『DRESS』4月特集は「正直に向き合いたい、セックスのこと」。性にまつわることをヘンに特別視せず、自然なことと捉えて、もう少しオープンに考えてみると、性やセックスの在り方はより良く、幸せなものへと変わっていくのではないでしょうか。性やセックスのことをじっくり考えるコンテンツをお届けします。
ちゃんと知っておきたい性感染症のはなし
性行為を通じて感染する疾患、性感染症。おりものの状態に異変を感じて、性感染症に気づくこともあれば、目立った症状がなくて気づかないことも。主な性感染症の症状や感染がわかったときにすべきことなどを、産婦人科医の山中智哉先生に解説いただきました。
性感染症とは「性行為を通じて感染する疾患」の総称のこと。狭い意味では、いわゆる性病とも呼ばれる性器を中心に発症する病気を指しますが、広い意味では、B型肝炎やC型肝炎、HIVといった全身性のウィルス性疾患も含みます。
今回は知識として知っておきたい性病について、『DRESS』にも連載を持つ産婦人科医 山中智哉先生に解説いただきました。
***
女性器に性感染症が生じたとき、「おりものの量が増えた」「臭いが変」といったおりものの変化や、「外陰部がかゆい、痛い」といった陰部症状によって病院を受診し、診断されることがあります。
一方で、まったく症状がない状態でたまたま健康診断のときに見つかる場合や、腹痛といった別の部位の症状を発症して、それが性感染症由来のものと診断される場合もあります。
つまり、「おりものの状態が変」なら「性感染症を疑う必要がある」ということは間違いありませんが、「何も症状がなくても感染が生じていることもありうる」ということも、いくらか心に留めておいた方がよいかと思います。いくつか代表的な性感染症についてご紹介します。
クラミジア感染症
クラミジア感染症は「クラミジア・トラコマティス」の感染によって起きます。性感染症の中でもっとも知られている疾患ではないでしょうか。
クラミジアは主に女性の子宮頚管に感染します。その症状は、おりものの増量や黄色化、悪臭を特徴としますが、特に自覚症状を有しない場合もあります。
男性の場合、尿道炎を起こし、排尿痛や膿性分泌物などの症状をもたらすため、比較的早期に診断をつけることができます。一方、女性の場合、大きな自覚症状が少ないまま、炎症が進んでいく可能性もあります。
オーラルセックスによる咽頭粘膜への感染もみられ、炎症が拡がると、痛みや声のかすれなどの症状が見られることがあります。
淋病
淋病は「淋菌」の感染によって起きます。クラミジアと異なる菌ではありますが、主な感染部位が子宮頚管や尿道の粘膜といったクラミジアと同じ部位であるため、多くの場合、同じような症状となります。
腟トリコモナス症
腟トリコモナス症は、「トリコモナス原虫」の感染によって起きます。トリコモナスは主に女性の腟粘膜に感染します。それに伴い、おりものが増え、その性状は泡状で悪臭が強いという特徴があります。
また、外陰部のかゆみ(掻痒感)や刺激感(ヒリヒリ感)なども併発します。性行為によって感染する性行為感染症ではありますが、タオルの共有や、便器、浴槽を通じての感染経路もありえる感染症です。
感染を予防するためにできること
これらの疾患の感染予防には、男性がコンドームをつけることが有効であると同時に、女性も男性も、ともに何か気になる症状がある際には、相手にうつさないよう性交渉を控え、感染の有無について調べることが重要です。
感染がわかった場合、その感染に効果のある抗生剤や抗菌剤を内服、あるいは腟内投与や点滴をする必要があります。多くの場合、それだけで治癒しますが、最近ではそれらの薬剤が効きにくい耐性菌が生まれていることもあります。治療後に再度検査を行ない、確実に感染が消失していることを確認することも大切なことです。
また時に、処方された薬剤を途中で自己判断で止めてしまう方もいますが、これも耐性菌が生まれる原因となります。薬剤は一定期間、体内で一定濃度を保つことで効果を発揮するので、決められた期間、決められた用法で使用することが、より早く確実に治す近道となります。
