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恋愛は数字じゃない!

今までの恋人の数を聞かれたら、どう答えますか?

恋愛は数字じゃない!

これまでの恋人の数を聞かれたら「二人」というのが、恋愛の模範解答。ン十年前のバブル時代、年上の男性にそう教わった。「あなたがはじめて」と答えると相手の気が重くなるか、逆に嘘っぽく聞こえるか。三人以上になると遊んでいる女というイメージを抱きがちなんだそう。もちろん、これは私が二十代の、はるか昔のこと。

「ねえ、今まで、何人ぐらいの男とつきあったり…、したの?」

この問いに、四十過ぎた女は何と答えるのが最善策なのだろうか。

単純に生きている年数が約倍だから、つきあった人の数も倍の四人にしておけばいいわけではないはず。もっといえば、そもそも「つきあっている」という状態が、あいまいになりがちな気がする。いい大人になると。

読者の皆さんは、きっちり恋人の言質をとるタイプだろうか。私は昔っからその辺が全然ダメ。『ねるとん紅鯨団』(なつかし〜っ)みたいに、右手を差し出され「つきあってください」「よろしくお願いいたします」みたいなやりとりをした記憶が、ほとんどない。

食事にいってぎこちない会話をして、その後バーとかドライブとかに行ったり、のデートを何度か繰り返しているうちに、クルマの中やら裏道の暗がりやらでのキスがあって、少したってからその先があって、で、何回かそれが重なって、なんとな〜く、気がつくと、会話に恋人同士だけが交わすようなやりとりがちりばめられていて、そうしてようやく、「私たちって、もしかして、つきあっているのかも」と納得する。

ダメでしょう?  都合のいい女になる要素が満載。だから、若い頃は、時々不安になった。気の置けない男友達に相談したこともある。

「これって、つきあってるのかなあ?」

すると、その友達は風情も何にもなく、こういった。

「三回以上してるんなら、つきあってると思っていいんじゃないのぉ」

なぜ、「三」なのだろうかと不思議に思いながらも、週に一度は会っているし、三日に一度は電話で話しているし、と、必死に安心できる数字を捜してしまうのだった。

四十過ぎた今、そんなセコい真似はいたしません。恋愛は数字じゃない。だから、ときめくし、せつなくなる。特に、大人になってからのそれは。 

私の数少ない経験によれば(ほんとに悲しくなるぐらい少ないんですよ…)、男の人はなるべくグレイにしておきたいもののようだ。幻でいいから逃げ道を確保しておきたい、というか。その気持ちはわかる。そのほうが気が楽な時が、こちらにもたま〜にある(ほんと、たま〜に、だよ)。せっかくお互い白と思っていても、「ねえ、これって白だよね。白!  白!  ま〜っしろっ!」と迫られたら、ひっくり返したくもなるだろう。

強引に恋人認定しなくてもね。都合の良さと居心地の良さってリンクするものだし。お互いが心地良ければ、関係性にいちいち名称をつけなくてもいいじゃん。と思って生きてきたので、過去の白の個数をたずねられても、明るく即答できないのだ。あれって、果たして白だったのかなあ〜(遠い目)。

「遊ばれてるんじゃないの?」

さすがに今時はあまりないが、こういう忠告をしてくれる人もいた。私は、この類の被害者意識が苦手。自分の選択を、他人に「なんかされた」ように言うのはみっともない。ましてや、四十過ぎてもまだ独身という、社会的には肩身の狭い今、自分のような珍種を相手にしてくれるだけでありがたやありがたや、である。

いろいろ考えてみると、どうやら、自分にとっての恋愛は=嗜好品らしい。例えば良いヴィンテージの赤ワインのような、例えば燃費の悪いスポーツカーのような、例えばキューバ産の葉巻のような。わ、たとえが全部バブルっぽい!  自分でもびっくり。

たとえのアンティーク感は置いといて、つまりは、恋愛は主食じゃなくて、日々を彩ってくれる贅沢品であるということ。そんなふうだから結婚にたどりつけないのではないかという批判に
は、もう深くうなだれるしかない。

とはいえ、雑誌にしょっちゅう書いてあるけれど、「女はいつでも恋をしていなくちゃ」なんてみじんも思わない。私は、していないほうが楽チンで心が安まる。それでも、ふとした瞬間に突き落とされてしまうのが、恋だ! 違うか?

Text / Ririko Amakasu

甘糟りり子
あまかす りりこ 作家。1964年横浜生まれ。玉川大学文学部卒。
都市に生きる男女と彼らを取り巻くファッションやレストラン、クルマなどの先端文化をリアルに写した小説やコラムで活躍中。『中年前夜』『オーダーメイド』など著書多数。読書会「ヨモウカフェ」主宰。

DRESS July 2013 P.41掲載

甘糟 りり子

作家。都市に生きる男女と彼らを取り巻くファッションやレストラン、クルマなどの先端文化をリアルに写した小説やコラムで活躍中。『産む、産まない、産めない』など著書多数。読書会「ヨモウカフェ」主宰。公式ブログ http://ame...

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