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真面目で責任感の強い女性ほど陥りやすい。万引き依存症を防ぐためにすべきこと

万引きをやめられない人たちがいる。「クレプトマニア(窃盗症)」と呼ばれる人たちは、何回逮捕されても、刑罰を受けても、その万引きという行為を繰り返す。こうした万引き行為への耽溺は、非日常の中にあるのではなく、私たちの日常のいたるところに潜んでおり、決して他人事ではない。

真面目で責任感の強い女性ほど陥りやすい。万引き依存症を防ぐためにすべきこと

 子どものイタズラや非行の入り口と思われがちな万引き。しかし、実は家庭を持った大人の女性に多い犯罪であると精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳さんは著書『万引き依存症』(イースト・プレス)で述べています。

 そこで今回は、多くの裁判を傍聴し著書に『暴走老人・犯罪劇場』(洋泉社)のあるライターの高橋ユキさんとの対談を実施。なぜ女性に多い犯罪なのか、防ぐためにはどうすればいいのか話し合ってもらいました。

■依存症なのかどうか見極めなければならない

――万引きは他人事ではないと斉藤さんのご著書から感じたのですが、高橋さんは『万引き依存症』を読んでどんな感想を抱かれましたか?

高橋ユキさん(以下、高橋):今まで傍聴してきた窃盗の裁判でも、何度か「これは依存症なのではないか」という雰囲気を感じる人を見たことがあります。だから、斉藤さんの本で、家族における問題から万引きに走るという点はとくに興味深く拝見しました。

でも、依存症による万引きなのか、金銭を目的とした万引きなのかという線引きはパッと見ただけでは私のような素人にはすぐにわかりません。なので今後、ただ盗りたくて盗った人や換金目的で盗った人でも、病気(依存症)だと自称する人が出てくるのではないかというところは少し心配になりました。

高橋ユキさん(@tk84yuki)/傍聴人。フリーライター。著書にアウト老の実態に迫った『暴走老人・犯罪劇場』(洋泉社新書)のほか『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)、『木嶋佳苗劇場』(宝島社)、『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』(新潮社)など。よく傍聴する事件内容は殺人。

斉藤章佳さん(以下、斉藤):それに関しては、この本の最後で対談している万引きGメンの伊東ゆうさんからも指摘されたことがあります。でも、目指す方向性は同じで再犯(再発)防止。そこまでのプロセスが違うのと、やはり依存症であるフリをする人が一定数いるというのは我々も感じています。今は、そこをどうフィルタリングし、どう防ぐかということを工夫しています。

斉藤章佳さん/精神保健福祉士・社会福祉士/大森榎本クリニック精神保健福祉部長。大学卒業後、アジア最大規模といわれる依存症治療施設である榎本クリニックにソーシャルワーカーとして、約20年間アルコール依存症を中心にギャンブル・薬物・摂食障害・性犯罪・虐待・DV・クレプトマニアなどさまざまなアディクション問題に携わる。その後、2016年から現職。専門は加害者臨床で「性犯罪者の地域トリートメント」に関する実践・研究・啓発活動を行っている。著者に『性依存症の治療』『性依存症のリアル』(ともに金剛出版/共著)、『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)がある。

高橋:公判において、「依存症だから罪が軽くなる」というのは個人的にはちょっと違和感があります。最近、万引きの裁判で依存症の治療に前向きなことが評価された被告人に対し、二度目の執行猶予がつくことも少しずつ増えてきました。

でも、覚せい剤は依存症だからといって、二度目の執行猶予が取れたり、罪が軽くなることはほぼありません。罪を犯した人を治療に繋げることが必要なケースはあると思うんですが、刑罰はそれとは別のものなのではないか……と、まだ考えがまとまりません。

■夫婦間や家族、親子の問題が万引き依存症の根底に隠れている

――斉藤さんの著書によると、「万引き依存症は女性が多い」とのことですが、同じ女性が万引きに手を染めていることを高橋さんはどう感じますか?

