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乳がんになっても自分を責める必要なんてない。

37歳のときに乳がんになり、7年に渡ってホルモン療法を行ってきた、フリーライターの北林あいさん。乳がんと闘病中の小林麻央さんのこと、乳がんの患者さんと接するときのこと……自身の体験から考えることを伺いました。

乳がんになっても自分を責める必要なんてない。

■小林麻央さんの報道を見て思うこと

――最近乳がんで話題の方と言えば小林麻央さんですが、どのように見ていらっしゃいますか。

メディアは情報をセンセーショナルに報道しがちです。キラキラしていた麻央さんのステージが進行しており、余命が短いのではないかという憶測がギャップを生み、ニュース性を高め注目されているのだと思います。こういうニュースにはいい面と悪い面があります。ゴシップと受け取ってしまうのか、検診や命について考える機会ととらえるか、それは受けての意識次第です。

このニュースをきっかけに検診に行く人が増えているのはメリットだと感じています。乳がんは、授乳中でも30代でも見つかるものという現実を知り、自分ごとだと捉えた人が増えたことはいいことだと思います。

――彼女のブログに対してはどうですか。

冷静で穏やか、そして思いやりに満ちた人柄がうかがえますね。そこに至るまでにつらい時期を過ごしてきたゆえの内容ではないでしょうか。やっとあの場所にたどり着いて、がんばろうとしているんだと感じました。

ただ、あのブログを見て励まされる人もいれば、あんなに強くなれないと落ち込む人もいます。世の中には、彼女のように家族の愛を受けている人ばかりではありません。なので、ブログや報道を見て自分を卑下したり、ネガティブになったりするなら、「見ない」という勇気も大切だと思います。

――比べてしまう人もいるんですね。

麻央さんは前向きで、とても聡明な印象を受けます。でも、みんながそうなれるわけじゃないんです。自分は彼女のようになれないと思うなら、急いで前向きになる必要はありません。今前を向けなければそれでいいし、誰かに合わせることも優秀な患者になる必要もありません。強くなれなければ、弱音を吐いていいんです。

自分のペースで治療に励むこと。人と比べないことが大事だと思います。あわせて、自分を責めないようにしてほしいですね。あれが悪かったのでは、これが悪かったのでは……と考えても、がんの原因はひとつに絞れません。がんは罪ではないし、過去を悔やむより今やるべき治療に目を向けてください。

特に小さい子どもがいると、子育てがままならないからと自分を「ダメなお母さん」といって責めてしまう人もいます。子どものためを思うなら、早く元気になることが大事。がんばって治療している時点ですばらしいんだと思ってもらいたいです。

■玉石混交の情報に振り回されないためには、受け手が賢くなるしかない

――ニュースで乳がん報道を見ると、まずどんな病気なのか検索してしまいますよね。すると、すごい量の情報が出てきます。こういった情報との付き合い方のコツなどはありますか。

いろいろな情報が出てきますが、その中には科学的根拠がないものもあります。人はがん宣告を受けると情報を探し求めますが、記憶に残るのはネガティブな情報であり、心配だけが蓄積されてしまうものです。

ネットやテレビなど発信する側は、この情報を掲載することで、乳がんで治療中の人にどのような影響を与えているかまでは考えていません。不安に煽られることなく、その人にとって最善の治療を選択し、希望を持って生きてほしいので、情報に振り回されてほしくありません。振り回されないためには、受け手が賢くなる必要があります。

――賢くなる……そのためにはどうしたらいいのでしょうか。

そのためにも正しい知識が必要です。情報収集には、日本乳癌学会編集の『患者さんのための乳がん診療ガイドライン』などがおすすめです。医療関係者向けの情報を患者向けにわかりやすくまとめており、乳がんの原因と予防、治療法、乳房再建などについて掲載されています。私も資格を取るときに活用しました。こういった書籍や、科学的根拠に基づいたサイトを活用するといいと思います。

また、疑問点はそのままにせず主治医に聞くようにするといいでしょう。治療を進めていく上でも主治医とのコミュニケーションは欠かせません。主治医から提案されるまま、納得をせず治療を受けてしまう方もいますが、自分の生活スタイルや人生の優先順位を伝え、QOLを保ちつつ行える治療法を選択することが大事だと思います。医師と患者は上下関係と思いがちですが、本来は対等な関係であるべきだと思います。

――正しい知識があれば、主治医との会話も進みそうですね。

治療しながら勉強することで、不安に支配されず冷静な判断が可能になります。患者になると忙しいんですよ(笑)。なにより自分で納得して受けた治療は満足できることが多いんです。

ただ、乳房に違和感を持ってから病院に行くまでの間は、情報は拾わなくてもいいと私は考えています。がんではないかもしれないのに、悪い想像が膨らむからです。病名が確定したら、納得のいく治療を受けるために科学的根拠に基づいた情報をもとに病気を正しく知ることが大切です。

――モヤモヤしているときは、逆効果になることもあるのですね。

そうですね。あとは、テレビなどのセンセーショナルな情報に踊らされないようにすることが大事です。とはいえ、病気になってから「踊らされないように!」と心がけるのは難しいですよね。健康なうちに心構えとして「センセーショナルな情報に踊らされないようにする」ということを、知っておいたほうがいいでしょう。

■乳がん体験者コーディネーターの資格を広めたい

――乳がん患者の方と接するときに、気をつけることはありますか。

身近な人に乳がんを打ち明けられたら、患者としてではなくこれまで通りに接するのがいいと思います。上手なアドバイスができなくても、自分の話に耳を傾け悲しみを受け入れてくれる理解者がいるとわかるだけで、不安や孤独感はやわらぐはず。また乳がんの患者さんは、見た目で病状がわからない場合があります。抗がん剤治療で体調が悪くても顔色に出ない場合もあり、「元気そう」という言葉に傷つく患者さんもいるので、私は「今日の体調はどうですか?」と聞くようにしていますね。

――乳がんになったとき、普段の生活でこうしたほうがいいということはありますか。

仕事場では、状況や立場にもよりますが、可能なら、限られた人にカミングアウトしておくと働きやすいと思います。そして、「病状」と「できること・できないこと」を伝えたほうが、コミュニケーションがうまくいくと思います。

――今後、乳がんの活動についてこうしていきたいといった目標はありますか。

コーディネーターの勉強では、カウンセラーの資質を養う内容は含まれていません。なので、傾聴トレーニングや心理カウンセラーの勉強も積んできました。患者さんの言葉に真摯に耳を傾け、よき伴走者になりたいと思っています。

そしてもっと「乳がん体験者コーディネーター」という資格を広めていきたいと思っています。コーディネーターが活動できる場を増やして、患者さんに一番近い相談者として活用してもらうためにも、医療関係者にもその存在を知ってもらいたいですね。

乳がん検診の受診率は、今なお低い状態。健康は維持することがゴールではなく、人生を楽しむための手段だ。病に閉ざされず毎日を楽しむために、早期発見につながる検診を習慣にしよう。

北林あいさん
CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター/フリーライター。医療・ヘルスケアの取材・執筆をしながら、乳がん体験者コーディネーターとして医療法人湘和会 湘南記念病院乳がんセンターなどで患者さんの相談活動に従事。また、女性疾病の予防活動を行う「ココカラプロジェクト」実行委員会メンバーとしても活動している。乳がんのこと.comを運営。

Text/Photo=ミノシマタカコ

DRESS編集部

いろいろな顔を持つ女性たちへ。人の多面性を大切にするウェブメディア「DRESS」公式アカウントです。インタビューや対談を配信。

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