クリエイティブは「自分が好きなことをできる場所」から始まる【ジルデコchihiRo×中山シェフ】
ジャズバンド「JiLL-Decoy association」のボーカルを務めるchihiRoさんがホスト役となり、同じく「ものづくり」に携わる方を招き、ものづくり、クリエイティブをテーマに語らう本対談企画。第2回では、フランス・パリの名店「Restaurant TOYO」のオーナーシェフ、中山豊光さんをお招きしました。
あなたは「クリエイティブ」という言葉を聞いて、どういったことを想像しますか?
自分には縁のないもの? 手が届かないもの?
もしくは、突出した才能がないと始められないもの?
果たして本当にそうなのでしょうか? クリエイティブ業界の第一線で活躍している人たちの原点にあるものとは――。
ジャズバンド「JiLL-Decoy association(以下、ジルデコ)」のボーカルを務めるchihiRoさんがホスト役となり、同じく「ものづくり」に携わる方を招き、ものづくり、クリエイティブをテーマにあれこれ語らう本対談企画。
2回目のゲストはフランス・パリの名店「Restaurant TOYO」のオーナーシェフ、中山豊光(なかやま・とよみつ)さんです。
今回は、どんなものづくり論が飛び出すのか……どうぞ最後までお楽しみください。
■ものづくりの始まりは、母の喜ぶ顔
ジャズバンド「ジルデコ」のボーカルを務めるchihiRoさん
chihiRoさん(以下、chihiRo):中山さんと料理の最初の出会いってなんだったんですか?
中山豊光さん(以下、中山):ぼくは熊本の出身なんだけど、田舎料理が嫌いだった。だから自分で材料を集めて、作るようになったのが始まりかな。ぼくが作った料理を見て、母が喜んでくれたのを覚えている。
パリの名店「Restaurant TOYO」のオーナーシェフ、中山豊光さん
chihiRo: えー、そうだったんですね。田舎料理が嫌いだったんですか(笑)。
わたしも小さいころ、自分が歌うと親が喜んでくれた、という経験がベースにあります。
中山:今思えば、ですけどね。
■一番幸せな瞬間はやっぱり「お客様に喜んでもらったとき」
chihiRo:そういった体験から始まった料理ですが、中山さんが料理をつくっている中で、一番幸せな瞬間っていつですか?
中山:やっぱりお客さんに喜んでもらったときかな。
だけど、あまりに完璧な料理ができたときはね、メニューにしたくないなって思ってしまう。
chihiRo:そんなことあるんですね! 自分で食べたいという気持ち?
中山:食べたい、というよりも、出すのがもったいない(笑)。例えば、バシッとコンソメスープがキマったときとか。
chihiRo:なるほど。わたしそういうバシッとキマるときって少ないです。年に80本とかライブやって、2~3回とかですね。ライブ中に全部の楽器の音が聞こえて「わたし今ならいくらでも歌える」って気持ちになって……。
中山:「わたし天才」って思う(笑)?
chihiRo:思います(笑)。わたし最高! って。
中山:あはは。
chihiRo:中山さんは料理に携わる中で、どういったときに悩んできましたか?
中山:今でもよく悩みますよ。
料理を作っている最中に、どうやって出そうか、何味にしようかな、って悩むことがある。うちの店はカウンター席なので、直接お客様に「何味がいいですか?」って聞きにいったりする。
あとはお客様の体調とか、食べるスピードとかを見ながら、次の料理をつくったりしていますね。
chihiRo:人をすごく大切にするレストランなんですね。
■ものづくりにおける多数決ってあまり信用できない……
chihiRo:わたし、ものづくりにおける多数決ってあまり信用できなくて……。
中山:そうなんですか?
chihiRo:というのもアルバムをつくるとき、どの曲をアルバムに入れようかっていう会議になるんですね。そこでみんなが「これはイマイチかなぁ……」って感じなんですけど、わたしひとりだけ「これ良い曲だから入れさせて」って言った曲がけっこう良くなったり。
反対に、みんなが「これはイイね!」と言っていた曲が、たいしてファンに響かなかったりっていうことが少なからずあって……。
料理においてもこういうことってあるんですか? 新作メニューを考えるときとか、何回も作って、みんなで集まって何度も話し合ったりするんですか?
中山:いや、そういうのはないかな。
chihiRo:おひとりで考えているんですか?
