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「誰とでもできる」妻、「セックスはコミュニケーション」な夫。そんなふたりの夫婦の形

ひとことで“夫婦”と言っても、形はそれぞれ。『隣のフーフ』は、インタビューを通じてさまざまな“夫婦・家族観”を考える連載です。今回は妻と夫、ふたりのセックスへの価値観の違いを解決するため、互いにオープンな恋人を作るのを認めるという試みに挑戦中のおふたりに話を伺いました。

「誰とでもできる」妻、「セックスはコミュニケーション」な夫。そんなふたりの夫婦の形

「頻度が少ないし、そういう行為があったとしたとしても、私は全然満足してなかった」と、以前から夫とのセックスに不満を抱いていた妻。一方で、「セックスの重要な部分って、言葉を介さないコミュニケーション。挿入しなくてもそれができるのであれば、セックスと同じ」という夫。

セックスに対するスタンスが、ぴったり重なっているとはいえないふたりが、“夫婦”という関係を維持するために選んだのは、互いに“オープンな恋人”を作るのを認めること――そんな試みに挑戦中の西村雄一さん(仮名、36歳、会社経営)、由真さん(仮名、27歳、会社員)のおふたりに話をお聞きしました。

ふたりの出会いは、遡ること9年前。同じイベントに参加したことがきっかけでした。以後、連絡を取り合うようになり、翌年の2012年に交際スタート。順調に関係が深まったと思いきや……。(聞き手:大泉りか)

■二股→別の人と結婚→離婚→復縁

――おふたりは2019年に結婚したということで、いわゆる“長い春”を経て結婚に至ったわけですが。その経緯を教えていただけますか。

雄一さん(以下、雄一):出会ってからは長いんですけど、実は僕、その間に一度、別の人と結婚してるんですよね。だから、その期間は別れてますし、またよりを戻した後も、振られたりとかしてます(笑)。

由真さん(以下、由真):彼が離婚してからまた付き合って、それから3回くらい別れてはよりを戻して……ってしてるので。

――ちょっと複雑ないきさつがありそうですが。

雄一:最初に彼女(由真さん)と付き合っていた期間に、僕のほうが二股をかけてしまいまして。で、もうひとりの方の女性と結婚するって話になっちゃったんです。彼女には、それを正直に告げて別れたんですが、その女性とは結局7カ月くらいで離婚することになって。離婚後、彼女と再会して、もう一回付き合い始めたんです。

ただ度々、僕の裏切りを思い出しては怒りが湧いてくるのか、彼女も別の男性と関係を持ったり、「ほかの人と付き合いたいから別れる」っていう話になったりとかで、結婚するまでに2、3回振られてるって感じですね。

由真:もちろん二股されたことに対して怒りもあったんですけど、それ以上に、そういう行いをしておきながら、全然大切にされないなっていうのがあって。約束が守られなかったり、ふたりで過ごす時間の優先順位がすごく低く感じたんです。「お前が付き合ってくれって頼んできたから、全部水に流して寄りを戻したのに」って、そっちの怒りのほうが強かった。だったら違う人と、一から関係性を作ってもいいなと思ったりもして。

――それでも、最終的に雄一さんに戻ったのは、やっぱり一番好きだったからなのでしょうか。

由真:どうでもよくなった感じです(笑)。何度か別れても、結局また連絡が来るし、「そこまでいうんだったら、一回腰を据えて付き合って、それでダメだったらもう会わないっていう気持ちでやってみるか」って、あるとき、ちゃんと向き合うことに決めました。

■ある日突然「浮気してるでしょ」と言われて

――そんな紆余曲折を経て、結婚を決意したきっかけってなんですか?

雄一:ふたりとも仕事が忙しくて「スケジューリングが大変だね」って話していた時期があったんです。会わない時間が多くなると、彼女はそれに比例して気持ちが下がるタイプで。彼女のことを考えたら、単純に接触時間を上げたほうがいいんじゃないかと思って「一緒に住んでみよう」と。両親の納得を得るために「結婚を前提に」ということで同棲を始めて、実際に結婚もしたという流れです。

――結婚して、お互いに求めるものって、何か変わりましたか?

