「歳のせいで記憶力が落ちた」と嘆くのはムダ。くり返しで忘れなくなる
まず「人間は忘れやすい」という性質を受け入れて。そうすると、逆説的なようですが、大事なことを忘れにくくなります。『「名前が出ない」がピタッとなくなる覚え方』著者の宇都出雅巳さんによる短期連載、最終回をお届けします。
「あれ? 忘れてた……」
仕事をはじめ日常でよく起こる「もの忘れ」や「ど忘れ」。
記憶力の悪さや歳のせいにしがちですが、実はそうではありません。
「あれ? 忘れてた……」がなぜ起こるのか? どうやればそれが防げるのかを、『「名前が出ない」がピタッとなくなる覚え方』や『仕事のミスが絶対なくなる頭の使い方』など、記憶に関する著作が多くある、記憶の専門家・宇都出雅巳さんに解説していただきます。
これまでの記事はこちら。
ビジネスシーンで名前を忘れない方法
パスワードを忘れない簡単な方法
有名人の名前を忘れてしまう原因と対策
用事をうっかり忘れない簡単な方法
忘れると怒られる!記念日や誕生日を覚えておく簡単な方法
もう絶対に傘を忘れない。
これまでさまざまな場面での「あれ? 忘れてた……」の原因とその対策を解説してきました。7回目となる今回はいよいよ最終回。記憶とうまく付き合っていくためのポイントを3つに整理してまとめました。
■人は「覚える」よりも「忘れる」生き物
あなたが記憶とうまく付き合い、大事なことを忘れないための第一のポイントは、逆説的ですが、「われわれは忘れやすい」という性質を受け入れること。脳の基本動作としては「覚える」ことよりも「忘れる」ことなのです。
「忘れる」おかげで、私たちは放っておくと散らかっていく部屋の片づけのように、わざわざ時間を取って捨てる必要がありません。頭が勝手に忘れて(捨てて)くれるおかげで、自然と片づいていくのです。
こうして「忘れる」ことを受け入れられるようになると、「自分はなんて記憶力が悪いんだろう……」「歳のせいで記憶力が落ちてきた……」といったムダな落ち込みがなくなります。結果的に「覚える」時間が増えて、記憶することが楽になり、その量も増えていきます。
また、そもそも「忘れる」ことを前提にメモをしたり、すぐに用事を済ませたり、復習したりといった、「忘れない」ための工夫をするようになります。
すると、周りからは「○○さんって記憶力いいね」と言われるようになってきます。
■「脳のメモ帳」はすぐあふれて消えてしまう
「あれ? さっきまで覚えていたはずなのに……」と、記憶の勘違いを起こさせる張本人は、これまでの記事で何度も登場してきた「脳のメモ帳」とも言われるワーキングメモリ。
われわれがこうやって文章を読んだり、考えたりするのに欠かせないもので、新しい情報をすぐに「覚える」ことを可能にしてくれる便利な記憶です。ただ、それは「注意」という腕でつかんで強引に覚えているだけで、腕から放されると今度はすぐに「忘れる」という記憶です。いわば、「覚えているようで覚えていない記憶」なのです。
このため、たとえ「覚えた」という実感があっても、「これはワーキングメモリに入っているだけで実際には覚えていないかも」と自覚して、メモに書いたり、何かの記憶と結びつけたりしておくことが必要です。
こうやって、ワーキングメモリの存在と働きを自覚することで、あなたのど忘れやうっかり忘れは激減し、さらにはあなたの情報処理能力もアップします。
■記憶とは結びつき。それを強めるのはくり返し
ここまで「記憶・覚える」というより「忘却・忘れる」ことに焦点を当ててきましたが、最後のポイントは「記憶・覚える」そのもの。しかも、その本質・ど真ん中のポイントです。
「記憶、覚える」というと、何か頭という記憶の格納庫に入れていくイメージを持っている人がいるかもしれませんが、そうではありません。
その正体は「結びつき」。記憶と記憶が結びつくことで記憶されていくのです。あなたも、何かの記憶を思い出した途端、そこから芋づる式にどんどんと記憶が思い出された経験があるでしょう。
ですから、記憶するコツはとにかく「結びつける」ことです。いくら新たな情報・知識を押し込もうとしても報われません。それよりも、とにかく結びつけること。そうすれば脳は記憶してくれるのです。
結びつきの数が多いほうが思い出しやすいですし、忘れにくくなります。ただ、結びつきも放っておけば細くなり、切れてしまいますから、結びつきを強めることが必要です。
これを強めてくれるのがくり返しです。くり返し経験したり、読んだり、思い出したりすればするほど、結びつきは強化されていきます。
あなたが何かを記憶したければ、それをあなたの記憶とどんなつながりでもいいので結びつけ、それを何度もくり返すだけです。忘れやすい脳ですが、結びつけてくり返せば、しっかりと記憶してくれるのです。
記憶とうまく付き合っていくための3つのポイント、いかがでしょう?