高橋:女性の万引きって、闇がいろいろありそうで、開廷表(どのような裁判が行われるかの予定表)で見つけても避けてしまいがちです。多分、この裁判を見たら悲しい気持ちになってしまうなぁと……。

斉藤:クリニックに相談に来る万引き依存症を抱えた人たちの話を聞いてみると、その背景に本質的な問題が隠れていることがわかります。

彼らのライフヒストリーを紐解いていくと、夫婦関係や親子関係、家族内での役割分業が偏っている、ワンオペ育児や介護による孤立感などの問題が見えてきました。

高橋:私も過去に、クレプトマニアかなぁ、と思えるような窃盗の裁判を見たとき、その裏側には家族の問題が隠れていることを何となく感じていました。

さしつかえない範囲で、万引きにハマっていく彼女たちが、どのような問題を抱えていたのか教えてください。

斉藤:家族の問題といっても、さまざまパターンがありますが、大きくは「夫婦間の問題」と「親子間の問題」のふたつがあります。

「夫婦間の問題」を抱えている女性の中には、幼稚園や小学校低学年くらいの子どもを育てながら働いている人が多い。電話で相談してこられる女性の中には、乳幼児を抱えている方もいます。

でも、クリニックの治療プログラムは拘束時間が長いので、ワンオペ育児のケースだと定期的に通うことができないんです。治療ができないままなので、結局子どもを抱っこしたまま万引きをするという行為を続けている方もいるようです。

子どもを幼稚園や保育園に預けながら働いている女性や、小学校低学年で共働きをしている夫婦の場合、両親が地方にいるとなると、なかなかな支援を求められません。こういう人たちってとにかく日々のやりくりがものすごく忙しいじゃないですか。

もちろん夫と役割分担ができているケースもありますが、まだまだ女性側の負担が大きい。なにせ日本は夫が家事をしない国ナンバー1ですから。

子どもが熱を出せば迎えに行くのは概ね妻で、そのたびに理解がない職場やぎりぎりの人員で運営している職場では冷たい視線をぶつけられたりします。仕事を変えたらいいという人もいるかもしれませんが、なかなか子育てしながら働ける条件のいい仕事は少ないとなると今の仕事にしがみつきます。そして、さらに本人は追い詰められる。


 もう少し上の世代、40~50代くらいの専業主婦になると、夫から節約を強いられて、経済的なDVに近いことが起こり、節約をきっかけとして万引きを始めてしまうケースがあります。

さらにその上の世代、65歳以上になると親の介護問題がでてきます。

そこでも妻が夫の母親を介護するというパターンが多いです。もともと嫁いびりなどがあって嫁姑関係が悪かったのに、陰性感情を抱えた中での介護になります。

そういう意味では女性のライフサイクルの中ではいまだに家族内のケア労働を一手に引き受けているケースが多くその負担が偏りやすく、さまざまなきっかけで発症するパターンがあります。

高橋:「親子関係の問題」についてはどうですか?

斉藤:母と娘の関係が原因となって摂食障害が起こるケースが多いです。

母親から娘への虐待や、過干渉・過密着というところから摂食障害を発症し、最初は摂食障害の過食嘔吐だけだったのにお金を賄いきれなくなり、盗んで食べ吐きをする、というのが典型的な例になります。

摂食障害がある万引き依存症のケースは、原家族(※)の機能不全の問題が優位に見られます。

※原家族:その人が生まれ育った家族、子ども時代の家族のこと。


高橋:裁判でも摂食障害や家族問題のことが話題になるものがありました。

――裁判では家族問題や背景にある問題には触れられないんですか?

高橋:公判では「咄嗟に」といったトリガー的なことしか述べられず、その背景にある問題は追求されません。ですが、この人は万引きをすることで、何かを訴えたいのだろうなということは感じ取れます。

斉藤:依存症治療を受けている人だと、どういう心理状態で盗ったのかプログラマの中で学ぶため、ある程度言語化できるのですが、治療を受けていない人だとその説明が困難です。

さらに、警察側は取り調べの段階で「計画的で、常習性があって、盗ったものは経済的価値のためや自己使用目的」というストーリーを万引き依存症の人に当てはめて調書をとるケースが多いように感じます。

だから、治療を受ける前後で、当事者が述べる犯行内容が(警察で取った調書と)違ってきたりするんですよね。そうなると、懐疑的な人からは「あなたは治療を受けることで都合の良いよう話を作り変えているんじゃないか」という見方をされてしまうこともあります。

高橋:裁判で検察が問う動機というのはきっかけでしかないので、そこはやり取りが噛み合っていないなと思います。

■犯罪を繰り返さないためには、孤立からつながりを取り戻すことが必要

――高橋さんはご著書『暴走老人・犯罪劇場』(洋泉社)で、孤独から犯罪に走ってしまう老人がいるので、人との繋がりが大事と書いてらっしゃいます。家庭でのストレスや孤独感から万引きに走る女性にも通じると思うのですが、孤独を回避するためにはどうすればいいと思いますか?