中山:たとえば、「こんな料理をつくりたいんだけどイメージある?」って聞くと、スタッフが「こんな感じですか?」って持ってきてくれる。それで「美味しいね、これでいこうか」ってこともある。逆にダメなときもありますけどね。
chihiRo:それはどういった基準で?
中山:美味しい料理もあるんですけどね。ただ、うちの店で出す料理じゃないなってことがあるんです。
chihiRo:あー、なるほど。その「自分の店で出す料理じゃない」ってどうやって判断されているんですか?
中山:ぼくのお店では「旬な素材を生かして、ベストな状態で食べていただきたい」というのがベースにあるんです。
例えば、バタークリームとかを塗った料理も美味しいんですけど、そういう素材の個性をつぶしてしまうような料理ではないかな。違うお店で食べてみると、大好きなんですけどね。
chihiRo:フランス料理で、素材の味を生かすって新鮮な響きです。
中山:ひと言で表すなら「フレンチの懐石料理」です。だから手打ちのパスタとかだと、イカ墨をパスタに混ぜ込むとか、そういうのはないですね。やっぱりパスタは粉の味が美味しい。それに、料理全体として味がするところと、ないところがほしいので。
■「そぎ落とす美しさ」を求めるようになってきた
chihiRo:お話を聞いていると、中山さんは、お料理を日々進化させ続けているなという印象です。
中山:だんだんシンプルになってきているので、大丈夫かな? と思いますけどね。
前は「あっちも、こっちも」って、しゃれた料理をつくろうとしていたんですけど、今はだんだん引き始めているので……。豪華絢爛な料理よりも、おすましっていうのかな。「おひたし」みたいなものがだんだん好きになってきましたね。
chihiRo:なんとなくわかります。わたしたちも、昔はこういうことにチャレンジしてみようとか、こういうことをしてみようとか、自分たちにないものを求めてもがいていた時期があって。
でもデビュー10周年を迎えてから「なにやってもジルデコだよね」っていわれる時期に突入して……そこから、どんどんいろんなものを捨てていって、あんまりジャズも意識しなくなりました。自分たちの内側から出てきたものを演奏している状態というか。
中山:そうですよねぇ。
chihiRo:だから、どんどんシンプルになっていくって感覚はすごく共感します。
■「好きだなぁ」の感覚の先にあるスペシャリスト
chihiRo:最後に、クリエイティブなことをやってみたいけど、どこからやってみたらいいかわからないって人に向けて、なにかアドバイスをいただければと思うんですが。
中山:クリエイティブ……。うーん……ぼくはクリエイティブなことをあまり考えていないので。
chihiRo: そうなんですか。
中山:基本的に料理は好きでやっているんです。
たしかに何かすごいことをしようと思ったら、それは大変だし、失敗してしまうかもしれない。けど、落書きしてみようかなって始めたり、それこそ、ちょっと楽器触ってみようかなってくらいのレベルで始めてみると良いと思う。
chihiRo: 自分の好きなことができる場所を持つ、ということですね。
中山:目標を高く持ちすぎると、挫けやすいから。「好きだなぁ」って思ったその延長にスペシャリストがあると思うので。
(編集後記)
音楽と料理、並べてみるとまったく違った分野のように見えますが、中山さんも、chihiRoさんも、スタート地点は「誰かに喜んでもらった、これが好き」という体験でした。
「自分の中にある好きなこと」を、大切な場所として守り続けることが、クリエイティブへの第一歩なのかもしれません。
取材協力/中山豊光
フランス・パリの名店「Restaurant TOYO」のオーナーシェフ。1971年生まれで1994年に渡仏。パリのフレンチレストランと日本料理店で経験を積んだ後、髙田賢三(デザイナー)の専属料理人を経て独立し、2009年12月にRestaurant TOYOをオープンした。2018年3月には東京に出店予定。
http://toyojapan.jp/
Text・写真/小林航平
2018年3月「RESTAURANT TOYO」東京ミッドタウン日比谷出店
パリで今、最も注目されている、中山豊光シェフが手掛ける「TOYO」の 日本初出店店舗。
オープンキッチンでフレンチでは珍しいカウンターも据え、新鮮でかつ旬な食材にこだわりを持つ。
懐石料理の美意識が存在する世界観。西洋と東洋の融合を感じさせる「TOYO」では、唯一無二の究極のフレンチを味わえる。
いろいろな顔を持つ女性たちへ。人の多面性を大切にするウェブメディア「DRESS」公式アカウントです。インタビューや対談を配信。