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肥大化した生活を手のひらサイズにする【紫原明子 連載 #13】

生活のあれこれを簡略化すると、新しい時間が生まれ、生活に追われない仕組みを作れるはず。紫原明子さんが見直したのは、洗濯物と料理、化粧。どう工夫したのか綴ってもらいました。

肥大化した生活を手のひらサイズにする【紫原明子 連載 #13】

年明けてすぐの頃に、小説家の海猫沢めろん先生が「タオルは皺にならないし、洗ってもまたすぐ使うんだからたたむ必要がないんじゃないか」ということをSNSに投稿されていた。

それを見て私は目からウロコ。それだ! とすぐにIKEAに行き、衣装ケース大小2つを買ってきて洗濯機の上に設置。乾燥まで終わらせたタオルを、洗濯機からそのままケースに放り込むようにした。

もちろん、たたまずに(2つ用意したのは、バスタオルとフェイスタオルを分類するためだ)。そしたら、これがもう超良い。

私はこれまで人生のどれだけの時間を、タオルをたたむことに費やしていたのだろうと若干気分が沈んだ。しかし、このやり方に変えたおかげで、家事がはかどる。

■タオルをたたまなくなった

洗濯物たたみは、主婦になったばかりの頃から嫌いだった。いつの日か生活技術(という言葉があるのかわからないけど)が熟練してきて、好きも嫌いもなく、ただ淡々とやれるようになるんだろうと信じてきた。けれど、そうして15年経ってもやっぱり未だに好きになれない。

すぐにたたむ時間がないとき、洗濯を終えた洗濯物は、とりあえず私の部屋のドアからすぐの床に、放り投げておくことになっている。必然的に子供たちは、毎朝私の部屋を訪れ、洗濯物の山の中から必要な衣類を探し出す。

その姿はまるで砂金掘りが金を採掘するかのようである。しかし子供たちの採掘スキルは決して高くないので、忙しい朝にやれ靴下がない、体操服がないなどと助けを求められることもよくあり、当然ながらこの方法は全然効率的ではなかった。

やっぱり、それぞれのたんすに最低限仕分けられているに越したことはなかったのだ。そして、たんすの容量には限度があるし、くしゃっと入れると皺になるので、当然ある程度はたたまなくてはならない。

しかし、それだってタオルをたたまなくなった今となってはお茶の子さいさい。家族3人分の洗濯物なんてすぐたたみ終わるので、子供たちも無事、砂金の採掘を卒業することができた。

■野菜を切らなくなった

タオルをたたまなくなったのに加えて、最近では野菜も切らなくなった。

さすがに完全に切らない、というわけにはいかないが、葉物ならキャベツやレタス、根菜も里芋やタケノコ(これらは大体水煮)など、世の中に案外多いカット野菜を積極的に使うことにしたのだ。

仕事から疲れて帰っても、事前に作り置きしていた主菜や副菜を温めて、あとは野菜を盛るだけ、となれば毎日の料理への精神的なハードルもかなり下がる。

足の早い葉物など、使い切れずにダメにしていたことを思えば、カット野菜のコスパは必ずしも悪くないように思う(一時、カット野菜は薬漬けで危険、といった噂がささやかれた時期もあったが、その後いろいろと検証がなされ、今では危険ではない、という記事がいろいろな媒体から出ている)。

■化粧しない日を週1回〜作るようになった

さらに言うと、今年に入って週に1日以上、化粧をしない日をもうけることも決めた。

出社日など人前に出るときには化粧をする。しないと気持ちが落ち着かないからだ。しかし、これまではそんな日に加え、人に会う約束のない日、たとえばちょっと近所のスーパーに買い物に行ったり、一人で仕事をしに喫茶店に行ったりするときにだって、つまりはどんなときでも常に化粧をしていた。

実際、誰とも会う予定がない外出時の化粧なんて、手間も時間も無駄じゃないかという気がしていたものの、何か大人としての責務のような気持ちで、渋々化粧品を塗り続けていた。そんなストイックさの中で保たれる緊張感こそが、明日のわずかばかりの美につながるのだろう、と思いながら。

だけど、あるときふと思いついた。週に1日以上化粧をしない日を作る、というマイルールを定めると、化粧をしない行為にもストイックさが宿るのではないか、と。化粧をしなくたって美意識高い大人になれるのではないか、と。

化粧をしない=怠惰、でなく、化粧をしない=自分を労わってる、とか、いくらでも理由はある……。そんな思いつきによって、1週間のうち1日以上の化粧が、積極的に手放されたのであった。

■日々のタスクをコンパクトにして、自己肯定感を上げたい

現在34歳、今年35歳。子供をふたりもを抱えながら、私は未だに、大人としてまっとうに生活することの大変さを感じている。

トイレットペーパーも完全に切れてから慌てるし、歯医者の予約もよく忘れて謝ってばかり。たった今も、区役所に出すべき書類を数ヶ月出し忘れていることを思い出して、急に暗澹たる気持ちになった。

で、そんな風に生活に追われていると、子供や友人と楽しく食事をしていてもどこか心から楽しめないし、仕事とプライベートのメリハリもつかない。さらに最も悪いことに、未消化のタスクが山積みでは、日一日と自己肯定感が下がっていく。

有名なニート、phaさんの書かれた本『しないことリスト』にはまさにこういった煩雑な日々のタスクから解放されるための知恵がたくさん紹介してあり、とても参考になる。

けれども「家賃を払わない」などから成るあの境地は高みすぎるので、ひとまずのところ私は、生活の中の省略できるタスクを一つひとつ、地道かつ積極的に簡略化して、今年こそは、生活を私の手に負える大きさに変えていこうと思う。……数年前から同じようなことを言い続けている気もするけど、今年こそはきっと。

紫原 明子

エッセイスト。1982年福岡県生。二児を育てるシングルマザー。個人ブログ『手の中で膨らむ』が話題となり執筆活動を本格化。『家族無計画』『りこんのこども』(cakes)、『世界は一人の女を受け止められる』(SOLO)など連載多...

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