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東京のまちでコーヒーをタダでふるまってみた。趣味から始めるまちづくり【ジルデコchihiRo×田中元子 対談】

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ジャズバンド「JiLL-Decoy association」のボーカルを務めるchihiRoさんがホスト役となり、同じく「ものづくり」に携わる方を招き、ものづくり、クリエイティブをテーマに語らう本対談企画。第4回では、まちづくりに関わるいろいろなことを手がける田中元子さんをお招きしました。

東京のまちでコーヒーをタダでふるまってみた。趣味から始めるまちづくり【ジルデコchihiRo×田中元子 対談】

ジャズバンド「JiLL-Decoy association(以下、ジルデコ)」のボーカルを務めるchihiRoさんがホスト役となり、同じく「ものづくり」に携わる方を招き、ものづくり、クリエイティブをテーマにあれこれ語らう本対談企画。

4回目のゲストは「まちづくり」に関わるさまざまなことを手がける田中元子さんです。正直、元子さんを一言で言い表す肩書が見つからないので、ほんの少しだけご紹介を。

パートナーである建築家・大西正紀さんと2004年、クリエイティブユニット(*)mosakiを組んで、建築やまち、都市などの専門分野と人々をつなぐ活動をしてきました。手法はメディアでの発信やプロジェクト立ち上げ、イベントのコーディネートなど、多岐に渡ります。

*ものづくり、ことづくりをするチームというのが近いかもしれません。

2010年からは、建物の気持ちになりきり、建物の形を身体で表現する「けんちく体操」を広める建築啓蒙活動をスタートし、活動は日本を飛び出して世界各地に広まりました。

2016年には、株式会社グランドレベルを設立。この日、対談場所に使わせていただいた「喫茶ランドリー」は、グランドレベルの事業のひとつ。個人がまちづくりなんてできるの? そんな疑問をお持ちの方もいると思いますが、喫茶ランドリーの話から伺って、その答えを導き出していきましょう。

今回は、どんなものづくり論が飛び出すのか……どうぞ最後までお楽しみください。

■完全に自由は難しい。だから補助線を1本引いてあげたい

chihiRoさん(以下、chihiRo):喫茶ランドリー、地元の方たちで賑わってますね。元子さん、ついに喫茶店を作っちゃった!? ってびっくりしました。

田中元子さん(以下、元子):さっきまで近所のお母さんたちが10人くらい集まって、あそこの台でパンをこねてたの。

chihiRo:ランドリーのほかにオーブンもあるんですか?

元子:オーブンはない(笑)。でも、焼くのは家でやるから、こねる工程のときだけ、ここを貸してって。

chihiRo:なるほど。家だとあんなに大きな台やスペースはないし、10人集まってこねるのは難しいですよね。

元子:まさかオーブンのない場所へ、パンを作りにくるなんて想定外だったけど(笑)。でも、想定外のことが起きると、「補助線がうまく引けたな」って思えます。

chihiRo:補助線?

元子:真っ白なキャンバスを渡されて、「自由に描いてごらん」と言われても難しい。だからといって、完成品を渡されても困る。ちょっとした補助線を引いてあげるのが、一番いいんじゃないか、って思います。人が共通して持っていること、一人ひとり違う部分、その相反するもの両方に意識を向けて、さり気なく補助線を引くことで、その人なりの想像力で使ってほしいなと思うんです、この喫茶ランドリーも。そこで今日みたいな想定外のことが起きると一番嬉しいよね。

■他人とのちょっとしたコミュニケーションで得られる幸せ

chihiRo:喫茶ランドリーをオープンするまでに、元子さんはいろいろな活動をされてきていますよね。最近出版された本『マイパブリックとグランドレベル ─今日からはじめるまちづくり』にも詳しくまとめられていて。

元子:読んでくれてありがとう。一般の人に建築の面白さを知ってほしくて、メディアを作ったり、取材をしたり、イベントをしたりっていう活動を長年続けるうちに、まちの問題が気になり始めたんだよね。で、グランドレベルを設立して。喫茶ランドリーは事業の一環なの。

chihiRo:グランドレベルって、地面のことなんですよね。本に「多様な社会像、まち像があるなかで、他者との共通項としてのイメージを見いだせるのは、それは間違いなく、地面、グランドレベルなのだ」「グランドレベルさえよくなれば、人々の目の前に広がる風景、つまり人々にとってのまちや社会、その見た目だけでなく、そこで起きる出来事も変わっていくのではないか」(118〜119ページ)と書かれていたのが印象的でした。

