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「産もうが産むまいが、幸せになれる」――とことん考えた自分の“選択”を信じること【犬山紙子さん×ハヤカワ五味さん】

結婚、妊娠、出産、育児。自分の人生を考えるとき、多くの女性の頭をよぎるキーワードではないでしょうか。先日、そんなテーマで対談を実施した犬山紙子さん×ハヤカワ五味さん。おふたりのお話を踏まえつつ、さまざまな“選択”をした女性たちの声を聞きました。

「産もうが産むまいが、幸せになれる」――とことん考えた自分の“選択”を信じること【犬山紙子さん×ハヤカワ五味さん】

ことの始まりは、コラムニスト・犬山紙子さんが上梓した一冊の書籍。

妊娠・出産にまつわる自身の悩みを踏まえ、さまざまな経験者に話を聞いた『私、子ども欲しいかもしれない。』(平凡社)だ。

そのリアルな体験談に共鳴したのが、現役大学生で経営者の顔も持つハヤカワ五味さん。立場も世代も違うふたりが感じる“妊娠・出産”をより深く見つめるため、公開対談が実施された。

■自分らしい“人生の選択”をするために、さまざまな声を聞きたい

犬山さんが妊娠したのは2016年夏。34歳のときだ。しかし妊娠に至るまでには「子育てと仕事の両立や、自分の時間がなくなることに不安があった」と言う。

対して、21歳のハヤカワさんは、とらえ方が少し違った。ちょうど同じ年頃の女性にヒアリングをする機会があった彼女は、妊娠・出産へのよりネガティブなイメージを語る。

「私たちは、働くことを自然に受け入れている世代。だからこそ出産=時間のロスだと感じている子たちもいるほど、漠然と、妊娠や出産が不安なんです。仕事と子育てを両立するのもとても大変そうだから、自分たちが本当に子どもを持ちたいかどうか、ということにも疑問をおぼえたりして……」(ハヤカワさん)

妊婦や母親の生きづらさや、子育てと仕事を両立することの大変さ。いまの世の中ではネガティブな側面ばかりが際立っていて、根が深い。犬山さんも、妊娠中はそんな情報にたくさん悩まされた。

「でも、産んだら思ったよりは意外とこなせて、ポジティブな面もたくさんあるんだっていう当たり前のことがすごく驚きでした。いまはネガティブな声が目立つし、それはとても大切なことなんだけど、そういうたくさんの情報を仕入れたうえでフラットな判断ができるように、ポジティブな声も同じくらい聞こえてくればいいなと思う」(犬山さん)

『私、子ども欲しいかもしれない。』は、まさに“フラットな判断”を助ける本だ。産んだ人、産まなかった人だけでなく、専業主婦やワーママ、同性愛カップルなど、さまざまなタイプの子育てについても“生の声”を集めている。

多くのインタビューを通して犬山さんが感じたのは、「自分の人生さえ尊重できていれば、産もうが産むまいが幸せになれる道はある」ということ。

自分らしい選択を、納得いくかたちで積み重ねていけば、そこにオーダーメイドの幸せが見えてくる。自分が決めたことに基づいて、自分のやり方を探せばいい。その感覚が広く伝わっていけば、若い世代の体感も変わってくるだろう。

■それぞれの選択から見えてくる“幸せ”のかたち

では、自分の人生を尊重するとは、どういうことだろうか。『DRESS』では、結婚・出産・育児というテーマで“自分の選択”をした、3人の女性に話を聞いた。

結婚と子どもを産む選択をした、りえさん

<自分と違う道を歩んでいる人の考えを、尊重できるようになった>

彼女はもともと、結婚に憧れるタイプではなかった。しかし、浪人や留年を経験した兄と同時に大学を卒業するとき、祝いの席で父が言った「育てさせてくれてありがとう」という言葉で、結婚や子育てに興味を持つ。

