アラフィフ女性が109で福袋を買ってみたら【デキる女の決断クローゼット #15】
福袋を買ったことがなかった輪湖もなみさん。一度くらいはと思い、2017年は渋谷109で福袋を購入してみたところ、思わぬ発見がありました。
■福袋を買わない人生だった
生まれてから一度も“福袋”というものを買ったことがありません。16年間ファッション業界で仕事をしていたので、福袋はずっと“作る”側の立場でした。
いきなり水をぶっかけるようなことを書いて、福袋好きな方にはたいへん恐縮ですが、アパレル業界にとって福袋は、シーズン末まで残った在庫処分の手段にすぎません。
もちろん、元値は数万円だったものも福袋には入っていますが、それはあくまでその商品が初めて店頭に並べられたときの売り値です。不動産が古くなると価値が下がるのと同様、服も時間がたてば在庫価値は下がるものです。
また、福袋を作るときには、いいものと悪いものを混ぜる、というのも業界の常套手段。たとえ1個でもいらないものが入った福袋はゴミを増やすだけ! そう思い、私はこれまでかたくなに福袋を避け、半世紀を過ごしてきました。
■若者の聖地109で、初めて福袋を買ってみた
しかし、昨年からファッションコラムを書かせていただいていることもあり、多くの若者が買っている福袋というものを、一度は買ってみるべきなのではないか? という気持ちになりました。
向かったのは、1月2日、昔も今も若者の聖地、渋谷109(マルキュー)です。お昼過ぎの店内は、夕方の山手線くらいの混み具合。20歳そこそこと思われる販売員のお姉さんが、店前の通路で、
「にまんえん相当があ〜っ、必ずはいって、さんぜんえ〜ん!」
と声を張り上げるなか、すでに数少なくなった赤い袋を適当につかんで、ようやく購入することができました。
■福袋の中身を物々交換する女の子たち
2枚重ねのヒートテックの下に大汗をかきながら、地下通路まで避難してくると、そこには
「なにかのフェスが始まるんですか?」と聞きたくなるほど、大勢の女の子たちが集まっているではありませんか。
「セーターいりませんか〜?」
彼女たちは、地下通路に腰を下ろして買ったばかりの福袋を開け、不要なものをお互いに交換し合っているらしいのです。
「なるほど、物々交換がここでの作法なのだな」
私も、場違いながらその場にしゃがみこみ、福袋を開けてみました。
ストールにニット、台形型のミニスカート、キラキラのついたアクセサリー2点。3,000円の福袋にしては、なかなかの充実ぶりです。アクセサリーだけ娘にあげることにし、残りを袋に戻して、さっき私にしゃがむ場所を譲ってくれた高校生くらいの女の子に声をかけました。
「ねえ、これ全部もらってくれない?」
彼女は、グレイのカラコンの入った大きな瞳を輝かせ
「おばちゃん、神じゃね?」
と言って、グミをくれました。
■福袋はモノ消費ではなく、コト消費と化していた
買ったばかりの福袋の中身を品定めしながら、撮影しインスタにアップする。見知らぬ者同士、服を交換して盛り上がる。これは、購入からお楽しみ会までがセットになった、イベントなのだと思いました。
特別美味しくもない肉を、「アウトドアでみんなで焼いて食べると美味しいね」というのに似ています。福袋は今やBBQ同様、共感と体験を買うもの。どうやら“モノ消費”でなく“コト消費”へと発展を遂げたようです。
私たちアラフォー、アラフィフ世代は、ものが少ない時代を経験した親に育てられ、特上肉を一人でじっくり焼いて食べるという消費をしてきました。
しかし、そんな私たち世代に育てられた若者にとっては、何を買うかより周囲とどんな体験を共有したいかのほうが大切。
インスタのためなら、たとえジュース1本買うのでも“飲みたいものより写真映え”。いいね!をもらい共感を得るのが、最重要事項だからです。
彼らに受け入れてもらえるような、商品やサービス。作り出す側の人間は、よほど頭を切り替える必要がありそうです。
そう思いながら、地下通路ですっかり冷えて痛くなった腰をさすりながら、よろよろと帰途につきました。