元子:まちのグランドレベル、地面を見ても人はいない。でも、高いマンションがたくさん建ち並び、人は縦にたくさん積まれている状態で、同じ建物内に住んでいても目を合わせる瞬間すらない。でも、誰でも1階には降りてくる。エントランスや駐車場、駅まで続く道なんかもあるから。建物でいうと1階、グランドレベルに人が集まれて、外からも中からも見える場所があれば、知らない人と目で会話をしたり、通りすぎる帰宅途中の子どもに手を振ったり……ちょっとしたコミュニケーションが生まれると思ったんです。

chihiRo:知らない人と何気ないコミュニケーションをとって、なんか温かい気持ちになる、みたいな願望を持つ人はけっこう多いんじゃないかと思います。私、少し前に、買い物袋を両手に下げて、子どもを抱っこして家に向かって歩いていたとき、急に将来不安に襲われて切ない気持ちになったことがあるんです。とぼとぼ歩いていたら、前方からストールを巻いた外国人女性が歩いてきて、私と同じように子どもを抱いて、買い物袋を下げてたんですね。すれ違いざまになんとなく目が合って、お互いフフッて微笑んだんです。言葉こそ交わしてないけど、「お互いがんばろうね」と目でメッセージを送り合った感覚がありました。そのとき、すごくハッピーな気持ちになれたんですよね。

元子:すごくわかるなぁ。一言も話したことがない相手と「共通の言語」を持ってるんだ、って勇気づけられる瞬間に、私自身もたくさん助けられてきたからね。

■まち行く人へ無料でコーヒーをふるまう「フリーコーヒー屋台」とは

chihiRo:本にも出てきた「パブリック屋台」についてもお話聞きたいです。看板に「フリーコーヒー」って書いて、まちに屋台を出して無料でコーヒーをふるまう、ということですが、すぐに人は寄ってきました?

元子:やっぱり怪しく見えるから、人が集まってくるまで時間はかかったかな。気前よくタダで提供するなんて、何か下心があるに違いない……って前提で考えてしまう世知辛い世の中だからね(笑)。

chihiRo:確かに。見たこともないですしね、タダでコーヒーを配る屋台なんて。

元子:でも、まちにはうろちょろしてる、好奇心旺盛なおっちゃんが必ずひとりふたりはいるんだよね(笑)。

chihiRo:いるいる(笑)!

元子:ひとり寂しくコーヒーを淹れていると、何してんのって話しかけてきてくれるから、「コーヒー淹れてるんです」「ここ喫茶店になるの?」「違います。軒下を借りてるんです。コーヒーを淹れるのが趣味なんです」「なんか面白いね。1杯もらえる?」なんて会話が始まって。人がひとり立ち寄ってくれれば、その後は周りの人も安心するのか、ふたり3人と来てくれるようになります。

chihiRo:趣味でやっている、っていうのはキーワードですよね。趣味だからってタダでふるまう? って引きにもなるし。それに、いきなり商売をするとなると、ハードルが高いし、経営面を考えると純粋に楽しめなくなるかも。

元子:そうそう。ノルマもタスクもない趣味の領域だから、人がひとりも来ない日があっても、たくさん来た日があっても、どんな結果になっても「やりたいことができてよかった」って気分になれる。私にとって屋台を出して得る収穫は、見知らぬ人とのコミュニケーションを通じて、まちと直接かかわれるというか、自分の目でまちを見られることなんです。

chihiRo:もし私が屋台をするとしたら……と考えたらストリートライブになる。でも、ストリートはやらないから、近いものはなんだろうと考えると、商業施設でのライブかなと思います。そういうところでも、人がたくさん集まっていると、それに吸い寄せられるように、もっと多くの人が集まってきます。逆に人があまりいないと、通りすぎていく人が多くて、少しへこみます。

