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『コウノドリ』第7話~「母にならない人生」だって“仲間”がいれば幸せになれる

産科が舞台の医療ドラマ『コウノドリ』第7話のレビューをお届けします。出演は、綾野剛、星野源、松岡茉優、坂口健太郎、吉田羊、大森南朋ら。ペルソナのムードメーカーである助産師・小松が迎えた、女性としての人生の転機を描いていました。

『コウノドリ』第7話~「母にならない人生」だって“仲間”がいれば幸せになれる

綾野剛主演の金曜ドラマ『コウノドリ』第2シーズン。先週放送の第7話のテーマは「母になる人生 母にならない人生」。これまで、妊娠・出産と家族のその後について描いてきた『コウノドリ』だが、今回は「出産しないこと」について深く掘り下げていた。

■子宮全摘……だけど、仲間たちがいる

お腹を押さえて倒れてしまった助産師長の小松(吉田羊)。彼女の病気は「子宮腺筋症」と「卵巣チョコレート嚢胞(のうほう)」だった。卵巣チョコレート嚢胞は放置しておけば卵巣がんになる危険性がある。

四宮(星野源)は子宮の全摘を勧めるようサクラ(綾野剛)に告げる。サクラはあくまで選択肢のひとつとして小松に手術を勧めるが、彼女は自分の身体のことがよくわかっていた。ほかに選択肢はない。

しかし、自分自身の辛い境遇にも小松は笑顔を絶やさない。救命科に転科した下屋(松岡茉優)を励まし、赤ちゃんを取り上げ、同期の妊娠を祝福する。「小松も負けてらんないね」というちょっと心をえぐる声にも笑顔で応える。辛いこともあるが、こうした態度が周囲との信頼を培っていくのだろう。

「もう少し自分を認めてあげましょうか。一日の終わりに、よくがんばりました、と自分に声をかけてあげてください」

これは悩んでいる下屋にかけた言葉。だが、四宮は小松に「自分を大切にするように」と話す。自分を大事にしなければいけないのは小松も同じこと。サクラは小松ひとりのためにピアノを弾く。

「鴻鳥先生、私決めたよ。悔しいけど仕方ない。これが私の人生だ」という小松の強がりを、サクラの言葉がとかしていく。

「小松さん、あまり頑張りすぎないでください。頑張ってる小松さんも好きだけど、頑張ってない小松さんも大好きです。だからひとりで全部抱え込まないで。みんな、小松さんの味方ですから」

手術当日、日々の業務をこなしながら、さりげなく小松のことを気にかけているペルソナのメンバーたち。サクラと四宮が無言でお互いのカップ焼きそばとジャムパンを交換するシーンは、ふたりが小松の不在によって仲間の大切さをあらためて感じたということなのだろう。良いシーンだった。

■気のきいた答えはないけど、態度は示すことができる

手術前、小松は子連れのメディカルソーシャルワーカー・向井(江口のり子)にこう問いかけていた。

「お母さんになる人生と、お母さんにならない人生。何が違うのかな?」

このときは答えに窮した向井だったが、手術の後、小松の部屋を訪れる。身寄りがない小松は、ひとりきりで生きていくことに怯えていた。「親も兄弟も夫も子どももいない私にとって、子宮は最後の頼りだったんだ」。小松の言葉を聞いても、まだ向井は何も答えることができない。友達、仲間の大切さ、ありがたさを身にしみて感じたと語り続ける小松。

「私の中から大事なものがなくなっちゃったけどさ。私には支えてくれる仲間がいる。それってさ、向井さん、すげえ心強いんだよ」

向井は結局、答えを出すことはできなかった。でも、小松のそばにいて一緒に泣き、おばあちゃんになるまで友達だと約束する。泣きながら冗談も飛ばす。小松にとって、気のきいた答えなんかより、向井のこうした態度のほうがよっぽど心強いし、うれしかったはずだ。

「お母さんになる人生」と「お母さんにならない人生」は、もちろん違う。でも、どっちが優れていて、どっちが劣っているということはない。どちらの人生だって幸せになることができるはずだ。そのためには、自分を大切にすることと、まわりの人たちを大切にすること。『コウノドリ』は、そのことを理屈ではなく、じんわりと伝えてくれる。

■職場に赤ちゃんがいるって素敵なことじゃない

小松のエピソードと並行して描かれていたのが、産婦人科医の倉崎のエピソードだ。

シングルマザーとして幼い子を育てながらペルソナで働く倉崎は周囲からの“特別扱い”を拒み、他のスタッフと極力同じ仕事量をこなそうとしていた。しかし、産婦人科医は激務だ。オンコールがあれば、深夜だろうが早朝だろうが駆けつけなければならない。サクラたちのフォローの申し出を突っぱねる。

ある日、子どものお迎えの時間が迫っていた倉崎だが、帰宅間際、担当していた患者の様態が急変してしまう。倉崎を返そうとするサクラと四宮。「ここはチームだよ。少しぐらい仲間に助けてもらったっていいだろ」。

これだけでも良いシーンなのだが、倉崎はまだ戸惑っている。そこへ声をかけたのが小松だ。

「もしよければ、私がユリカちゃんのお迎えに行こうか? 鴻鳥先生、ここがチームなら、こんな協力の仕方もありだよね?」

小松は保育園に赤ちゃんを迎えに行き、四宮は倉崎の手術のサポートに立つ。

女性は赤ちゃんの近くにいてやるべき、母親は赤ちゃんの世話を優先するべきだという考え方を乗り越え、働きたい人の意思を尊重し、職場の仲間同士で母子のサポートをするという、とても素敵なシーンだった。職場に同僚の赤ちゃんがいるって良いものだ。赤ちゃんを総出で追い出そうとした、どこやらの議会とは真逆である。

仲間を頼ってもいいという部分で、小松のエピソードと倉崎のエピソードは通じている。ふたりの場合は職場に良い仲間がいるが、これが夫婦であったり、家族であったり、友人であったりする場合もあるだろう。子どもがいても、いなくても、夫婦こそ小松とサクラたちのような良き“仲間”であるべきなのかもしれない。

今週のひとことメモ。
サクラが小松のためにピアノを弾いたテラスのあるダイニングバーは麻布台のイタリアン「ESCRIBA」。“大人の隠れ家”として人気の店だ。ちなみにテラスにピアノは置いてない模様。

大山 くまお

ライター。文春オンラインその他で連載中。ドラマレビュー、インタビュー、名言・珍言、中日ドラゴンズなどが守備範囲。著書に『「がんばれ!」でがんばれない人のための“意外”な名言集』『野原ひろしの名言集 「クレヨンしんちゃん」から...

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