「女のふつう」は、いつの間にか自分が勝手に決めていた
子どもと夫がいるから夜に出かけるのは“事前許可”をとらないといけない。家を留守にするなんてできないからひとり旅なんてしてはいけない。そういう「〜しないと」「〜しちゃダメ」は自分で自分を縛るような思い込みだった。ジェイ・キャストで執行役員を務める蜷川聡子さんが考えた「女のふつう」。
何年か前、夫とけんかをしました。
子どもが生まれてから10年ほど、夜はほとんど家から出ませんでした。残業は基本持ち帰り。男性の夫が思う存分働いて、女の私は家庭をメインにするものだ、と思っていたからです。
■衝撃のひと言「誰もそんなこと頼んでない」
ところが、取引先との付き合いを長く任せていた部下が転職し、やはりある程度自分でやらなければと、夜に予定を入れ始めました。
突然生活が変わったからか、夫と揉めました。ずっと我慢していたものがあふれてきて、私はこんなことを言いました。
「保育園のお迎えは、いつも私。たまに遅くなるときでも、事前に許可を取ってから出かけてたでしょう? あなたがいつでも残業できるように。あなただけ自由で、どうして私は許可を取らなければ、夜の予定が入れられないの!?」
すると、夫がこう言ったのです――。「誰もそんなこと頼んでないよ」
衝撃でした。確かに自分がなぜ出かけないのか、伝えてはいなかったけれど、わかっていると思い込んでいたし、そうしてほしいのだと思っていました。
その後、我が家では、共有のカレンダーに予定を入れておけば、それぞれ自由に出かけられるようになりました。幸い夫は子どもの面倒を見るのがうまく、夜の担当は問題ありません。
■「すべては許可制」の思い込みに囚われて
私の知人に、お片づけカウンセラーでイラストレーターの猫屋さんという女性がいます。先日、彼女は“子どもが小さい頃「何でもないただの自分」の時間を過ごした話”というブログを書いていました。
彼女には7歳の子どもがいて、その子がまだ赤ちゃんだったころ。イライラが募る中で、ひとり「ホテルのモーニングを食べに行った」り、「夜の授乳を卒業してからひとりで温泉旅行に行った」りしたことがあったのだそうです。
そして「どんな状況でも、ひとりの時間は必要だ」と、しみじみ思ったのだとか。
それを読んだとき、驚きと羨ましさを感じました。我が家は上の子がもう13歳になりましたが、そんなに長く家を空けたことはありません。
子どもを置いて、ひとり泊りがけで旅行なんて考えられないし許されないのでは……。でも、ふと思って彼女のSNSのコメント欄にこう書き込みました。
「ダメかも、って思わず言ってみようかな」
猫屋さんからは「私もドキドキでしたが、行ってみたら意外と大丈夫でした」というお返事が。その翌日、まるで私の気持ちを見透かしたのような、新しいブログが掲載されました。タイトルは“すべては許可制”というものでした。
でもその「できない」という理由が
家族の協力や、時間的・金銭的な面などの
外側の理由ではなくて
意外と一番強力なのが
自分
なのでは、と思っています。”
そう。「ダメかも」というのは、外的な理由じゃないのかもしれない。
自分で自分を縛っているだけなのに、「他の人が許可してくれない」と思い込んでいるのかもしれないのです。
猫屋さんの描く自由で目力のある女性が好き
©necoya.com
■「ひとり旅に行きたい」と夫に伝えよう
先日の上野千鶴子先生の東大祝辞に、「aspirationのcooling down、すなわち意欲の冷却効果」という言葉が紹介されていました。「どうせ女の子だし」「しょせん女の子だから」と水をかけ、足を引っ張ることを指すそうです。
すごくよくわかります。私の若い頃には、「女の子は短大でいい」「女の子は一般職でいい」という雰囲気がありましたし、何の疑問も持たず「そうなんだ」と思っていました。
仕事を始めると、女の先輩に「女は男以上にがんばらないと認めてもらえない。結婚を諦めるか仕事を諦めるか、どちらかにしなさい」と言われました。
でも、時代のタイミングがよかったのか、私は希望通り4年制大学に進み、総合職で就職し、家庭と仕事を両立することができました。
もちろん、恵まれた環境もありました。でも、「しょせんは女だから」という呪いに負けないためにも、まずは「そうでなければならない」と思ってしまう、自分自身の気持ちと闘うことが大事なのかもしれません。
思えば、ずっとひとり旅が好きでした。卒業旅行もひとりで海外に行きましたし、就職してからも何度かひとりで旅に出ていました。
家族との暮らしに不満はないけれど、たまにはあの時間がもう一度欲しい。家族から嫌な顔をされることを勝手に想像すると不安になりますが、近々「ひとり旅に行ってみたい!」と、夫に言ってみようかと思います。
Text/蜷川聡子
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