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子どもを持つ人生、持たない人生 #2 子どもがもたらした大革命

子どもを持たなくても、夫婦は幸せな関係を築いていける――これは真実。一方で、子どもを持って初めて得られる幸せや特別な感覚もある。それは子どもと歩む人生を受け入れ、適応するなかで見えてくることなのだ。

子どもを持つ人生、持たない人生 #2 子どもがもたらした大革命

もう10年近く前でしょうか。九州大学で日本人の幸福度を調査した結果が発表されていました。年収と幸福の関係、家族と幸福の関係などいろいろな項目があって興味深かったのですが、おおむね調査を読まずとも、おそらくそうであろうと予想できる範囲ではありました。

それによると、結婚は幸福の大きな要素で、結婚している人はしていない人より「統計的有意に」幸福である、と言えるそうです。しかし結婚している人は、子どもがいるかいないかで、幸福かどうかに大きな違いは見つからない、という結果でした。
子どもがいなくたって、夫婦は幸せでいられます。これは忘れてはならない原則です。
このことを前提にお話します。

■受動的な選択をして手に入る幸福、それが子どもを持つということ

人は、自分の人生を主体的に選んで生きているように思っていますが、多くはそうではないと思うのです。すでにある環境に応じて、または自分よりはるかな大きな存在に屈して、受動的に適応していくしかない場合も多いわけです。

私の直感で申し上げるならば、結婚はたしかに主体的な選択でありますが、子どもを持つかどうかは、むしろ受動的な「適応」のような気がします。大雑把に言えば、神サマが決めたことを受け入れた。受け入れた結果、いろいろ大変ではあったけれども、人生が充実した。振り返れば幸せだったと思える……そんな感じです。

一方で、自分が主体的に選んで、自分の人生を勝ち取ることはもちろん素晴らしい。他方、自分に与えられた条件と機会を、しのごの言わずに受け入れて、その人生を一生懸命生きることで得られる幸福もあり、それもまた素晴らしいことだと教えてくれる。そういう存在が、まさに子どもだったと思えるのです。

■三層を感じながら生きる感覚を味わえた

子どもができて学ぶことは多いですが、ひとつの発見は、人生が多層に感じられることです。
自分の子どもの頃を思い出して、いまの子どものことが「ああ、あれか」と理解できます。そして、自分が子どもの頃、自分の親がどんなだったかありありと想像でき、両親が若かった頃が蘇ってきます。あの頃はあんな時代だった。そんな中で、自分の親は、こんなふうに感じて自分を育てていたのかと。

自分の親の人生と、自分の人生と、子どもの人生。三世代を同時に感じ、三層で生きている感じです。そして「自分の人生が自分だけのものでない」という感覚。若いときからは考えられません。自分の人生は、自分が主体的に選ぶと信じていましたから。

たとえば、一緒に囲んだ食卓に、美味しいものが並んでいる。でも人数分よりちょっと少ないとします。それは自分が大好きな美味しいもの。しかも滅多に食べられないものだとする。いままでの人生だったら、自分を優先したでしょう。ところが子どもができると、見栄を張るわけでもカッコつけるわけでもなく、自然に子どもに譲るようになります。さして辛いとも我慢とも感じず、むしろニンマリと受け入れられるのです。

自分の人生なのに、自分が最優先でないことは、独身時代や、子どものなかった新婚時代からすると驚くべき変化です。どんなに妻を愛していても、夫婦愛ではこの感覚は得られない。大革命です。夫婦愛というのは自分がやはり第一にあって、自分が自分らしく生きるためにあなたが必要だ、的なものじゃないでしょうか。それが、他人に対する愛情が自己愛より強いものとして、自分のどこからか、自然と溢れてくる。こんなことは、自分の人生の「主体的な選択の結果」とは思えないのです。

Text=松岡宏行
スイスイ社ディレクタ。新卒で外為銀行に就職、朝が苦手で毎朝退職を考える。25歳で辞め、居場所を見いだせず5年間引きこもり。93年社会復帰のため仕方なく実家の2階で会社を設立。広告とキャラクターの制作会社に。得意分野はイラストとブランディング、著作権ライセンス。雑誌連載のべ900頁、著書は『できる男は不倫する』『タイツくん真実のコースター すぐれた仕事は紙ナプキンから始まる。』など9冊。北海道出身。https://twitter.com/higetch

DRESS編集部

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