有害な一面がある。けれど、一方で物事をプラスに動かす側面も持ち合わせている。

”男性の生きづらさ”から脱出。「見栄」よりも「プライド」重視で生きる

DRESS7月特集「男の子のこと」では、「男らしくあれ」という過剰な期待を押し付けることなく、これからの男の子たちが自分らしい人生を表現していくために、私たちができることを探っていきます。

前編では、「男らしさ」が男性に及ぼす影響について、男性学の第一人者である田中俊之さんと女性向けAV男優として第一線で活躍する一徹さんにお話を伺いました。しかし、ただ「男らしさ」を批判するだけでよいのでしょうか。後編では、「男らしさ」がもたらす恩恵にも話を広げておふたりに話し合ってもらいました。

■男らしさは、プラスにもマイナスにも作用する

社会学・男性学・キャリア教育論を主な研究分野とし、男性学の第一人者としてさまざまなメディアで活躍している田中俊之(たなか・としゆき)先生

田中俊之(以下、田中):ここで「男らしさ」「女らしさ」といった性役割について、興味深い映画をご紹介したいと思います。スウェーデンで2014年に公開された『フレンチアルプスで起きたこと』という映画です。

一徹さん(以下、一徹):どんなストーリーなんでしょうか?

田中:スキー場に遊びに来ていた一家に雪崩の危機が迫り、父親だけが逃げ出したため5日にわたってその男らしくない行動をなじられる、という内容です。この出来事で家庭内における父親の地位はガタ落ちし、それを必死に挽回しようとする男性の姿が描かれています。面白いのは、この映画が男女平等で知られるスウェーデン発ということなんです。

一徹:男女平等が進んでいる国でも、いざというときには「男性が家族を守るべき」とか「勇敢であるべき」と思われてしまうってことですよね?

田中:そうなんです。「男性=家族を守る存在」というふうに、「男性だからこうすべき」という気持ちは、男女ともに持ってしまう傾向があります。

たとえば通り魔が襲ってきて、襲われた人の中に自分しか成人男性がいないのであれば、そのときは戦うべきなのか? ということも考えます。勇敢に立ち向かった方が社会的地位を得やすいということになるのか? という疑問も出てくる。社会全体の雰囲気として「いざというときには男性に頼っていいよね」という考えが残ると、完全な男女平等は難しいですよね。

「有害な男らしさ」とよく言われることがありますが、有害さがあるからこそ物事が動くこともあります。権力が常に悪というわけではなく、たとえば、会社のような組織で大きな事業に取り組む際には、誰かがリーダーシップを取って強引に物事を進めなければいけない場面もあるはずです。その結果、成功すれば「男らしい」と評価されるわけです。みなさんはそれをどう捉えるのでしょうか。

一徹:田中先生のお話を聞いていると、僕は「男らしさ」はハサミのようだなと感じます。使い方によって、プラスとマイナスの両方の結果をもたらすなと。

田中:一徹さんがおっしゃる通り、「男らしさは有害だ」と一方的に批判はできないんです。

■「こうあるべき」という理想を、現実とどうすり合わせるか

女性向けAVの男優として活躍し、2018年には自身が監督するAVレーベルも立ち上げた一徹(いってつ)さん。

一徹:田中さんには3歳の息子さんがいらっしゃいますよね。子育てではどのようなことに気をつけているのでしょうか? 小さいころから「男女は平等なんだよ」と伝えているのか、息子さんが「女々しい」と言われていたらどうするのかなど、お話を伺いたいです。

田中:僕の実体験をお話しします。息子が「僕もおままごとをしたい」と言ったことがありました。よく話を聞いてみると、公園で女の子たちがおままごとをしていて、そこに混ざりたいと。僕は「『仲間に入れて』と伝えたらいいんじゃないかな?」と息子に伝えたんです。

次の日にその後どうなったかを聞くと、「『あっちに行って』と言われた」と残念そうにしていました。もちろんすべての女の子がそういう対応をする……というわけではありません。ですが、2~3歳でも、女の子には女の子の領域があるわけです。

特に親が注意すべきことは、理想と現実をわけて考えること。息子のケースのように、親が「性別にとらわれなくていいよ」と伝えても、社会がそうじゃないケースは多々あります。

一徹:理想と現実をわけるって大切ですよね。「こうあるべき」とは簡単に言えますけど、世の中は理想通りに動くとは限らない。

田中:「男女は平等であるべき」や「性はもっと解放されるべき」とよく言われますが、そんなにシンプルな問題ではありません。「どうあるべきか」と「どうあるか」を区別しないと、男女をめぐる問題はいつもこじれてしまうんです。

お子さんにジェンダーの教育をする際には、現実とどうすり合わせるかを頭に入れて考えることが大切ですね。

一徹:男らしさや女らしさを子どもに教える適切なタイミングはいつなのでしょうか?