由真:いろんなことに対するペースが合ってるのが大事だなって思います。例えば、生活の中での仕事の比重とか、あまりにバランスが違うとどちらかが暇を持て余すことになるし。

雄一:なるほど……僕は恋愛相手に求めるものは、容姿が好みとか、話が楽しいとか、短期的にポジティブな要素だと思っていて。結婚も、ただ単にそれが飽きがこずに持続できるかっていう話だと思っています。なので、生活のペースが似てることが条件だとは、あまり思わないですね。一緒にいることによって自然と似てくるし。

由真:あと私は、セックスの頻度も大事だなと思っています。でも実際に結婚してみたら、セックスに関しては全然違って。

――由真さんとしては、セックスに問題を感じたわけですね。

由真:実は結婚する前から、その問題はあって。もともと頻度が少ないし、あったとしたとしても、私は全然満足してなかったんです。それで結婚するかどうか考えたところもあったんですけど、まぁ、なんとかなるかなって結婚して。でも、結局問題は解決されなかった。

その不満はずっと、「私が他の人とセックスしていいならこんなことは言わないけど、もしそれが嫌なら改善の努力をしようよ」って伝えていました。

雄一:僕から「恋人を外に作ってもいいんじゃない」っていう話をしたこともありました。ただ、「もしも別の人とそういう関係になるなら、徹底的に隠して“なかったこと”にしようね。隠せるなら存在しないも一緒だし、それでふたりの関係性に支障をきたさないならいいよね」っていう条件付きで。

――お互い、別の人とセックスするのをOKしたということですね。

由真:ただ、そういう話をした後、私が別の人と週に一回くらい会っていたら、ある日すごく怒りながら「浮気してるでしょ」って言われたんです。「外でセックスしてもいい」って言ったのに何をそんなに怒ってるのかわからないし、自分も昔同じようなことしてたくせに、その怒りの源泉は何? って。

――どうしてそこが行き違ってしまったんでしょうか。

雄一:僕が怒ったのは、彼女が外で他の男性とセックスしていることがバレバレだったからです。「この人は、僕との関係性はどうでもいいのかな」って思ったんですよ。本当は僕と別れたいんだけど、別れたいっていうのすら面倒くさくて、何も取り繕おうともしてないのは不誠実じゃないのって思った。それは去年の12月くらいのことです。

由真:そこでお互いに誤解を伝えて話し合って、恋人の存在は隠さずに完全にオープンな形をとることにしました。

――いま由真さんは、完全にオープンな形で、恋人と関係を続けているということですよね。

雄一:そうですね。今トライアル中な感じです。

■「嫉妬の感情を、自分でおもしろがっているところがある」

――オープンということですが、どのくらいまでオープンにしているのでしょうか。例えば、デートするときは雄一さんに事前に伝えたりするんですか?

由真:食事するだけだったら言わないときもあるんですけど、「泊まりに行ってもいい?」とかは事前に言いますね。彼はすごく嫌そうな顔をしますけど(笑)。

雄一:そう言われたときは自分の中で嫉妬が芽生えるわけですけど、でも、その感じがすごく新鮮でもあるんですよ。自分的には許容しようとしてるんですよね。そう考えていても、嫉妬が生まれてしまうのを、「ああこういう感じね」と自分でおもしろがっているんです。

――完全に「勝手に好きにしろよ」っていう感じではないんですよね。ちょっとした、いわゆる「寝取られ」みたいな刺激は感じていると言いますか……。

雄一:そうですね。「今頃どうしてるんだろうな」「セックスしてるな」とか思ったりはしますよね。それで「ぐぬぬ……」ってなるんだけど、それだけの話で、眠れなくなったりはしないので。制御可能というか、それも含めてプレイとして楽しんでいる感じもします。

――由真さんのお相手の男性は、「夫公認の浮気」だってことは、ご存じなんですか?

由真:知ってます。

雄一:彼はなんて言ってたの?

由真:「変わってるね」って。

雄一:僕でもそう言うと思うわ(笑)。

――由真さんのお相手の男性のことは、雄一さんはどこまでご存じなんですか?

雄一:普通に聞きますよ。彼女がいいなと思う人ってどんな人なんだろうとか、その人との関係性ってどんななんだろうとか、興味があって。それを聞かせてもらうのはエンターテイメントだなって思うんです。どんなデートしたのとか、どんなお店行ったのとか。そういう話を聞けるのは豊かだなと。

――雄一さんにも、「オープンな恋人を認める」という夫婦のルールが当然適応されていると思うのですが、今恋人はいらっしゃるんですか?

