10代も「男だから奢らないと」って思うの? 30歳ゲイが19歳YouTuberカップルのジェンダー観を聞いてみた
どんな人がモテる? 「男/女らしい」ってどういうイメージ? 中高生を中心に大人気の「なのカップル」(なのさん、かいくん)に聞く、10代のジェンダー観。
男らしさ、女らしさ。
最近、性別によって「こうあるべき」を押しつける価値観が、少しずつ変わってきているように感じます。有毒な「男らしさ・女らしさ」を子どもたちに押しつけず、より自由で選択肢のある生き方を作る。そんな未来も、すぐそこに迫ってきている……のかも!
そこでみなさん、今回は、私たちのジェンダー観がどのように次世代に引き継がれていっているのか、少し覗いてみませんか?
今からお届けするのは、「10代カップルのリア充な日々」をお届けするYouTuber・『なのカップル』のなのさん、かいくん、「世の中とLGBTのグッとくる接点をもっと」をコンセプトに掲げるWebメディア『やる気あり美』の編集長・太田尚樹さんの3人で、「10代の男女は“男らしさ、女らしさ”をどうとらえているのか」をテーマに対談した様子です。
「タピオカってホントに流行ってるの……?」というジェネレーションギャップ全開の質問から始まったこの対談、出だしから意外な展開へ転がることに。
令和を生きる10代がどのようなジェンダー観を抱いているのか、ぜひご覧ください。
参加者はこちらの3人!
なのカップル(なのさん:19歳/かいくん:19歳)
10代カップルならではの「リア充な日々」を配信するYouTuber。2018年12月にチャンネルを開設後、わずか半年でチャンネル登録者数は18万人、総視聴回数は2000万回を突破。高校時代から交際を始め、今や多くの中高生の憧れカップルとして人気を博している。
太田尚樹さん
「世の中とLGBTのグッとくる接点をもっと」をコンセプトに活動を続けるクリエイティブチーム『やる気あり美』の編集長。大人になってからゲイであることを告白し、現在は学校で生徒向けにLGBTをテーマにした講演なども行っている。バレーがマジで好き。
■令和の10代。ジェンダー観は変わっていなかった
太田
ごめんね、いきなりタピオカのこととか聞いちゃって……。僕ら一回りくらい年齢が違うからいろんなギャップがあると思うけど、今日はよろしくね!
なの、かいくん
はい、よろしくお願いします!
和やかな雰囲気で鼎談がスタート。話題はさっそく本題へ……
太田
今の10代の子たちにとって、「男らしい」とか「女らしい」ってどんなイメージなの?
僕は中高時代に親から「男なんだからこうしなさい!」ってめちゃくちゃ言われてて。わかりやすいところだと「メイクなんてするな」「サッカー部に入ればモテる」みたいな価値観の圧をすごく感じていて、ずーっとホントの自分を出せない思春期だったんだけど、今って、どんな感じなんだろう?
なの
「男らしい」はいざというときに守ってくれる、「女らしい」は影で支えるイメージですね。ごはんやお弁当を作ったり……。
かいくん
男らしいのは、筋肉があるとか、強い感じ。女らしいのはその逆で、ちっちゃくて弱い感じ。守ってあげたい、みたいなイメージです。
僕も太田さんのように、「男らしさ」を押しつけられてると感じる場面は……けっこうありますね。
太田
どんなとき?
かいくん
中学生のころ友達と喧嘩をして、僕は殴り返さず、一方的に殴られたことがあったんですけど、「なんで男なのにやり返さないんだ」と先生に言われて。先生が何を言ってるのか、全然わからなかったです。
穏やかな語り口からも、物腰柔らかな人柄がじんわりと伝わってくるかいくん
かいくん
あとは、本当は割り勘がいいのに「男だから奢らないとカッコわるい」みたいについ払っちゃったりとか、「男だから稼いで一家の大黒柱にならなきゃいけない」みたいなプレッシャーを感じたりとか……まだまだそういうシーンが多いかなって思います。
太田
そうなんだ……! ジェンダー観、僕らの時代と全然変わってないじゃん。
時代ってやっぱり、そんな一瞬では変わらないのかなあ……。
「モテ」はどうなの? 結局そういう「男らしさ」のある人がモテてる感じ?