1)人は「覚える」よりも「忘れる」
2)「脳のメモ帳」・ワーキングメモリはあふれやすい・消えやすい
3)記憶とは結びつき。強めるのはくり返し
ぜひ、この3つのポイントを日々の仕事、生活に生かしてください。そして、この3つのポイントを確実に記憶するためには、まずはこれを今すぐ誰かに話すことです。そうすれば、3つのポイントがさまざまなあなたの記憶と結びつき、忘れなくなるでしょう。
記憶とはいわば私たちそのもの。記憶とうまく付き合うことは、自分自身とうまく付き合うことにもつながります。これからの人生で、あなたがさまざまな人・モノ・出来事とあなたが結びつき、すばらしい人生を紡がれることを願っています。
7回にわたってお読みいただきありがとうございました!
■もっと記憶について学ぶなら
さらに記憶について学びを深めていきたい方のために、記憶に関して私が書いた本を何冊かご紹介します。
『「名前が出ない」がピタッとなくなる覚え方』(マガジンハウス)
日常のよくある「あれ? 忘れた!」を21のケースにまとめ、具体的にその原因と対策を解説しながら、記憶の正体、そして忘れない覚え方・6つのポイントを紹介しています。
『仕事のミスが絶対なくなる頭の使い方』(クロスメディア・パブリッシング)
仕事でよくある4大ミス・「メモリーミス」「アテンションミス」「コミュニケーションミス」「ジャッジメントミス」の大きな原因となっている「ワーキングメモリ」と「潜在記憶」という2つの記憶のメカニズムを解説し、ミスをなくし、仕事の効率・質を上げる方法を解説しています。
『暗記が苦手な人の3ステップ記憶勉強術』(実務教育出版)
受験や資格試験では大量で細かい知識を正確に記憶することが求められます。「思い出す」⇒「問いに変える」⇒「ざっくり読む」という3つのカギとなる行動を軸に、目次イメージ記憶法やテキストまるごと記憶法など、いわゆる「記憶術」も活用した勉強法を解説しています。
『記憶術サクッとノート』(永岡書店 監修)
日常から読書、試験勉強まで記憶するためのさまざまなコツやそのトレーニングを集め、私が監修してわかりやすくまとめた本。記憶術に加え、速読術も解説しています。
宇都出雅巳さん
トレスペクト教育研究所代表
東京大学経済学部卒。出版社、コンサルティング会社勤務後、ニューヨーク大学留学(MBA)。外資系銀行を経て、2002年に独立。30年にわたり、記憶術と速読を実践研究し、脳科学や心理学、認知科学の知見も積極的に取り入れた独自の学習法を確立。個人向けの講座・指導を行うほか、企業研修や予備校講師の指導も行う。専門家サイト・オールアバウト「記憶術ガイド」。
主な著書に『「1分スピード記憶」勉強法』(三笠書房)、『合格(ウカ)る技術』『合格(ウカ)る思考』(すばる者)、『速読勉強術』『絶妙な聞き方』(PHP文庫)などがある。
いろいろな顔を持つ女性たちへ。人の多面性を大切にするウェブメディア「DRESS」公式アカウントです。インタビューや対談を配信。