女性の生殖年齢の限界はアラフォーと言われています。自分の卵子で妊娠したいのであれば、時計の針は戻せなくても、時間を止めることはできます。卵子を保存する技術が最近になって実用化レベルになり、元気な状態の卵子を保存することができるのです。宋美玄先生に卵子の保存についてお話しを伺いました。
卵子凍結とは夢のような技術?妊娠の可能性と課題を知っておこう
卵子凍結には医学的卵子凍結と社会的卵子凍結の2種類があります。後者はとくに医学的あるいは倫理的な観点から、まだまだ議論されるべきではないでしょうか。たとえば卵子凍結できる年齢制限や決して安くない費用、凍結されたままの卵子……卵子凍結における課題を考えます。
「卵子凍結」という技術をご存じでしょうか。
最初にお断りしておきますと、これからお話しする内容は、「卵子凍結をお勧めします」というものではありません。
ただ技術的に卵子凍結が可能となった今、「女性がご自身の妊孕性、つまり妊娠できる力をより長い期間維持できる可能性がある」ことは知っておいた方がいいかもしれません。女性が自分のライフプランを考える上で、ひとつの選択肢が増えたともいえます。
■凍結処理は夢のような医療技術?
映画や小説でこんなエピソードを目にしたことはないでしょうか。何十年あるいは何百年も前に、冷凍保存された人間が、現代に解凍されて蘇る……。
アメリカでは、現在の医療では治すことのできない病気の患者さんが、未来の医療技術によって自分の病気が治ることを期待し、凍結保存容器に入って凍結処理を受けることもあるようです。
まさに夢のような技術ですが、これには大きな問題がひとつあります。それは、現時点では凍結した人間を解凍する技術がないこと。病気を治すための技術だけでなく、凍結された人間を解凍する技術も未来に託されているのです。
人間の体を構成する細胞の数は諸説ありますが、37兆個というのが有力な説であるようです。その膨大な数の細胞がすべて、一度活動を停止させられた後、再びすべてが正常に活動できるということはなかなか難しいのではないかと思います。
■受精卵、精子凍結はすでに30年の歴史がある
ところが、不妊治療の世界では、卵子や精子、あるいは受精卵という、人間の体全体から見ればもっと小さな細胞の単位ではありますが、すでにその技術が確立されているのです。
とくに受精卵あるいは精子の凍結は30年ほどの歴史があり、凍結方法や融解方法についてさまざまな研究が重ねられた結果、現在はほぼすべて体外受精クリニックでも行える技術となっています。
不妊治療を行なっている私たち婦人科医にとっては、この凍結あるいは融解技術はすでにあたりまえのことになってしまっています。
けれど、よく考えますと、「自分の遺伝子を何十年、何百年後まで残すことができる可能性がある」ということは、倫理的な問題はさておき、これは先に述べたような、未来をまた自分が生きられるというような、SF映画のような技術なのかもしれません。
■卵子凍結とは
さて、表題の卵子凍結についてです。卵子の凍結は、専門的には、「受精卵の凍結」と対比して「未受精卵の凍結」という言い方をすることもありますが、ここではわかりやすく「卵子凍結」という言葉でお話しします。
卵子は、受精卵と比較すると細胞が弱いため、凍結後の融解時の生存率が、受精卵ほどよくはありせん。一般的に、受精卵の生存率が10個中8〜9個であるのに対し、卵子の生存率は10個中3〜5個程度となります。
卵子凍結がこれまであまり話題に上がらなかったのは、その低い生存率とともに、体外受精という治療自体が、日本では「婚姻関係にある男女の間でのみ可能」という日本産科婦人科学会の勧告のもとに行なわれてきたため、意図的な卵子凍結が行われることがなかったということがあります。
その一方で、こうした生殖補助医療技術の進歩とともに、若い女性が乳がんなどにかかった場合、抗がん剤や放射線治療の前に、卵子あるいは卵巣組織の一部を保存し、その治療後に妊娠の可能性を残そうという考え方(医学的卵子凍結)が生まれました。3〜4年前からそういった治療が始まり、抗がん剤治療後に妊娠された方の報告もみられています。
また、さらに最近では、こういった医療的な適応ではなく、すぐに妊娠の予定のない女性の「希望による卵子凍結」(現時点でパートナーが不在だったり、キャリアを優先したりする意味での社会的卵子凍結も含む)も、一部のクリニックでは行われるようになっています。
このことについては、医学的あるいは倫理的な観点から、まだまだ議論されるべきことではあるでしょう。
■卵子凍結できる年齢は決まっている
たとえば、卵子凍結を行なっているほとんどの不妊治療クリニックでは、卵子を採取できる年齢を40歳まで、またその卵子を受精させ、胚移植を行なえる年齢を45歳までとしています。
これは安全に妊娠・出産ができる、いわゆる生殖年齢は45歳くらいまでという考え方に基づいています。周産期医療が進んだ現代でも、高齢妊娠は必ずしも母体や胎児にとって安全とは言い切れないのです。
■卵子凍結にかかる費用は安くない
また、費用面において、卵子を凍結するまでには、排卵誘発、採卵、凍結というステップがあり、各料金はクリニックによって異なりますが、およそ30~50万円程度となります。凍結卵子の数が多くなればなるほど、料金も上昇します。
さらに、一度凍結した卵子は、クリニックの培養室で保存されますが、その保存を継続するためには、毎年更新料を支払う必要があります。
■凍結後、保存されて使われない卵子も少なくない
すでに卵子凍結を行なった女性のうち、今のところまだ多くの方が凍結したままで、その卵子を使用した体外受精は行なっていないという調査結果もあります。
子供をもうけることに関して、海外と比較して、日本では卵子提供や代理出産は認められておらず、養子をとるということについても、社会的あるいは心理的なハードルがあります。
そういった文化や環境の中、パートナーがいない状況で「卵子だけがそこにある」ということについて、今はまだ、女性だけでなく男性も、そしてそれに携わる医療者もまた何らかの困惑した思いを抱えているのかもしれません。
卵子凍結についてお話ししましたが、はじめの話に戻りますと、今の段階では、すべての女性に卵子の凍結を行なうことは勧められるものではありません。ただ、妊娠ができる期間は女性の一生の中で限られた期間であることも事実です。
今はまだ医療技術に、人の理解や思いが追いついていない部分もあるかもしれませんが、現在の医療技術において、こういった選択肢もあると知っておくことも大切なことかと思います。
卵子凍結ってできるのでしょうか。できます。今までは受精卵の凍結しか行われていませんでしたが、最近その技術が進み、未受精卵の凍結も実用化されてきました。若いうちに卵子を取っておくというのも選択肢の一つになりますね。今回は卵子の凍結技術について取り上げます。
「妊娠したい女性にとってストレスはよくない」ということは、一般的にもよく知られていますし、感覚的にも「そうなんだろうな」ということはわかるかと思います。ストレスそのものや、ストレスを感じる仕組みなどを理解して、過剰なストレスを感じないよう、自分なりの工夫をしたいものです。