あらゆる面で負担の大きい子育てを終えて、なぜそんな言葉が出てくるのか、自分も経験してみたくなった。その後、りえさんは、出産を前提として結婚を決める。

「とはいえ、仕事に対するモチベーションがかなり高かったから、産後の家事分担などに不安はありました。ネガティブな情報にふれることも多くて、私は本当に出産や育児をやり遂げられるのかなって悩んだりもした。でも、いま子育ての渦中にいる人たちが『すごく大変』と言っていても、一段落した人たちはだいたい楽しそうに振り返っているから、きっと大丈夫だと思ったんです」

ただ、育児のネガティブな情報は、まったくそのとおりだった。子どもはすぐに熱を出すし、睡眠時間は奪われる。大好きな海外旅行にも行けない。しかし「そんなネガティブをひっくり返すくらい、子育ては楽しい」という情報が、圧倒的に欠けていた。

「たとえば海外旅行は、お金を払って楽しい経験を買っていますよね。子育ても、育てあげるまでの2000万円でその経験を買っていると考えたら、同じなのかなって思います。いまは子ども目線で見る世界が面白いし、この子がどう成長していくのかも楽しみ。子育てを通じて自分を見つめ直すことも、夫婦の会話が深まることも、多々あります」

出産を経て一番変わったのは、違う選択をした人を尊重できるようになったことだという。

「子どもを産むこの人生を選んでいなかったら、また別の人生があったな、ってよく考えるんです。たとえば、もっと身軽に仕事ができたかもしれない。たくさん旅行に行けたかもしれない。こういう想像力が広がって、自分とは違う選択をしてきた人たちのことを、前よりもずっと尊重できるんです。どんな選択肢にもマイナスの側面はあるけれど、どんな人生も、自分で悩んで決めた答えだったらいいんだと思います」

結婚と子どもを産まない選択をした、由梨さん

<さんざん考えて決めた、夫婦の関係を尊重する生き方>

大学時代の後輩と、社会人になってから再会。交際9カ月で籍を入れ、27歳から結婚生活をスタートした。ひとり暮らしが長かったため、生活のバランスが変わるのはすこし心配だったけれど、結婚自体に不安はなかったという。

「でも出産についてはいろいろ揺れて、悩みました。持病があったので、妊娠で常備薬が飲めなくなったり、育児が大変なときに身体が耐えられるかどうかわからなかったんです。彼は『子どもが持てなくてもいいよ』と言ってくれたので、まずは結婚を決めました」

しかし数年後、周囲が出産ラッシュを迎えると同時に、由梨さんもふたたび悩み始める。30歳を過ぎてからは、折に触れて夫とそのことを話し合った。自分でさえ、子どものいる友人を見てうらやましくなるときがある。時を経て、夫は子どもがほしくなっているかもしれない。そういう不満を言えずに暮らしてほしくないと思った。

「夫は『できたら楽しいだろうけど、いまの生活も楽しいから、こだわりはない』と言ってくれました。それに、夫は仕事が忙しいうえ、頼れる親戚も近くにいないし、待機児童問題も深刻。そんな状況でもほしいと思うなら、そのときは産めばいいと考えるようになったんですが……そのうちに、そこまででもないと思っている自分に気づいたんです」

いまの暮らしが満ち足りていたこともあり、由梨さんは子どもを産まない選択をした。それでも、周りからは「子はかすがいになるよ」「子づくりしてるの?」などと言われる。

「ひとりで考えるともやもやしてしまうから、『こういうことを言われたけど、考え直したほうがいいのかな』などと夫にシェア。私だけで決めることではないし、その話を受けて夫がどう感じるかも知りたかったから、ちゃんと話していましたね。夫はいつも『誰が何を言っても、うちはうちだから』と答えてくれました」

おかげで、自分たちの価値観で生きていくことに、ブレずにいられたのだという。そして、自分たちに合った“家族のかたち”を知ることもできた。

「『家族は子どもがいて完成する』と思っていると、夫婦の関係はただの過渡期になってしまう。でも、子どもがいなくてもいいんだと思えたら、ふたりで充分に満ち足りるんです。子がかすがいになるということは、少なからず子どもに依存する形になっていますよね。でも、夫婦ふたりだけのこの関係性をずっと大事にしたいと思うから、そのためにコミュニケーションを工夫する思考も生まれました」

