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古いジェンダー観では、もう日本は機能しない。“男尊女卑依存症社会”から脱するための第一歩

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歪んだ“男らしさ”に染まった男性は、いつか他人や自分を苦しめかねません。本シリーズでは、幼い子どもたちにジェンダー観がインストールされていく機会や、その対策を洗い出してきました。最終回となる今回は、これから社会に求められる変化を考えます。

古いジェンダー観では、もう日本は機能しない。“男尊女卑依存症社会”から脱するための第一歩

■社会はもう“男らしさ”だけではうまく機能しない

子どもたちにジェンダー観がインストールされるのは、幼児期や学童期といった早い段階。おもに家庭・社会・メディアから受ける影響が大きいという事例を、前回までの記事で見てきました。

近年ジェンダーにまつわる問題がフィーチャーされるようになったのは、日本社会が変わりつつあるから。大森榎本クリニック精神保健福祉部長(精神保健福祉士・社会福祉士)の斉藤章佳(さいとう・あきよし)先生は、状況をこう分析します。

「男らしさ――いわゆる体育会系的な価値観に基づく社会は、もう破綻しているのです。女性の社会進出がますます増えるなか、各国における男女格差を測る『ジェンダー・ギャップ指数』で、日本は149か国中110位と、先進国にずいぶん後れを取っている。問題は山積みだけど、#Metooや東京医科大学不正入試問題、3月に4件続いた性犯罪無罪判決を契機に始まったフラワーデモといった世論の高まりもあり、このままではダメだという空気がようやく生まれつつあります」(斉藤先生)


斉藤先生は「依存症や犯罪は、“社会をうつす鑑”」だと考えています。一人ひとりが新しい価値観をインストールしてアップデートしていくことも大切だけれど、それだけではまた社会のなかにある既存の価値観にのみこまれて、同じ悲劇を繰り返してしまいかねない。その典型が「性差別」。だからこそ、社会にある“前提の価値観”を変えていく必要があるのです。

■まだ柔軟な子どものうちから、価値観を変えていければ

地方自治体の児童福祉部署で、保育所や認定こども園の監査を担当している山内菜穂さん(仮名)。各施設の実地調査を通じて、人員配置や給食などが基準を満たしているか調査していくポジションです。働きはじめて1年ほどの山内さんは、おもに設備面をチェック。具体的な保育の内容を精査するのは、厚労省が出している保育所保育指針を熟知したベテラン職員だといいます。

「保育所保育指針には、すでに『子どもの性差や個人差にも留意しつつ、性別などによる固定的な意識を植え付けることがないようにすること』という項目が明記されています。だけど、監査する職員のあいだでこの部分が話題になったことは、少なくとも私が見る限りではありません。たとえば、保育園の監査に訪れたとき、女の子はおむつを履いているのに、男の子たちは下半身丸出しで整列させられていました。私からすると『男の子は裸を見られても大丈夫。細かいことを気にするな』という価値観の押しつけに見える。でも、残念ながら私はまだそれを指摘できる立場にないし、そこに気付いて注意してくれるようなベテランの職員もいないんです」(児童福祉課・山内さん)


指針があっても、具体的にどう対応していくかは現場に委ねられています。そもそも設備などのチェックをするだけで手一杯だったり、保育内容の検討は職員の個人的な感覚に左右されていたり……。ルールが機能して、社会にある“前提の価値観”にアプローチするには、まだすこし時間がかかりそうです。

■だけど、空気は確実に変わってきている

山内さんは、自身も2歳の娘を育てています。母親としても、社会のジェンダー観に違和感をおぼえる場面は少なくありません。

「保育園や幼稚園の見学に行くと、正座を『お母さん座り』と呼んでいます。『家庭のなかで正座を求められているのはお母さんだ』『お父さんはあぐらでもいいよ』みたいな意識付けは、古い価値観の再生産としか思えません。子どもたちが触れるメディアもそう。人気アニメの『おしりたんてい』は、テーマソングで『かよわいレディー 守るが正義』と歌っているけれど、かよわい人は男女問わず守るのが正義でも良いのかなと思います」(児童福祉課・山内さん)


