我がおっぱいに未練なし
著者:川崎貴子
発行:大和書房
単行本:216ページ
発売日:2017/9/23
価格:1300円+税
[公式サイト]
http://www.daiwashobo.co.jp/book/b308078.html
川崎貴子さん×夫 マサヒロさん対談・前編「もし妻が乳がんになったら。夫が備えておくべきこと」
川崎貴子さん(プロフィールは文章末尾に掲載)と夫・マサヒロさんの対談。今年1月、貴子さんは乳がんの宣告を受け、手術・治療中であることを告白した。妻が乳がんをわずらうと、思い詰めてしまう夫もいる。川崎夫妻はどのようにして乗り越えてきたのだろうか。
年明けに、乳がんの治療中であることを告白した川崎貴子さん。しかし、川崎さんは悲痛なそぶりを見せることはなく、闘病記を「乳がんプロジェクト」と命名して「女社長の乳がん日記」の連載をウートピにて開始。
今回は、その連載に大幅加筆した『我がおっぱいに未練なし』(大和書房)の刊行を記念し、夫のマサヒロさんとの対談を実施。危機に瀕したとき、どうやって夫婦・家族として助け合えばいいのかを伺いました。
――「女社長の乳がん日記」を初めて読んだとき、とても驚きました。連載やイベントが立て込んでいるご様子だったので、病気なのにこんなに忙しく働いていたの!? という点もびっくりして……。
川崎貴子(以下、貴子):そうですよね、記事を公開したときはタイムラグがあったので、多くの方から「なんで言ってくれなかったの!?」とお叱りを受けたというか(笑)。
――マサヒロさんは、貴子さんのがん宣告を受けた際はどのような心境でしたか?
マサヒロさん(以下、マサヒロ):最初は交通事故に遭ったような感じですかね……。なんで? という。そして、やっぱり悲しい・怖いといった衝撃が走ったのですが、貴ちゃんは「右胸を全摘出する」ともう決めていたので、それを聞いて前を向いていこうと落ち着きました。でも、一緒に今後のことを決めていなければ、ネガティブに考えてしまう時間がもう少し長かったかもしれません。
貴子:「交通事故に遭ったみたい」という気持ち、私もすごくよくわかります。身内にもがんになった人がいるのと、健康に気をつけていたわけではないのとで、告知をされたときは「そう言えば……」と思い当たることはたくさんありました。でも、どこかで「自分はがんにかからないかも」という思いはありましたね。
■女性のおっぱいを男性の体で喩えて説明するのは難しい
――がん宣告を受けた夫婦の中には、なかなか受け入れられない人もいるようです。
マサヒロ:逆に、どういった形で受け入れられないのかを聞いてみたいです。不安なのか、死んでしまうかもしれないのが怖いのか、奥さんの乳房がなくなってしまうのが嫌なのか……。
貴子:「嫌」って言われてもねぇ。
マサヒロ:やはり不安なのはずっと消えないんですけど、時間が経つとちょっとフランクなものになってくるというか。僕も今では乳がんが身近になりましたが、それでも男性が気をつけた方が良いと思うのは、センシティブな問題には変わりないので、フランクになりすぎると、ふとした拍子に奥さんをポロッと傷つける言葉を言ってしまう可能性があるかもしれないこと……。
貴子:男性からも「妻や婚約者が乳がんになってしまい、どんな言葉をかければいいのかわからない」という質問をSNSやブログで受けることが増えていて。これには私もすごく悩んでいて。「例えばあなたの体の……」と答えようとしたところで、おっぱいを切除するということにあたることが、男性の体にないんですよね。おっぱいは女性のシンボリックな場所であって、他の部位とは少し違うというか。男性の睾丸を手術でひとつ取ったら同じなのかと言ったら、それもちょっと違うと思うんですよね。
マサヒロ:そうなんですよね。睾丸は隠れている場所だから。テレビでは睾丸を片方取った芸人さんに「玉1個ないじゃん!」と笑いを取っている人もいますが、それとは明らかに違う気がします。妻はあっけらかんとしていましたが、大多数の女性にとっては繊細なところだと思うので。夫婦それぞれだと思うのですが、そこはうーん……って思っちゃいますね。周りは励ましているつもりでも、時と場合によっては「えっ!?」となってしまうから。
貴子:あと、女性は気にしている事があれば自分から話した方がいいと思いますね。相談に来る男性は「腫れ物に触るように一切乳癌に触れない」か、「無神経な言葉を言ってしまって喧嘩になった」のどちらかなので……。
マサヒロ:うん、言った方がいいです。
■妻が入院中、オーバーワークになる男性のケアも欠かせない
――貴子さんが手術で入院していた2週間、貴子さんが不在の状況で家事やお子さんのお世話など、負担が大きかったと思います。マサヒロさんは振り返ってみていかがですか?
マサヒロ:僕は主夫をやっていた時期もあるので、結構家事ができるんです(笑)。もしものときのために、男性も普段から家事をやっておいた方がいいと思います。入院経験のある女性に聞くと「あのとき、これくらいは家のことをやっておいてほしかった」という夫に対するクレーム話が多いです。そして、退院後に「えー、あれをやってなかったの?」とストレスがたまっていくという。今、洗濯機や掃除機なんてスイッチを押すだけで簡単ですし、家を回すための最低限のことは修行しておいた方がいいと改めて思いました。料理だけは少し幅が広いので難しいかもしれませんが……。
貴子:ただ、妻が病気になった場合、確実に夫の方がオーバーワークにはなります。それも、家事ができちゃう旦那さんほどオーバーワークになります。また、多くの男性は「実はうちの妻が病気でつらい」ということを世間の人に言わないですよね。女性同士だと「うち、今こんなんで大変でさ〜」と相談して「あそこの家事代行サービスは良いらしいよ」など、感情や情報を共有しますが、男性は「全部自分でやらなきゃ」と抱え込んじゃう人が多い。だから、旦那さん側のケアも必要だなと今回学びました。治療中の妻には「今、これが大変で……」と愚痴れないから、どんどん物理的&精神的な負担が増えていく。そうすると、夫婦共倒れになる、ということにもなりかねません。
――男性が悩みを相談しないというのは恥ずかしいからですか?
貴子:それもありますし、弱みを見せている自分が嫌になるんじゃないでしょうか。そもそも習慣がないというか。
――マサヒロさんは何か発散方法はありましたか?
マサヒロ:家で真夜中にゲームをしていました(笑) あとは疲れて寝ていましたね。がんばりすぎるとオーバーワークになって壊れてしまうので……。
貴子:だから、本当に2週間で良かったと思います。2週間以上だったら夫が壊れていたと思います。
(後編へ続く)
Text/姫野ケイ
『我がおっぱいに未練なし』書籍情報
著者 川崎貴子さんプロフィール
1972年生まれ。埼玉県出身。リントス株式会社代表取締役。1997年に働く女性をサポートするための人材コンサルティング会社(株)ジョヤンテを設立。女性に特化した人材紹介業、教育事業、女性活用コンサルティング事業を展開。女性誌での執筆活動や講演多数。現在は株式会社ninoya取締役、及びベランダ株式会社取締役として、共働き推奨の婚活サイト「キャリ婚」を立ち上げ、婚活結社「魔女のサバト」も主宰。「女性マネージメントのプロ」、「黒魔女」の異名を取る。著書に『結婚したい女子のための ハンティング・レッスン』(総合法令出版)、『私たちが仕事を辞めてはいけない57の理由』(大和書房)、『愛は技術 何度失敗しても女は幸せになれる。』(KKベストセラーズ)、『上司の頭はまる見え。』(サンマーク出版)などがある。
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