かいくん
「男らしい男子がいい」と思ってる人は普通に多い……よね? 個人的にはそういう人が9割くらいだと思うんだけど。
なの
どうだろう、案外7割くらいじゃないかな? 女子目線でいうと、最近は女子が男子を好きになるポイントってものすごく多様化してると思っていて。
今回の取材で終始冷静な分析力が冴えていたなのさん。多様化とはいったい……?
なの
それこそ「背が低いところが好き」とか「かわいいから好き」とか、「男らしさ」を求めてない女子も意外と少なくないし、それをよしとする雰囲気もわりとあるんですよね。中性的な雰囲気のアイドルもすごく人気があるし。
100人に聞いたら80人は違う男子を選ぶんじゃないかってくらい好みの幅は広がっていて、言うほど「男らしい男子」の一強ってわけではない気もします。
たとえば、かいは“男らしくない”の象徴みたいな感じですよね。線が細くて髪長くて、「僕、できません〜」ってすぐ言えちゃうけど、私はそこが好きです。
太田
なるほど。女性のそういう意見が、案外男性には届いてないっていうのがあるのかもね。みんな思い込みで、必要以上に「男らしくいなきゃ」って背負いすぎちゃってる部分もあるのかもしれないね。
■「男らしさ」「女らしさ」より、「自分がそうしたいか」を大切にしたい
太田
とはいえ、「男だから」「女だから」がいまだに根強く残ってることにけっこう驚いてるんだけど、なのカップルのおふたりは、「男らしさ」「女らしさ」とどう付き合ってるの??
お付き合いを続けるなかで、「男らしくあろう」とか「女らしくあろう」とか考えちゃわない?
なの
相手の好きな服を着たいとか、好きなお菓子を作ってあげたいとか、「女だからそういうのやろう」というのはありますね。
太田
それは、「女だからやらなきゃ」っていう感じなの?
なの
うーん、「やってあげたい」ですね。
自分がやりたいことならやればいいし、自分には合わないと思うことはやらない。
太田
なるほど。具体的に言うと?
なの
たとえば、「女だったら料理はできて当たり前」みたいなジェンダー観あるじゃないですか。
太田
ああ。「女としてどうなの?」みたいなの、あるよね。
なの
そうです。私もともと料理が苦手で、彼のほうが上手なくらいだったから付き合いたてのころはめちゃくちゃ気にしてすごく練習してたんですけど……。
太田
気にしてたんだ。
なの
でも、彼は「別にできなくてもよくない?」と言ってくれて。だから今は、「作ってあげたい」と思えたときに作るスタイルなんです。
太田
それ、最高だね! 僕らの世代は、「料理が苦手」って女性として言いづらい、みたいな空気がなんだかんだ強いと思うんだよね……。
かいくんも、そのスタイルで全然問題なしって感じ?
かいくん
僕も「男・女がすべきこと」より「相手にしてあげたいこと」をしたほうがいいと思っているので、全然大丈夫です。
かいくん
僕も、荷物を持ったり、車道側を歩いたりするけど、それは自分がやりたいことをやってるだけ。
「男だからこうすべき」と思っているわけじゃないから、疲れてきたら彼女に「持ってくれる?」って言えます。
太田
たしかに、自分とギャップのある「男らしさ・女らしさ」を演じつづけるなんて、苦しいだけだもんね。
なの
「やらなきゃ」と思って義務感で何かをすると、「やってやったのになんでお前はやってくれないの?」みたいに我慢の押し付け合いになっちゃうと思うんですよね。自分に合わない「らしさ」は、最初から頑張らないほうがお互いにとっていい気がします。
太田
めっちゃくちゃ素敵じゃん……! 爪の垢を煎じて飲みてえわ。
ふたりにとって「男らしい・女らしい」は、背負わなくてはいけない義務ではなくて、気に入ったときに使う「選んで楽しむ形容詞」なんだね。
太田
ただ、まだまだ「男らしい男子」「女らしい女子」がモテる現状があるからこそ、みんなつい「らしさ」を目指しちゃうんだろうね……。
ふたりは、そういう「男/女らしくいなきゃ」って苦しんでいる人に、なんて言ってあげたい?