だけど、それでも個人の空気は少しずつ変わってきている、と山内さん。

「あるとき、4歳の息子と0歳の娘がいるお母さんが『お兄ちゃんはピンクが大好きなんだよね、オカマになったらどうしよう』と話していたんです。そのお母さんは、いわゆる女性らしい男性やゲイに対して、男らしさの規範を外れているからそうなってほしくない、と思っている。母親のそんな言葉を聞いたら、男の子は自分を無理やりにでも矯正しようとするかもしれません。

それで私が言葉に困っていたら、隣にいた別のお母さんが『いまの時代、子どもたちは何になるかわかんないんだから、私たちも覚悟しなきゃだめだよ~』と明るく言ったんです。まずは難しいことは抜きにして、単純に『これもアリか』と受け入れられる空気をつくればいいんだなって、すごく希望を感じました」(児童福祉課・山内さん)

■日本は“男尊女卑依存症社会”になっている?

いまの日本を“男尊女卑依存症社会”と指摘する斉藤先生。新しい価値観を得て、日本がこのような不可解で巧妙で強力な依存症から回復していくためのステップを、3段階でとらえています。

1.認める
まずは、自分たちの暮らす社会から“男尊女卑的価値観”を刷り込まれ、自分たちは知らないうちに依存している。歪んだ「男らしさ」や「女らしさ」を押しつけあっている、と認めること。

2.信じる
家庭や社会をともに育む仲間を信じて、悪いところを指摘し合ったり、正しい方向に進んでいるかをチェックしあうこと。

3.まかせる(手放す)
いままで正しいと信じて疑わなかった古い価値観を手放し、「男らしさ」「女らしさ」という枠組みではなく、互いが協力して弱さを補い合える、多様性に寛容な社会をつくっていくこと。



女性が男性に忖度することで成り立っている社会、という前提で日本社会を見てみるとさまざまな男女の生きづらさが見えてきます。

「この“男尊女卑依存症社会”という言葉は、男女の分断を生むのではなく、相互理解を促す言葉です。あらゆる分断を埋めていくには、対話を続けることが重要です。“対話”と“会話”は違います。対話とは、他者を理解するためのコミュニケーション。男らしさや女らしさにとらわれず、さまざまな人と話し合い、お互いの共通点や相違点を見つけて、理解を深めていく作業です。

自分の弱さも、恥ずかしい失敗も、相手を信頼してオープンに伝えること。そのうえで、お互いを尊重する。そういったコミュニケーションから逃げたりあきらめたりせずに、しっかり対話できる人が増えれば、きっと社会は今よりもずっとよくなっていくと思います。”依存症”から回復しやすい社会とは、そうやって“カミングアウト”しても責められない社会だと思うから」(斉藤先生)



本シリーズ『男らしさのインストール』では、古いジェンダー観の弊害や教育現場での取り組み、いま子育てをする親たちができることをまとめてきました。もちろん、何十年と受け継がれてきた価値観をひっくり返すのは簡単なことではないし、絶対に正解の方法もありません。「男らしさ」というもの自体が、完全な悪だというわけでもないでしょう。

だけど苦しんでいる人がいるのなら、少しずつムーブメントが起きるといい。個人の違和感や対話の先で、空気やルールが変わり、男女を問わず生きやすい社会につながっていくことを、DRESS編集部は願っています。


>第1回:“男らしさ”による弊害。押しつけられたジェンダー観が生み出すもの

>第2回:理想を押し付けず、子どもがどうしたいのかを聞く。家族にも対話が必要な理由

斉藤章佳先生プロフィール

精神保健福祉士・社会福祉士/大森榎本クリニック精神保健福祉部長。 1979年生まれ。大学卒業後、アジア最大規模といわれる依存症ケア施設である榎本クリニックにソーシャルワーカーとして、アルコール依存症を中心にギャンブル・薬物・摂食障害・性犯罪・虐待・DV・クレプトマニアなどさまざまなアディクション問題に携わる。その後、2016年から現職。専門は加害者臨床で「性犯罪者の地域トリートメント」に関する実践・研究・啓発活動を行っている。著者に『男が痴漢になる理由』、『万引き依存症』などがある。その他、論文多数。

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菅原 さくら

1987年の早生まれ。ライター/編集者/雑誌「走るひと」副編集長。 パーソナルなインタビューや対談が得意です。ライフスタイル誌や女性誌、Webメディアいろいろ、 タイアップ記事、企業PR支援、キャッチコピーなど、さまざま...

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