ひとりを満喫する楽しみ、ひとりで飛び込む楽しみ
DRESS世代のひとり上手な女性に、「ひとり時間を楽しむ」をテーマに寄稿いただくシリーズ。第1回目はライターの西森路代さん。 「ひとりを楽しむ」という企画をよく見かけます。
「ひとりを楽しむ」という企画をよく見かけます。ひとり暮らしの人は、さぞかしひとりの気ままさを謳歌しているんだろうというイメージがあるからそれを書いてほしいということと、ひとりでいるからこそ、それをいかに楽しむかを見つけられたらというヒントになればというふたつの理由から来ているんじゃないかと思います。
しかし、我が身を振り返ると、実際にひとり暮らしをしつつ、フリーランスで仕事をするようになってからは、むしろプライベートでは誰かと楽しみたいというのが正直なところです。仕事以外で映画や舞台を見に行くときは誰かと行きたいし、誰かが誘ってくれたものは、自分が好きなもの以外の面白さが発見できるかもしれないから積極的に行きたい。会社員だったときにはあまり参加しなかった飲み会や食事会にも積極的に顔を出すようになりました。
そんな中で何かをひとりで楽しむというのは、非常にハードルが高くなっているのですが、ひとりで飲み屋に入ってみたいというのは、昨今の私のささやかな夢です。というのも、最近、『俳優 亀岡拓次』という映画を観て、安田顕さん演じる脇役俳優が、撮影で行った先々で、ひとりでふらりと酒場に入って飲んでいるシーンが印象的に残ったのです。原作となった小説を読んでも、亀岡という人は芝居ももちろん好きだけど、旅先で飲み、そこで面白い人や偶然と出会うことが楽しみのために俳優という仕事をしてるんじゃないか……とも思える物語でした。
最近は、テレビでも飲んでいる俳優やタレントさんを追う企画も見受けられます。ざっと調べただけでも、『千原ジュニアのヘベレケ』(東海テレビ)、新井浩文さんの『美しき酒呑みたち』(BSフジ)、『笑ってコラえて!』(日本テレビ)の朝までハシゴの旅などがありました。最近も、『磯山さやかの“至福の一杯 女子旅”』(女性チャンネル♪LaLa TV)、『林家正蔵の今日も四時から飲み』(旅チャンネル)、『映画酒』(チャンネルNECO)などもスタートしたそうで、これからも地上波、CSを含めて増えていきそうな気がします。
こうした番組ができることの背景には、ふらっと飲み屋に入るということは、誰にでもやろうと思えばできる身近なことだし、そういうことがちょっとした冒険のように感じられて人々の関心が得られるからではないかと思います(製作費が安いとか、人気企画にあやかった……などの条件は、また別の機会に考えるとして)。
そんな風に、私もいつかふらっと飲み屋に入って面白い出来事に出合いたい……という気持ちはあるのですが、そこまでの勇気がまだない。現時点では、お昼にひとりでふらっとランチをするというのが目下の趣味と言えます。
ひとりランチが楽しみになっているというのは、私が食べることが好きであり、かつ取材や打ち合わせで日中にさまざまな街に出掛けるから、その街でなんとなくおいしそうな空気を醸し出しているお店を見つけて、ふらりとランチで入ってみると、あたりはずれもあるけれど、そこも含めて面白いし、その街をちょっと知ったような気分になれるということもあります。
そういえば、私の書いていることは、『孤独のグルメ』にも似ているような。海外でも人気のこのドラマは、台湾では『美食不孤単』というタイトルで放送されています。訳すと「おいしいものがあれば孤独ではない」ということだそうで、現在の私は、ランチにそんな気持ちを感じているのでしょう。
ただ、『孤独のグルメ』の井之頭五郎さんは、孤高で自由な暮らしを楽しんでいますが、私はさっきも書いたように、いつか『俳優 亀岡拓次』の亀岡のように、ひとりで飲み屋に飛び込んでみたいとも思っています。それは、ひとりの開放感が味わいたいのではなくて、ひとりで人の輪の中に入ってみたいという憧れがあるのではないかと。井之頭五郎さんも亀岡もひとり身で自由業ですが、ふたりの間には、ひとりで誰にも気兼ねせず気ままに楽しみたいという思いと、ひとりで人の中に飛び込んでみたいという思いの違いがありそうです。いや、もしかしたら誰しも両方の願望を持っているのかもしれません。
にしても、この二作品のことを考えても、世の中の人々は、「ひとり」でどう楽しむかを知りたがっているし、「ひとり」で楽しんでいる姿を見ていると、何かほっとするところがあるのかなと思えてきますね。