なの
たとえば、「苦手だけど、女だから料理ができるようになりたい」って考える人もいると思うんです。それはいいと思うんですけど、もし頑張ってもできなかったら、素直に認めたらいいんじゃないでしょうか。「できなかったけど、頑張った」ってかわいくないですか?
太田
うおお……たしかに……!
なの
そこで見栄を張ったり嘘をついたりする必要はないと思います。「できるようになりたいから頑張る、頑張ってもできなければそれはしょうがない」って素直になれればいいんだと思います。
太田
いや、ほんとそうだわ……。かわいいよね、できるようになろうと頑張るってことって。それで無理ならまた相手と話し合えばいい。大人は「らしさ」に縛られず、もっと“対話”しようってことだよね。素直さ、大事。
■「親とインターネット」が、“自分らしく生きる勇気”をくれた
太田
でもさ、みんながみんな、なのさんたちみたいに「自分らしく」いられるわけじゃないとも思うのね。
「自分らしく」ありたいと思っても、ひとりになっちゃうのが怖くて踏み出せない子もたくさんいると思うんだけど、どうしてふたりはそう思えるようになったんだろう?
なの
うーん……「親とインターネット」のおかげかな。
太田
親とインターネットですか……!
なの
うちは父がわりと固い考え方で「ピアスを開けてる男はダメ」「髪が長い男はダメ」と、かいとの交際にも口出ししてきたんですけど、母が「何それ!」って猛反発して倒してくれて。
厳しいけどお母さんにはめっぽう弱いお父さん、ちょっぴりかわいいと思ってしまいました
なの
母が「好きなことをして生きていきなさい」と自由に育ててくれたおかげで、「男らしさ」「女らしさ」に縛られた経験がほとんどないというのが、今の私の考え方に大きくつながっている気がします。
かいくん
僕も「かわいい、かわいい」と育てられたので、「男らしさ」を気にすることがほとんどなくて。だからこそ、そこのジェンダー観にこだわりがないんだと思います。
太田
たしかに、僕は親に「男なのに」って言われてたからこそ「自分らしくていい」と思えるまでに時間がかかったんだと思うわ。
なの
あと、学校教育の効果も意外と大きいと思います。
私の中学はけっこうちゃんとしていて、性別の欄に「どちらでもない」が用意されてるような、性的少数者への配慮にも敏感な学校だったんです。
太田
へええ、進んだ学校!
なの
たとえば「男のくせに」と言うと先生に怒られたりするので、生徒も「“男のくせに、女のくせに”はよくないことなんだな」という感覚は根付いていたと思います。まあ、先生たちも「言わされてる感」はありましたけど……。
なの
でも、そのうえで私たちがもともと学校で「自分らしく」いられたかというと、そうではなくて。
かいも友達はほとんどいなかったし、私も中学・高校でイジメられていたし、ふたりともスクールカーストでは底辺にいるタイプだったんです。移動教室のときもずっとひとり、みたいな。
太田
ええっ、そうなの!?
