夫婦ふたりの老後を想像し始めた

夫婦ふたりの老後を想像し始めた

夫婦ふたりきりで暮らしていると「老後はどうするの?」とよく聞かれる。「子供がいないと大変だよ」と言う人もいる。もちろん、夫婦二人の老後のことは、考えていないわけではない。じゃあ具体的には……? 少しずつ、小さなことから、夫婦二人の未来を決め始めた。


■高齢男性から「子供がいないと老後が大変」とお説教

子供はいるのか、と聞いてきた60代の男性に「いない、作る予定もない」と答えたら、その人は目を真ん丸くしたあと、眉間に深い皺を寄せた。私は笑顔を貼り付けて、くるぞ、くるぞと身構える。

「子供がいないと老後が大変だぞ。そのときになって寂しいと嘆いたって手遅れだ」
「はあ、そうですね」
「今が楽しければいいという考え方はどうなんだ、親不孝をするんじゃない、もっとよく考えなさい」
「そうですねぇ」

ニコニコしながら、男性に向かって頷く。
ここ数年でよく言われるようになったセリフ。
こういうときに反論するなど、もってのほか。嵐が過ぎ去るのを、首をすくめてじっと待つ。

■年を取ったときに子供がいないと困るあれこれ

夫婦ふたりだと、どちらかが大病を患ったり、介護が必要になったときに、もう1人もすでに高齢だ。私は祖母が寝たきりで、母がずっと介護をしていたこともあり、介護がかなりの体力仕事だというのはよくわかる。

年を取れば、周りの友人たちも同じように年を重ねる。若いときはある程度の距離なんてなんのその、一緒に遊びに行くこともできるが、高齢になれば頻繁には不可能だ。子供がいれば、孫だ、親戚だと広がる人間関係も、夫婦ふたりで完結してしまう。

親不孝だというのは孫の顔を見せることができない、というのもあるが、親の墓の面倒を見る人がいなくなる、ということだろう。子供が亡くなれば、墓参りをしてくれる人もいなくなってしまう(もちろん、お寺が供養・管理をしてくれるものもあるだろうが)。

そして、夫婦のどちらかが先に亡くなった場合、どうするか。孤独死もあり得るかもしれない。

■夫婦二人きりの老後について話し始めた

私たち夫婦は二人とものほほんとしているし、今生きるので精一杯で……というところもあったが、30代半ばに差しかかったあたりから、老後について少しずつ話し始めるようになった。

夫は家事が一切できない人なので「奥さんが死んだら3日ともたなそう……」などとしょんぼりとしながらよく言っていた。とはいえ、こればかりがどちらが先に逝くかはわからない。

そんなあるとき、ふと、どちらかが要介護になったらどうしよう、と夫が漏らした。

「俺がボケたり、1人でトイレに行けなくなったりしたら、捨て置いてくれていいから」

つい1年ほど前は、俺は早いうちから車椅子生活になりそうだなあ、そうしたらちゃんと車椅子押してね、などと冗談で言っていたのに(タチの悪い冗談だ)、何か彼なりに考えるきっかけがあったのかもしれない。

確かに、母が祖母にしていたように、夫のオムツを替えたり、抱き抱えてお風呂に入れたり、ということを想像してみると、物悲しさがこみ上げてくる。そして、それは私にも言えることで、自分がそうなったら……と考えると、やはり夫と同じことを言うだろう。

「どうかどうか、放っておいてくれ」と。

■まだまだ答えが出ない、夫婦二人きりの老後のこと

別に改まった話し合いの場を設けるということはないけれど、気がついたときに少しずつ話すようにしている。お金のこと、住む場所、老人ホームって保育園並に入れないんだっけ、と冗談とも本気ともつかないようなノリで話す。

そして、最初に始めた老後の準備はいろんなサイズのジップロックを買ってくることだった。

一緒に行った美術館のチケット。
お揃いで買った携帯のストラップ。
全部は無理だけれど、たまにジップロックに入れて、箱にしまう。

ときどき取り出して、
「これはあそこに行ったときのものだね」
「そういえば、あのときケンカしたね」
などと話せたらいい。

そんなことを話す時間ができるだけ長く続くように、願いながら。

この記事のライター

シナリオライター。1982生まれ、大阪府出身。大学卒業後、2006年よりライターとして活動を始める。現在は胃が虚弱な痩せ型男性と暮らしながらラブストーリーについて考える日々。焼き鳥とハイボールと小説、好きなアイドルのライブに...

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