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「いい大学を出て、いい会社に……」競争を強いる社会が男性に与える影響

あなたにとって男らしさとはどのような存在ですか?

「いい大学を出て、いい会社に……」競争を強いる社会が男性に与える影響

DRESS7月特集「男の子のこと」では、「男らしくあれ」という過剰な期待を押し付けることなく、これからの男の子たちが自分らしい人生を表現していくために、私たちができることを探っていきます。

女性活躍が叫ばれ、女性の生き方が注目されています。しかし、女性が本当の意味で自分らしい生き方を選んでいくためには、男性もまた生きやすくなる必要があるのではないでしょうか。

男性の苦しさの背景には何があるのか。それを探り、少しでも解決につなげたい。男性学の第一人者、田中俊之さんと女性向けAV男優として第一線で活躍する一徹さんが話し合います。対談レポートは、前編と後編の2本にわけてお届けします。

■デート代は男性が払うべき?

社会学・男性学・キャリア教育論を主な研究分野とし、男性学の第一人者としてさまざまなメディアで活躍している田中俊之(たなか・としゆき)先生

一徹さん(以下、一徹):そもそも田中先生にとっての「男らしい」とはどのような定義なのでしょうか?

田中 俊之さん(以下、田中):抽象的に言うと、「競争を優位に進めるために求められる特性」のことですね。ただ、この競争を勝ち抜く方法にはパターンがあります。たとえば、最近だとバラエティ番組に出て、「家事や育児をしない男性って古い」というポジションをとることで、相対的に男性の中での評価が上がっている芸能人の方もいますよね。

男らしいって一概にこういうものっていうのは言えなくて、優しい、ユーモアがある、気遣いができる、外見がかっこいいなど、強いこと、タフであること、セックスに積極的で、仕事ができること、地位がある……などのマッチョな特性に限った話ではないと考えています。

ちなみに女性には「協調性」が求められることが多々あります。一般的にケアワークは女性の役割だと思う人が多いです。保育士や看護師が「女性らしい」とされるのは、そうした理由があります。一徹さんは女性向けAV男優という仕事柄、男らしさを求められるシーンが多いのではないでしょうか。

一徹:かっこよくあってほしい、セックスをリードしてほしいとはよく言われます。セックスはお互いが楽しむものだし、どちらが主導権を握ってもいいはずなのですが、AVのストーリーは男性がリードする内容が主流です。中には逆パターンもありますが、男性から女性にアプローチし、セックスに導く作品の方が売れるんです。

田中:女性誌の中にある「愛されテク」や「男ウケコーデ」などの企画に似ていますね。これらは「男性がアクションを起こしたり、与えたりする側」「女性はリアクションをしたり、受け取ったりする側」という考えを表していて、こういった内容に対して心地良さを感じる人は一定数いるということです。だからこそ、「男らしいことの何がいけないの?」という意見が出てきやすくなる。この「男らしさ」がどういった問題を引き起こすのか? ということをきちんと伝えていかないといけない。

一徹:その問題(男性の生きづらさ)のわかりやすい例が「割り勘」だと僕は思うんです。僕は好きな女性との食事では払いたいタイプなんです。これまで意中の人に近づきたいという理由から「よかったらご馳走させてください」って感じでやってきたんですよ。割り勘はなんとなくかっこ悪いと感じてしまって……ただ、これはお金を使って競争に勝とうとしているのかなと感じます。

僕の知り合いの友人には「男女平等だからごはんは割り勘。帰りのタクシー代もワンメーターしか出さない」というスタンスの人がいます。彼に比べてみたら僕は男らしさにこだわっているのかもしれません。

■男性の生きる道には、選択肢がほとんどない

女性向けAVの男優として活躍し、2018年には自身が監督するAVレーベルも立ち上げた一徹(いってつ)さん。

一徹:田中先生はどんなときに「男性として生きづらい」と感じますか?

田中:働き続けること、「仕事」ですね。なんで男性は大学を卒業してから40年も仕事を強いられるのか。その疑問が僕の研究の原点です。

一徹:田中先生は『男が働かない、いいじゃないか!』という本も書かれていますしね。

田中:一般的に男性の人生は、「良い学校に進学し、優良企業に就職し、素敵な奥さんと結婚して家庭を持ち、働き手として家計を支える」という「一本道」になっています。ルートが決められているからこそ、その道から外れることに恐怖心を抱くんです。

一徹:僕は田中先生が言う「一本道」を歩んでいませんから、その恐怖心に関してはとてもよくわかります。大学時代に資格試験に落ちて、新卒のカードを使わないまま卒業して、将来どうしようと悩んでいたときに求人を見かけてこの世界に入りました。当時は相当に不安を感じていましたね。