なの
本当に底辺だったので、クラスのヒエラルキーみたいなのはめちゃめちゃ気にしてましたね。「他の子に迷惑かけちゃいけない」って常に思ってました。
だけど、学校でひとりになってしまったって、「自分と価値観の合う人はこの世界にたくさんいる」と気づくことができるのがインターネットだと思うんです。
かいくん
僕たちは、YouTubeに挑戦してはじめて、自分たちの感覚を受け入れてくれる人たちと出会うことができたんです。
ふたりがアップするYouTubeの動画には、毎回たくさんの好意的なコメントが寄せられている
かいくん
学校では「自分らしさ」を認めてもらえないことがたくさんあったし、何をするにしても否定されるんじゃないかって怖かったけど、学校の外に目を向ければ「自分と同じ価値観」の人たちはたくさんいる。そこに気づけたら、「自分らしくあること」に少し自信を持てるようになるんじゃないかな。
太田
……これ、しょうもない話なんだけどさ。僕はずっと「ホントの自分」を出せない思春期を過ごしてきたから、大人になってようやくちゃんと恋愛できるようになったのね。
だから未だに思春期の感覚で恋愛してて、失恋すると「相手に好かれる自分にならなきゃ」ってどんどん思い詰めちゃって、自分が本来持っている良さが全部キモく思えてくるようなヤバい状態に陥っちゃったりしてさ(笑)。
だから、ふたりの話を聞いてすごく励まされてるわ、今。
■自分らしくあるために。声に出して、伝えていく
太田
今日お話を聞いていて、全体から見たらまだ1割とか2割かもしれないけど、10代のなかからなのカップルのおふたりみたいに「自分らしさを表現する人」が出てきてることが本当にすごいと思うし、うれしいなあ。
僕らの時代は、そういう声が表に出ることがまずなかったから。
かいくん
「自分らしく」あるためには、とにかく素直に声に出して、話し合うしかないと思うんです。
かいくん
もしそれで友達やパートナーに「えっ?」って嫌な顔をされちゃっても、ずっと自分を押し殺して気を張っていつか壊れちゃうくらいなら……言っちゃったほうがいいと思う。
言ってみないと、相手がどうとらえるかだってわからないし。
僕の場合、昔は髪も黒かったし、いわゆる“普通”でした。でも彼女と付き合うときに「服装とかこんな風に(今みたいに)したいんだよね」という話をしたら、「自分が好きなようにすればいいんじゃない?」と言ってくれて。
高校時代のなのさん、かいくん
太田
なのさんのお母さんと一緒だ!
なの
誰に言われたわけでもないのに、勝手に自分が「こうしなきゃ」って思い込んでるだけのときもたくさんあるしね。
太田
いやあ、こうやってなのカップルのおふたりが「自分らしくある姿」をネットで発信していくこともまた、誰かを勇気づけているんだろうなあ。
そうやって立ち上がる若者の姿に触れて「自分のままでいいんだ」って思えるようになってきた流れも大きいだろうから、おふたりはすごく価値のあるいいお仕事をされてるんだなあって改めて実感しました。
今日はありがとうございました!
なの&かいくん
ありがとうございました!
■おわりに
取材の終わり、「おじさん・おばさんだから『男らしさ・女らしさ』にとらわれてるとか、10代だから価値観が新しいとかじゃなくて、自分らしく生きることを大切にしてる人の割合が今、全世代で同時に増えてきてるのかもしれないね」と、太田さんは話していました。
ジェンダー観って、年代による差は意外とないのかもしれません。
そう思うと、10代などとっくに過ぎ去ってしまった大人たちも、つい親世代と同じ考え方をしてしまう10代の人たちも、「自分は古い考え方の人間だから」と卑屈にならなくてもいいのではないでしょうか。
大人も子どももみんなで一緒に頭を悩ませながら、自分らしさを阻む「男らしさ」「女らしさ」に立ち向かっていく。
そんなイメージを膨らませながら、一人ひとりが「自分らしい人生」を追いかけることができたら、きっと少しずつ世界も「自分らしく生きられる世の中」に変わっていくはずです。
Text/サノトモキ(@mlby_sns)
Photo/高城つかさ(@tonkotsumai)
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