感情をぶつけるのはアウト。子どもの上手な叱り方とは【大人の上手な怒り術#6】
怒りと上手く付き合うための心理トレーニング「アンガーマネジメント」。一般社団法人日本アンガーマネジメント協会理事・戸田久実さんがお届けする連載【大人の上手な怒り術】第6回では、子育て中のイライラを解消する方法について解説してもらいます。
■子育て中に怒りを感じるのは当たり前のこと
「言うことを聞いてくれない」
「何度も同じことを言っているのに、わかってくれない」
アンガーマネジメントをテーマに企業研修を行うと、職場での怒りの相談ではなく、このような「子育て」に関わる相談を受けることがあります。中には、
「また激しく怒ってしまった……」
「こんなに子どもに腹を立てる私は、母親として失格なのではないだろうか」
と罪悪感に苛まれ、自己嫌悪に陥ってしまっている人も。
私自身も働きながら子育てをしており、忙しいときなどは特にイライラして感情的に怒ってしまって、あとから後悔することも多々あるので、その気持ちはよくわかります。
そういった相談を受けたとき、私がまずお伝えするのは、
「子育てをしていると、イライラしたり、カッとなったり……怒りを感じるのは当たり前のこと。だから怒りを感じる自分を責めないでほしい」ということです。
■子どもは自分の思い通りにはならないもの
なぜなら、以前の記事「夫に腹が立ちすぎて困る! その理由と対策とは【大人の上手な怒り術#3】」でもお伝えしたとおり、怒りは「身近な対象にほど強くなる」という性質があり、また、自分の思い通りにならないときにわいてくるもの。
まさに親にとって子どもは、自分が育てているもっとも身近な存在であり、「思い通りになってくれるのでは?」という無意識の期待もあります。
さらには、「一人前に育てなければ!」という責任感や、「あなたのことを思って言っているのに!」といった思いもあり、怒りが強くなりがちなのです。
ですから、子どもに怒りを感じるのはおかしなことではありません。「自分だけがこんなに怒っているのでは?」「私はおかしいのでは?」と悩む必要はないのです。
ですが、必要以上に怒ってしまって後悔したり、ついカッとなって手をあげてしまって罪悪感に苛まれるようなことは避けたいですね。
そのために有効なのは、まず、「子どもは自分の思い通りにはならないもの」と割り切ってみることです。
■親子だからといって、価値観は同じではない
皆さんの中に、子どもに対して「~するべき」「~あるべき」と思うことはありませんか?
「朝は起こされなくても自分で起きるべき」
「宿題は言われなくても帰宅後にすぐにするべき」
「脱いだ靴は揃えるべき」……
挙げればキリがないほどたくさんあるかもしれません。親にとっては「当たり前」と思うことも多く、「何度も言わせないでよ……」とうんざりしてしまうことも。
しかし、たとえ自分の子どもでも、親とは「べき」の違いがあるのです。親子だからといって、価値観がまったく一緒というわけではありません。
また、大人にとっては当たり前のことでも、子どもの中では優先順位が違うこともあり、つい忘れてしまうことだってあるのです。
ですから、自分の思ったとおりの行動をとらなくても、「仕方ない。子どもには子どもなりの価値観があるんだ。一度ではわかってもらえないこともある」と考えるのが望ましいでしょう。
人に著しい迷惑をかけるような行為はもちろんいけませんが、そうでなければある程度は妥協し、願う通りの100パーセントの行動ができなくても、「せめて~はしてね」というように、自分の「べき」を緩めることが必要です。
■子どもに対する上手な怒り方とは?
また、怒り方に問題があるケースもあるので、こちらを見直してみることも大切です。
イラッとすると、つい、身近な存在である子どもにその感情をぶつけがち。たとえば、次のような言い方はしていないでしょうか。
「も~、ヤダ!」
「何をやってるのよ~~!」
「ダメダメ! まったく! も~~!」
これでは、何をどうすればいいかが伝わらず、子どもにとっては、ただ「なんだかわからないけれど、お母さんが怒っている」と感じるだけです。
こうならないために、子どもに要望を伝えたいのであれば、「~してほしい(ほしかった)」というように、リクエストとして話すことをおすすめします。
「「なぜ?」で詰めるのはアウト。部下や後輩の上手な叱り方とは【大人の上手な怒り術#4】」でも解説した通り、次のような言い方が有効です。
一度にひとつのことだけ伝える
「脱いだパジャマはたたんでね、あ~ほら、本も出しっぱなしじゃないの! 使ったものはすぐに片付けてって言ったじゃないの! 言わないとやらないし……」というように、次から次へと言ってしまうと、子どもは、一体何についての話なのかわからなくなってしまいます。
特に子どもに対しては、ふたつ以上のことをいっぺんに言わず、一つひとつ伝えることが重要です。
どのようにすればいいか、具体的な表現で伝える
「“ちゃんと”片付けてね」「“きれいに”掃除してね」というような曖昧な表現は、自分と相手との「ちゃんと」「きれいに」の基準が違うこともあるので、こちらが考えた通りに理解してもらえないことがあります。
「読み終わった本は、本棚に片付けておいてね」
「脱いだ洋服は、洗濯カゴに入れておいてね。靴下は伸ばして入れてね」
というように、どうすればいいのかがわかるよう具体的に伝えましょう。
機嫌が良いときと悪いときとで基準を変えない
機嫌の良いときは見逃して、機嫌が悪いときに怒る……ということを繰り返すと、「ママ(パパ)は今日は機嫌が悪いんだ」ということしか伝わりません。
「今日はいい」「今日はダメ」とブレて子どもを混乱させることがないよう、怒る/怒らないの基準は一貫させましょう。
■イラッとした瞬間に唱える「コーピングマントラ」
さらに、イラッとした時に感情的にならないよう、“怒りのピーク”である6秒をやり過ごせるような取り組みも行ってみましょう。今回は「コーピングマントラ」をご紹介します。
コーピングマントラ
怒りを感じたときに、心が落ち着くフレーズを唱えます。
すぐに思い出せるよう、フレーズは事前に用意しておきましょう。そのフレーズ、言葉は、自分が心が落ち着くと思うものであれば、何でも構いません。
「ま、いいか」「大丈夫、大丈夫!」「どうってことないわ」という言葉でもいいですし、大好きなペットの名前や好きな芸能人の名前でも構いません。
心の中で唱えてもいいですし、実際につぶやいてみても構いません。
心が落ち着くフレーズを唱えている間に、肩の力も抜けていき、怒りに任せた行動を回避することができるでしょう。ぜひ、取り組んでみてくださいね。
『いつも怒っている人も うまく怒れない人も 図解アンガーマネジメント』書籍情報
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