【前を向いて生きるということ #7】厳しい環境こそチャンス
30代半ばの働き盛りのときに、胆管がん(ステージ4)の宣告を受けた西口洋平さん。仕事と家庭を大事にしながら、自身と同じ「子どもを持つがん患者」をサポートするWebサービス「キャンサーペアレンツ」を立ち上げました。「今、できること」と向き合い、行動する西口さんの不定期連載をお届けします。今回は第7回です。
#1(https://p-dress.jp/articles/1758)
#2(https://p-dress.jp/articles/1800)
#3(https://p-dress.jp/articles/1865)
#4(https://p-dress.jp/articles/1911)
#5(https://p-dress.jp/articles/2064)
#6(https://p-dress.jp/articles/2132)
「キャンサーペアレンツ」というサービスを続けていくには、事業として回していくことが必要になる。つまり、サービスを運営していくのに必要なお金をどのようにするのか?ということ。パッと思いつきそうなものとして、「寄付金」がある。たしかに、寄付金を集めることは大事だし、集まらないことはないと思う。でも、果たしてそれに任せてしまっていいのか? 寄付金がなければ運営できないとなれば、なんだかさみしい。やはり、寄付金だけでなく、自らでお金を生み出していくことが必要なんだと、考えれば考えるほど、痛切に感じるようになる。
■ビジネスが生まれてこなかった=チャンス!
ここでまた大きな問題に直面する。
子どもをもつがん患者のためのサービス。こういったテーマと“ビジネス”という考え方が、どうしてもかみ合わない。イメージとして、「病気の人を捕まえて、君たちは金儲けしようとしているのか?」というお叱りを受けそうなフィールドであるからだ。そんな方々の言い分として、がんになり、入院や手術、通院などの治療をすると、収入が減り、お金の面の心配はつきものだが、そんな人たちからお金を取るのか? ということ。必死でがんと向き合っている人を横目に、お金儲けのことを考えるなんて、おかしいのではないか? という意見もある。つまり、ビジネスモデルや、そのサービスの考え方がどうであれ、こういった雰囲気や空気が存在するのである。
それこそが、がんという領域でなかなかビジネスが生まれてこなかった背景のひとつかもしれない。だからこそ、チャンスなんだと。厳しい環境で、誰もやらないから、チャンスなんだと。大都市で新しく知事になった方が、青い服を着ていたのを「ブルーオーシャン」と言っていたが、まさにあれだ。もちろん、うまくいかない可能性は高い。批判を受けることがあるかもしれない。でも、がん患者の方々に、このサービスがあって良かったと思ってもらえるのであれば、それで良いのではないか。もし、このサービスが、今後も運営され続けていくのであれば、それだけでカッコいいのではないか。それだけで、子どもに胸を張れるのではないか。文句なんて好きなだけ言わせておけばいい。そんなふうに考えるようになった。
■がん患者の方から課金してもらう仕組みは避けたい
では、どんなふうに事業展開できるのか。
もちろんがんになって初めて、この領域でのビジネスに関して調べるようになったので、自身はずぶの素人。そして、先にふれているように、事業を作ったこともないし、サービスを開発したこともない。まずは、いろいろな人に話を聞くところから始めた。経営者、投資家、起業支援コンサルなど。彼らから提案されるのは、上述した寄付金と、クラウドファンディングなら、手っ取り早く集まるよということだ。そのテーマであれば、お金が集まるんじゃないかと。たしかにそうかもしれない。そして、事業についてはどうか。一つは、ユーザー課金。がん患者の方からお金をもらえないか? これは、ぼくのポリシーとして、もらいたくない。ただでさえ、お金に困っているのに、藁にもすがる気持ちでこの場所に来てくれている人からお金はもらえない。そして、こういったコミュニティサービスのビジネスの王道は、広告ビジネス。ただしその場合には、会員数が多くなければ成立しない。成立しないというか、儲からない。そういった意味では、もともと「子どもを持つがん患者」という方を対象としているので、母数は少ない。だからこそ、そういった方同士がつながれるから価値があるのであれば、そこに整合性がとれない。このビジネスも難しいのではないか。だいたいここまで考えたところで、次の考えが出てこなくなる。
■セカンドオピニオンへ臨んだものの……
そんな感じで、事業のアイデアを考えていたころ、週に1回通院している病院で、異変が起きる。投与していた抗がん剤の一つに、アレルギー反応が出てしまったのだ。投与中に全身が真っ赤になり、かゆみが出て、急きょ中止に。抗がん剤の投与を始めて約1年。体が許容できる量を超えてしまったのだろう。それから、2種類の抗がん剤から、1種類へ変更。これを契機に、体も元気だし、これまでと違う治療法を模索するため、セカンドオピニオンを検討してみようと考える。望みは手術をして、がん細胞を取り除くこと。主治医には快諾をいただき、いざセカンドオピニオンに臨んだものの、結果は厳しかった。
(つづく)
Text=西口洋平
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