高橋:仕事での人との繋がりはいつか切れてしまいます。だから私は、趣味の繋がりなどプライベートな部分での人間の繋がりが重要なのかなと思っています。最近、自分は子育てでそんな人の繋がりを感じています。

小さなことだけど、きちんと挨拶をするのは大事なことだなと、この歳になって感じています。挨拶するとそこから話が広がってママ友との話に花が咲き、仲良くなったりすることがあって。

 子どもがいないと絶対に仲良くならない、年齢も仕事も違う人たちと話すことがおもしろいです。裁判の傍聴は趣味で始めたので、歳を重ねてもずっと法廷に通うおじいさん・おばあさんの一員になると思います。

――傍聴友達もいらっしゃるんですか?

高橋:はい。時間があるときは傍聴仲間と一緒にランチをしたり、ちょっと早い時間から飲みに行ったり。そこで「あの裁判はこうだ」とか「あの裁判長はどうだ」といったすごく他愛もない話をする。どんな所に住んでいるのか、家族構成とか知らない方も多いのですが、そういう関係性もいいなと思っています。誰にもでも没頭できる趣味はあったほうがいいなと傍聴マニアを見ていると感じます。

――男性は仕事ばかりで趣味がないという方もいますよね。斉藤先生はどんなことで日々のストレスを解消していますか?

斉藤:うちは子どもとサッカーですね。でも、まだ小さいので、もっと成長したら本格的にサッカーを一緒にできるのではないかと楽しみです。

――最後に、斉藤先生に、誰もが万引き依存症になる可能性がある理由を改めて教えていただきたいです。

斉藤:これは万引き依存症に限らず、いつ、どのようなことが原因で依存症になってしまうかは人によってさまざまです。たとえば、仕事における大きな挫折やプライベートでの損失体験が引き金になることだってあります。年齢が上がっていくと高齢者の男性はアルコール依存症が増えていきます。これは、パートナーを失うことや、定年退職すること、同世代の仲間が亡くなったり、性機能を失ったりなど、社会的な役割がなくなることが、男性にとって大きな損失となるからです。女性の万引き依存症の中には、50代になって初めて万引きをしたという方もいますね。

――勤勉で真面目な両親が、パートナーが、子どもが、そういった行動を起こしてしまう。

斉藤:家族にとっては青天の霹靂ですよね。まさかうちの親が、子どもが……と。万引き依存症は、子どもにとっては母親の場合が多いので、「あんなに真面目で頑張って家庭をやりくりしていたお母さんが……」とショックを受けます。

高橋:だからこそ、ちょっとくらい不真面目がいいんですね。

斉藤:いい加減でいいと思いますよ。よい加減ですね。真面目で頑張り屋、責任感が強くて人に気を遣い過ぎる人が依存症に陥りやすいので。

高橋:そうなんですか、じゃあ良かった(笑)。私、自分がちゃんとしているとは全然思っていません。ご飯も作らない日があるし、絵本の読み聞かせもせず、夫に任せています。やっていないことが多過ぎるのですが、これくらい適当でいいのかなと思ってしまいました。

斉藤:自分を責めることなく適当にできて、必要なときに人にうまく依存できる人の方が依存症になりにくいと思います。

高橋:適度に依存を分散させておくことで、ひとつのものに深く耽溺してしまうことを防げるという意味ですよね。子育てってやり込めばやり込むほどゴールがないというか、意識を高くし始めたらキリがない分野だと思うんです。

子育てだけに自分の人生を捉われてしまうばかりに、自分のやりたいことができなくなり、個性が失われていく。そうなるとどうしても不満が蓄積されてしまう。だったら育児も家事も、適当にやったほうがいいと思うようになりました。

斉藤:私も就職して間もない頃、職場の上司に「1日3回、人に助けを求めなさい。そうでないと君は燃え尽きる」と言われて、うまく人に依存できるスキルが少しずつ身につくようになりました。

最近はとても忙しいですが、そんな中でも適当に力を抜くことができるようになったと思います。

高橋:弱みを見せられないというのは、勝ち負けへのこだわりが影響していると思うんです。他の同性に「ちゃんとしてるね」と思われたいとか。

自分でもそういう時期がありましたが、歳を取るとだんだんそういうことがどうでもよくなってきたんですよね。実際にどう言われたって自分の生活は変わらないのであれば、自分が心地いいようにやることを優先したほうがいいと、考え方が変わりました。

取材・Text/姫野桂
Photo・編集/小林航平

姫野 桂

フリーライター。1987年生まれ。宮崎市出身。日本女子大学文学部日本文学科卒。大学時代は出版社でアルバイトをし、編集業務を学ぶ。卒業後は一般企業に就職。25歳のときにライターに転身。現在は週刊誌やWebなどで執筆中。専門は性...

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