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私はまだ、息子に「愛してる」を言えない【母でも妻でも、私#5】

息子は「小さな恋人」でも「私の分身」でもないけれど、とてもかわいくて愛しくて、かけがえのない存在です。子どもに対する気持ちと誠実に向き合ったら「愛してる」にはまだ早いことがわかりました。でも、人間として1対1の関係を、これからもやさしく、大切に育てていきたいと思っています。

私はまだ、息子に「愛してる」を言えない【母でも妻でも、私#5】

「息子は“小さな恋人”なんでしょ?」
「ママって、息子を溺愛するよね」
「自分の子どもは、やっぱり世界一かわいく見えるの?」

まず、答えは全部「いいえ」です。

我が子のかわいさを言葉にするのは、とても難しい。

出産しても仕事がどうの、自分がどうのと楽しげにやっているから「子どもに夢中にならないんですか」としばしば聞かれる。「夢中」を辞書で調べたら「心を奪われ、ほかの事を考えない状態になること」とあった。

ほかのこともめちゃくちゃ考えているけれど、それなりに息子にも心を奪われている、と思う。

■たぶん「愛してる」はまだ言えない

息子の目は切り傷のようで、いままで見てきたどの赤ちゃんよりも細い。
かっこよくも、かわいくもないけれど、私と夫の顔が絶妙に混ざっていることは、すごく納得できる。平均よりすこし背が低くて、誰に似たのか体重はすこし重い。1歳をすぎたらぺらぺらと喋り出し、オープンな性格もあいまって、誰にでも飄々と挨拶をする。

そんな赤ちゃんと1年9カ月も一緒にいれば、そりゃあ愛着もわいてくる。毎日かわいさの自己ベストを更新しているし、ずっと見ていてもまだ全然飽きない。


でも「息子が大好き」「息子を愛してる」というのは、違和感がある。

好きとか、愛してるじゃない。

一番近しい言葉を探すと「好ましい」「愛しい」あたりになるかもしれないけれど、それも100%的確じゃない気がする。

たとえば、夫のことは大好きだし、愛している。
たぶん、私と夫のあいだにいろんな出来事が積み重なって、関係性ができたうえで、ようやく生まれた感情。「この人と一緒にいたい」と自分で選んだし、夫にも選んでもらえたから、いまこうして一緒に生きている。

息子は、そういうジャッジをすっとばして私の隣にいるけれど、まだ彼がどういう人間なのかはわからない。いまのところはときに悶えるほどかわいいし、なかなかいい奴だなと思っているけれど、これからウマが合うかは未知数。

もちろん、私は仲良くなりたいと思っている。でも、こればっかりは相手のあることだから……息子もそう思ってくれたらいいな。

つまり、私と息子はまだ知り合ったばかりで、これから関係性をつくっていく段階だから、気軽に「大好き」とか「愛してる」なんて判断をしかねるのだ。とっても好ましいし愛おしいけれど、まだその感情には名前をつけられない。

とはいえ、その複雑な感情をねじふせるほどの圧倒的なかわいさは、ある。
ほかの何にも当てはめられないし、比べられない、まじで強烈。こんな生きものが存在しうるんだな、ということを知っただけでも人生が豊かになったし、産んでよかった。

■目が離せない、するすると成長していく子どもの迫力

子どもの成長は、思っていたとおり、笑ってしまうほど早い。

子どもと24時間一緒にいる専業主婦の知人が「あんまり早いから、大事な一瞬を見逃してる気がする」と言っていた。彼女でさえ見逃しているなら、私なんて何も見てないのと同じかもしれない。
少しもったいなくも感じるけれど、そのくらいの距離感が私たちにはちょうどいい、気もする。

花が咲いていく様子を定点カメラで撮った映像は、子どもとの日々を連想させる。あんな感じでするすると、見事に変身していく子どもは、暴力的なほどにリアルだ。

ゼロから生まれた私たちの関係性や、愛になりゆく感情をどんどん拡大しながら、人間が育っていく。
そのダイナミズムたるや、もう私たち大人に勝ち目はない。言葉では太刀打ちできない現象が、いまの我が家では毎日起こっている(それでもせっかくライターをしているなら、なんとか言葉で記録したいと思って、こんな原稿を書いているわけです)。

■私と息子と夫。1対1の大切な関係が3つある

母親は十月十日、お腹のなかで我が子を育てる。

「だから、子どもは自分の分身みたいに感じるっていいますよね。どうでしたか?」と、こないだ後輩に尋ねられた。

私は、息子を自分の分身だなんて、一度も思ったことがない。

どう考えても息子は息子だし、私は私。

しばらく自分の体内で育ててはいたけれど、それはそれだけの話。

これから自我を持って活動していく個体を、なんで自分の一部なんて思えるだろうか。

息子は、私と夫の遺伝子をたしかに受け継いでいるけれど、もう親とは別物だ。というか、勾玉みたいな影が初めてエコーに映ったときから、ずっと私たちと息子は別物だった。

私と夫の半分ずつ、でもない。私と夫の遺伝子をきっかけにしただけの、まったく新しい生命体だと思う。

だからこそ、息子といい関係をつくっていきたい。
夫と私はとても気が合うけれど、いい関係でいるために心を尽くしている。息子とも、ちゃんと努力をし合えるような関係になれたら、すごくうれしい。

夫と私、私と息子、息子と夫。1対1の大切な関係が3つある。
私と夫が支え合いながら、それぞれの人生を生きているように、息子もひとりの人間として尊重したい。小さな恋人でも、分身でもないけれど、とても大切な存在だ。


いま、しっとりと冷たくて小さな手は、私にふれるとき、これっぽっちの遠慮もない。自分と母親のあいだを隔てるものは何もないのだというように、ぺたり。その期間限定の距離感が、とても愛しい。

そもそも、我を忘れて泣いているとき、
私が抱っこしたらぴたりと泣き止むなんて仕掛け、ちょっとかわいすぎませんかね?

菅原 さくら

1987年の早生まれ。ライター/編集者/雑誌「走るひと」副編集長。 パーソナルなインタビューや対談が得意です。ライフスタイル誌や女性誌、Webメディアいろいろ、 タイアップ記事、企業PR支援、キャッチコピーなど、さまざま...

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