田中:大学卒業後は正社員として就職し、ずっと働かなきゃダメ。さらに稼いで家族を養わなきゃいけない道だけしかないのは苦しいですよ。男性だからといって、誰もが競争を好むわけではありません。

実を言うと、僕は組織で働くのが得意じゃないんです。どの組織にも独自のルールがあるじゃないですか。でもそのルールはときに自分のやりたいことを阻む「壁」になりえます。ですがそういうルールがある組織で働けば安定的に”月給”をもらうことができます。フリーランスの場合は、仕事がないときは困りますよね。「自由」と「安定」の両立は難しいんです。

一徹:正社員かフリーランスかの二択で議論されがちですよね。組織に属さない働き方は確かに自由さはあるけど、収入をはじめとしたリスクもつきまとう。働き方にもっとゆとりがあれば、いまほどの辛さを感じないですむと思うんです。

■「男はこうあるべき」から抜け出せないのはなぜ?

一徹:いまやかつてのような「一本道」が当たり前ではなく、卒業後に起業する人もいるし、インターネットを活用して自分のやりたいことを仕事にして生きていく人もいます。こうした動きから、「男性の生きづらい」状況はやわらいでいくのではないでしょうか?

田中:「いい大学、いい会社に入って一生安泰」が成り立たないことは、1990年代から言われてきました。でも、多くの男性はいまだに辛さを抱えたままです。

その理由は、「昔と同じことをしている方が楽」だと考えているからです。「学歴がすべてではない」「大企業に入っても安泰じゃない」なんて言われることもありますが、勉強で好成績を収め、仕事で実績を上げて地位と収入を得る方が「成果が目に見える」わけです。これまで通り目に見える成果を残しておけば、親も本人も束の間の安心は得られる。だから結局男性の生き方はずっと変わらない。だからこそ、一徹さんの経歴は面白いと思うんです。


一徹:僕は「もしも明日死ぬとしたら何をしたいか?」と自分自身に問いかけたときの答えが「セックス」だったんですよ。それでたまたま男優募集の広告を見て応募して……。今こうやってお仕事をいただけているのは時代にたまたまマッチしたというだけなんです。だからもしも「一徹さんみたいになりたいです」と言ってくれる人がいても、何もアドバイスができないなって。

女性は男性に職業と経済力を求めているというデータがあります。「結婚相手に求める条件」というデータを見てみると、男性の経済力と職業を重視する女性の割合は年々増加していることがわかります。

一徹:競争を勝ち抜き、たくさんお金を稼げるかどうかを見られている環境の中で、不安定で再現性のない働き方を自信をもってすすめることなんてできないなと。

田中:一徹さんのおっしゃることはわかります。僕も時代がたまたま「男性の生きづらさ」に注目したから、現在のポストがあります。大学院時代に「男性学を勉強しています」と言っても、「何それ?」といった、鼻で笑うような反応ばかりでしたから。

ただ、今こうやって大学で仕事をさせていただけるようになってから言うのはズルいとは思うんですけど、僕の場合はそういう不安定なときも男性学という学問が好きだったんですよ。

一徹:そういう一本道とされる以外の生き方を選ぶには、勇気が必要ですよね。

田中:本当は違う生き方があると知っていても、多くの男性が「一本道」を歩もうとします。でもみんながその道を目指すわけですから、当然ながら競争は激しくなる。嫌だと思いつつも、競争の世界で生きざるを得ない、そんな負のループが起こってしまうんです。

取材・Text/薗部雄一
Photo/DRESS編集部

前編では、男性を苦しめる「男らしさ」ついて話し合いました。後編では、「男らしさ」がもたらす良い面をはじめ、より広い視野で見ていきます。

田中俊之さんプロフィール

1975年生まれ。大正大学心理社会学部准教授。男性学を主な研究分野とする。著書に『男が働かない、いいじゃないか!』(講談社プラスα新書)、小島慶子×田中俊之『不自由な男たち――その生きづらさは、どこから来るのか』(祥伝社新書)、田中俊之×山田ルイ53世『中年男ルネッサンス』イースト新書……などがある。「日本では“男”であることと“働く”ということとの結びつきがあまりにも強すぎる」と警鐘を鳴らしている。

Twitter:@danseigaku

一徹さんプロフィール

1979年生まれ。大学卒業後、公認会計士試験の勉強中に見つけたエキストラ男優募集をきっかけにAV業界へ。業界初のメーカー専属AV男優として、女性向けAVメーカー「SILKLABO」で活動した後、2017年よりフリーに。著書多数で、最新作となる『セックスのほんとう』が好評発売中。

Twitter:@1102_ringtree

DRESS編集部

いろいろな顔を持つ女性たちへ。人の多面性を大切にするウェブメディア「DRESS」公式アカウントです。インタビューや対談を配信。

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