元子:どんなジャンルでも同じですよ。少しでも知っているものじゃないと、なかなか立ち止まってはくれない。「カモン!」って呼びかけてみたら(笑)? ちょっと楽しくなると思いますよ。

■どんなに小さい挑戦でも、やってみなければ始まらない

chihiRo:次はやってみます(笑)。ホテルのラウンジでライブをすることもあって、それはそれで別の悩みがあります。ラウンジには人と話をしに来ている人もいれば、純粋に音楽を聴きに来ている人もいて。前者の人には音がちょっと大きめだと迷惑かな、日本語歌詞の曲だと邪魔になるかな、後者の人にはBGMっぽい曲が続くと満足してもらえないかな、と、披露する曲や演奏、歌い方のバランスに迷うんです。

元子:ホテルのラウンジってなると、音楽を聴きにきているお客さんしかいない、通常のライブとは勝手が違うから難しいよね。空間作りに加担しながらも、音楽を聴いている人とコミュニケーションをとるのはどう?

chihiRo:目を合わせたり、微笑んだりとか?

元子:そうそう。私もジャズ・クラブに行くことがあって、目当てのミュージシャンが音楽をじっくり聴いている私たちのことを意識してくれている、ってわかる瞬間があるとすごく嬉しいから。周りのみんなにとってはBGMかもしれないけど、私は自分が好きなミュージシャンと直接コミュニケーションをとってるぞ、って気持ちになりますからね。

chihiRo:元子さんのアドバイスを聞いて思い出したことがあります。とくに子育てを始めてからなんですけど、既存のルールや決まり、思い込みにとらわれすぎないよう、気をつけようって、思うようになったんです。「決まりだからダメだよね」と思い込んでいたことが、そもそもなんでダメなのか考えると、実は別にダメじゃなかったりする。じゃあ、なんでダメだと決めつけてたんだろう、と思うわけです(笑)。

元子:わかる。そういうことは案外多いです(笑)。どんなに小さい挑戦であっても、まずはやってみて。何もしないでいるのは、未来を変えたくない、と言っているのと同じようなもの。したいことをするのが一番だと思うから。人生、何のために生きているか、って永遠のテーマじゃない?

chihiRo:そうですね。

元子:私は自分自身が、「したいことをするために生きてる」タイプだなぁと思ってます。動かなきゃ始まらないし、何も変わらない。やることでしか人生は作られないと考えているから。どんなに小さいことでもアクションに起こすと、必ず見えてくるものはあるから。

chihiRo:なんか今日は人生相談みたいになっちゃいましたが(笑)、久々にお会いできて嬉しかったです。ありがとうございました!

(完)

構成/池田園子

取材協力/喫茶ランドリー
http://kissalaundry.com/

田中元子さんプロフィール

1975年、茨城県生まれ。独学で建築を学び、2004年、大西正紀と共に、クリエイティブ・ユニットmosakiを共同設立。建築やまち、都市などの専門分野と一般の人々ととをつなぐことを探求し、建築コミュニケーター・ライターとして、主にメディアやプロジェクトづくり、イベントのコーディネートやキュレーションなどを行ってきた。2010年より「けんちく体操」を広める建築啓蒙活動を開始。同活動は、2013年に日本建築学会教育賞(教育貢献)を受賞。2012年より、ドイツ、南アフリカなど、海外へと活動を広げる。2014年、毎号2万字インタビューを3万部印刷し、全国の建築系教育機関等へ無料配布する建築タブロイドマガジン『awesome!』を創刊。同年、都会の遊休地にキャンプ場を出現させる「アーバンキャンプ・トーキョー」を企画・運営(協同)。同年、『建築家が建てた妻と娘のしあわせな家』(エクスナレッジ)を上梓。2015年よりプロジェクト『パーソナル屋台が世界を変える』を開始。2016年、株式会社グランドレベル設立、代表取締役社長。近著に『マイパブリックとグランドレベル ─今日からはじめるまちづくり』がある。

『マイパブリックとグランドレベル ─今日からはじめるまちづくり』書籍情報

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DRESS編集部

人生を自分らしく楽しむ大人の女性たちに、多様な生き方や選択肢を提案します。

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