「おりものが増える、あるいは臭いが気になる」という症状は、女性にとって嫌なことではありますが、子宮頚管や腟に炎症が生じ、おりものに変化が起きているという状態は、言い換えると、免疫反応によって体が感染と戦っている反応ともいえます。
つまり、症状がない、あるいは小さい方が、感染に気づくのが遅れるのと同時に、気づいたときには感染が拡がってしまっているという危険性があります。
特に感染が骨盤内に拡がってしまった場合を、「PID(骨盤炎症性疾患:Pelvic inflammatory disease)」と言います。ひとたびPIDを発症すると、抗生物質や抗菌剤が効きにくくなるのと同時に、治癒しても、炎症の後遺症として子宮や卵管、周囲の腸と癒着を残し、後々まで腹痛の原因となったり、将来の不妊症の原因となることもあります。
つまり、性感染症は、感染した時点での問題でもあるとともに、将来の問題となる可能性もあります。感染を予防するとともに、もし感染した場合には早急に治療を受ける必要がある疾患ということになります。
腟カンジダ症
おりものの変化がみられる疾患のひとつに「腟カンジダ症」があります。膣カンジダ症は、真菌類の「カンジダ菌」の感染によって生じます。外陰部の痒みや、おりものの変化(粕状、ヨーグルト状など)があるため、時に性病のように捉えられがちですが、正確には性病ではありません。
女性の膣内にカンジダ菌が発生しても、通常膣内の環境がよければ、その発生は最小限に抑えられ、症状は出ません。膣内がよい環境というのは、乳酸菌などのよい菌がいる状態で、それが減少したときにカンジダ菌は発生しやすくなります。
良い状態を保つためには、外陰部を清潔に保ち、蒸れないようにすることや、膣内を洗浄しすぎないことが大切です。もし発症した場合は、膣内には抗真菌剤の膣錠を投与し、外陰部症状が強い場合には同薬剤の軟膏を塗布します。
先の性感染症の話でも述べましたが、カンジダ症についても、抗菌剤を中途半端に使うと、かえって耐性菌となり難治性のカンジダ症となることもありますので、きちんと治しきることが再発予防にもつながります。
性器ヘルペス
おりものの変化を伴う疾患ではありませんが、性器ヘルペスもよく知られている性感染症のひとつです。性器ヘルペスは、「単純ヘルペスウィルス」の感染によって起きます。
外陰部に生じる水疱・潰瘍による強い痛みが、その症状の特徴となります。一度感染すると、症状が消えたあとも、ウィルス自体は神経節の中に潜伏した状態になり、免疫力が低下した時などに繰り返し発症する可能性があります。
抗ウィルス薬の投与によって、1週間~10日間ほどで症状は消失するので、早めに治療を開始することが大切です。また、繰り返し発症しやすい人の場合、前もって薬剤の予防的投与を行うこともあります。
女性または男性の陰部に、水疱や潰瘍を形成しているときに接触感染を起こすので、症状がある時期には性交渉を控えるか、コンドームの使用が推奨されます。
以上、いくつかの性感染症についてお話ししました。
おりものが増えても必ずしも性感染症とは限りませんが、いつもと違う症状があるなら、何かが原因で炎症が生じていると考えて、早めに婦人科を受診してください。
また今回の話では触れませんでしたが、はじめに触れたように性感染症には肝炎のような他の疾患も含まれます。それらもまた、必ず感染するというわけではありませんが、パートナーがそういった疾病の治療中なのかどうかを知っておくことや、状況がわからなければ、少なくとも男性にコンドームを使用してもらい、予期せぬ感染から身を守ることも大切です。
Text/山中智哉
医学博士、日本産科婦人科学会専門医、日本抗加齢医学会専門医。東京都内のクリニックにて、体外受精を中心とした不妊治療を専門に診療を行なっている。
いろいろな顔を持つ女性たちへ。人の多面性を大切にするウェブメディア「DRESS」公式アカウントです。インタビューや対談を配信。