田中:中学生や高校生になってからでいいと僕は思います。そのときにも、「こうあるべき」ではなく、「性別を問わず、生き方にはたくさんの選択肢がある」と伝えたらと思っています。

個人的には、小さいころの性教育について僕も悩んでいることがあります。男女の区別を教えるとき、「男の子にはちんちんがある」「女の子にはちんちんがない」と言いますよね。これだと、男には「あって」、女には「ない」、つまり女性は男性に比べて何かが欠如しているという考えを根付かせかねない。女性器の名前を「ちんちん」のように呼びやすくしたら解決するのかもしれませんが。

■見栄を捨てて、プライドを大切にする

一徹:プライベートな話なのですが、僕は40代に入り、この先が不安でたまらなくなることがあるんです。それに、自分って頼りないなと思うんですよ。撮影現場では、進行について女優さんに決断を委ねることがあるのですが、僕のその行動が「リードしきれていない」ととらえられることがあって……。

田中:一徹さんのように「自信がない」と堂々と口に出せるのは素敵なことだと思います。

以前ラジオ番組で、大竹まことさんとご一緒したことがあります。そこで今後のキャリアについて彼に相談したところ、意外にも「わからない」と仰ったんです。「自分には信念がないし、何が正解かわからないから、若い人にアドバイスを求められても無責任なことを言えないんです」と。僕はその姿に感銘を受けましたね。大竹さんほどの地位を得て、第一線で活躍している人でももがいている。しかもそれをストレートに言えてしまうってすごい。

この話から言えるのは、「見栄」より「プライド」重視で生きることの大切さです。「男性はプライドが高い」と表現されますけど、実際には見栄っ張りが多いだけです。見栄は比較です。自分の方が高い時計を身につけているとか、タワマンで上階に住んでいるなどですね。一方でプライドは、これまでの経験で培ってきた独自の判断基準のことを指します。自分なりの美学とか、周りの意見に左右されない意思があるかどうか。

一徹さんはAV男優として15年のキャリアを持っています。葛藤もあったのでしょうが、ここまで実績を残してきた自分にプライドを抱いているはず。「自分って頼りないな」とさらっと言えるのは、見栄を張る必要がないからなんです。

一徹:そう言っていただけるとうれしいです……!

田中:そのためには、思考錯誤をしながら自分にとってこれだと思えるものを確立していくことが大切なのかなと思います。

一徹:ただ、プライドを確立するって難しい気がします。

田中:僕は試行錯誤のない人生はないと思っています。誰の人生にも面白いポイント、こだわってきたことがある。サラリーマンを40年続けてきた人が全員同じような人生を送ってきたわけではありません。

自分の経験から「こだわりをもって取り組んできたこと」「一生懸命考え抜いてきたこと」を探ってみる。自分を掘り下げて認めてあげられるようになると、自分をよく見せようとしなくなると思うんです。それに、認め合える仲間がいれば最高ですね。

一徹:できるだけ早く見栄を捨て、プライドを大切にして生きることが、男性の生きやすさにつながりそうですね。世の中には、無理して高いものを身につけたり、豪華な暮らしをする人がいます。満たされる面もあるのでしょうが、そういった人たちを見ると、ちょっと辛そうに見えることもありますから。

田中:悪いことではないですが、向き不向きはあるでしょうね。僕は息子と一緒に近所の王将に行き、ラーメンと半チャーハンを食べるときに幸せを感じます。息子がラーメンを一生懸命にもぐもぐしている姿がかわいいんです。この「王将いいよね!」と言える仲間がいるかどうかも大切ですね。

一徹:わかるなあ。何気ない日常の一コマに幸せを感じるものですよね。僕もプロジェクトが終わって、メンバーと「おつかれさま!」と言いながら食べる餃子とビールが最高に美味しく感じますね。周りがどうとらえるかではなく、男らしさ、女らしさを超えて、自分らしさを大切にして毎日を過ごそうと思います。

「いい大学を出て、いい会社に……」競争を強いる社会が男性に与える影響

取材・Text/薗部雄一
Photo/DRESS編集部

田中俊之さんプロフィール

1975年生まれ。大正大学心理社会学部准教授。男性学を主な研究分野とする。著書に『男が働かない、いいじゃないか!』(講談社プラスα新書)、小島慶子×田中俊之『不自由な男たち――その生きづらさは、どこから来るのか』(祥伝社新書)、田中俊之×山田ルイ53世『中年男ルネッサンス』イースト新書……などがある。「日本では“男”であることと“働く”ということとの結びつきがあまりにも強すぎる」と警鐘を鳴らしている。

Twitter:@danseigaku

一徹さんプロフィール

1979年生まれ。大学卒業後、公認会計士試験の勉強中に見つけたエキストラ男優募集をきっかけにAV業界へ。業界初のメーカー専属AV男優として、女性向けAVメーカー「SILKLABO」で活動した後、2017年よりフリーに。著書多数で、最新作となる『セックスのほんとう』が好評発売中。

Twitter:@1102_ringtree

DRESS編集部

いろいろな顔を持つ女性たちへ。人の多面性を大切にするウェブメディア「DRESS」公式アカウントです。インタビューや対談を配信。

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