子どもを持たないことを決心する理由は、人それぞれだ。でも、外野の意見で揺れすぎないためには、さんざん考えた実感が必要なのだと、由梨さんは言う。

「ほしい気持ちがあるなら、なんでなのか。ほしくないなら、なぜそう思うのか。いろいろな角度から考えたうえでの決心なら、自信が持てるようになります。まずはたくさん情報を集めて、“思考の分母”を増やすこと。そのなかから考え抜いた選択であれば、何を言われようと『それはもう考えました』と胸を張れるじゃないですか」

結婚も出産もしない選択をした、真奈美さん

<誰かと同じ生き方をして、誰かと同じ幸せを手に入れられるとは限らない>

若いころから結婚願望がなく、子どももさほど好きではなかったという真奈美さん。しかし、いずれは結婚も出産もするのだろうと、当たり前に考えていた。でも、30代に差しかかってもそうならない。むしろ、ひとりで過ごす人生がどんどん楽しくなり、結婚や出産からは遠ざかっていった。

「お付き合いしていた人はいましたし、結婚の話も出なかったわけではありませんが、その選択に魅力を感じなかったんですね。『結婚したい』『子どもがほしい』と思わない自分は、女性として何かが欠けているのかなと悩んだこともありました。でも、その何かを埋めるために結婚や出産をしたところで、いずれ後悔する気がしたんです。家族や親戚は急かすようなことも言ってきたけれど、周りのために決めることでもない。自分が本心からそれを望むようになるまでは、待つことにしました」

結婚も出産もしない人生は、とにかく自由だ。夫婦関係や子どもの教育といった、自分の手ではなんともならない問題にわずらわされることがない。一方で、自分を頼りにしてくれる家族がいないのは、寂しくもある。

「でもいまは、身軽なこの生活を楽しんでいます。結婚も出産もご縁や運がある程度関わるものだから、する人もいればしない人もいる。誰かと同じ生き方をしたからって、同じ幸せを手に入れられるとは限りません。自分にとっての幸せが何なのかを考えて、それを叶えるための行動を起こすことが、一番大切なんじゃないでしょうか。どんな生き方を選んでも、波はありますよね。でも、自分が選んだ道は最高だと信じて、幸せになると心に決めること。その想いが支えになって、人生に自信が持てるんじゃないかと思います」

はじめから自分の選択に自信のある人なんていない。いろいろな情報を取り込んで、自問自答を繰り返しながら、だんだんと自分のアイデンティティを育てていく。そうしていつか、自分にふさわしい選択ができるようになるのだろう。その積み重ねが、これからの女性の生き方なのだと思う――真奈美さんはそう言った。

■決断する勇気と、幸せを追求する努力

3人の話には、共通点がある。ひとつは、決断する前に自分の考えをとことん深めていること。もうひとつは自分の選択を信じ、そこから先に続く人生をよりよいものにする努力を怠らないことだ。そのスタンスが、自分だけでなく、誰かの人生を尊重する姿勢にもつながっていく。

犬山さんとハヤカワさんの対談にもあったように、まずはさまざまな情報を集めること。そのうえで自分の“声”をしっかりと聞き、納得いくまで考える。そうして私たちは、自分の人生の舵が取れるようになっていく。そこには、正解も不正解もない。人生を自分らしく生きていくための、一人ひとりの選択があるだけだ。

『私、子ども欲しいかもしれない。』の書籍情報

菅原 さくら

1987年の早生まれ。ライター/編集者/雑誌「走るひと」副編集長。 パーソナルなインタビューや対談が得意です。ライフスタイル誌や女性誌、Webメディアいろいろ、 タイアップ記事、企業PR支援、キャッチコピーなど、さまざま...

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