雄一:今のところいないですね。

由真:彼が性的に元気なら安心するので、私はどんどんやってくれと思いますね。だって、セックスの問題で仲が悪くなるのを避けたいがために、アウトソーシングOKにしたので。彼も外に恋人がいることで元気になるなら、むしろ彼女を作って、家に呼んできてほしいって思います。

雄一:「家のソファでしたらいいじゃん、私はベッドで見てるから」とか言うんですよ(苦笑)。

――雄一さんは嫉妬するというお話でしたが、由真さんのほうはどうなのでしょうか。実際に今、雄一さんが付き合っている女性がいるわけではないので、あくまでも想像になると思いますが。

由真:前に二股をかけられて、挙句別の人と結婚されたときは、嫉妬の感情が強くあったんですけど、一回乗り越えてしまったというか。この人はそういうことをするし、でも最終的には私に戻ってくるだろうっていうのがあって。だから嫉妬はない気がしますね。

雄一:でも「本当に嫉妬しないの?」って不安はあるんですよね。疑っています。

――実際にその状況になってみないとわからないところはありますよね。けど、結婚が担保になる部分もあるのではないでしょうか。

雄一:ちょっとあるのかもしれないですね。

由真:私は、結婚しているっていう事実は、大きいと思っていて。両親も彼のことを気に入っているので、ふたりの関係性がいいとみんなが幸せだなって思うんです。現状、私と彼の関係の中でネックになるのはひとつ、セックスのことだけだと思っていて、それ以外のところは好きだし、結婚してよかったと思ってるんです。だから、セックスがいざこざの元になるなら、そこの問題は切り分けたいんです。

■妻「私にとって、セックスは“欲”でしかない」

――現状のおふたりの性生活は、どういった状況なんですか?

雄一:しばらくないですね。どっちかというと僕が嫌がられてると思う。

由真:少し前までは数カ月に一回くらいはしてたんですけど、そのやり方が気に入らなくて。「改善して」って言ったけど、改善されなかったので、だったらしたくないっていう。

――雄一さんは、そこを改善しようとはしてらっしゃるんですか?

雄一:僕は彼女の言っていることが、いまいち理解できてないんですよ。上手に翻訳ができなくて、だから、何をしたら解決になるのかが見えない。

――雄一さんとしては、今のセックスレスの状態を解消したい?

雄一:はい。それは思ってます。ただ僕は、数カ月スパンで良くない状況が続いても、わりと彼女への熱量は冷めないんですよ。なので焦ってはいないんですけど、一方で彼女の熱量はどんどん下がっていくので。

由真:でも私は、自分のセックスの問題についてはもう解決したので。そもそも彼とはギクシャクしたくないんですよね。例えば、セックスの「触り方をこうしてよ」とか、「もうちょっとこうして」とかって言うのって、けっこう嫌というか、気まずいものだから。そういう話し合いでギクシャクするんだったら、しなくていいやって思ってるところは正直あります。

今、彼とセックスはしていないけれど、普通に仲がいいし、そういうことのほうが大事だなって私は思っていて。あと、私は子どもが本当に欲しくないので、子どもを作るためにセックスをする必要もない。なので、こういうふうに思えるんだと思うんですけど。

雄一:僕と彼女は、コロナの影響で(※)普段のようなデートができなくなってからも、一緒に散歩したり、朝にピクニックしたり。けっこう仲はいいんですよ。セックスが前よりなくなったというのはありますけど。スキンシップはするので。ベタベタはします。

由真:してるというか、してくるんじゃん(笑)。

――そもそもおふたりにとって、セックスってどういうものですか?

雄一:僕の中で、セックスの重要な部分って、言葉を介さないコミュニケーションだっていうことなんですよね。だから、挿入を抜きにしてでも、ボディタッチとか体を見ることもセックスに近いというか、同じであるような気がしていて。もちろん性欲でセックスはしたくなるんですけど。

由真:私は全然違うんだろうなと思って。私はもう、性欲なんですよね。はっきり言って、彼とじゃなくても、誰とでもできるし。

今付き合っている人のことも、ちゃんと好きなんですけど、その人と結婚したいかというとそういうことでもなくて。男性用の風俗はいっぱいあるけど、女性用の風俗はほとんどないんだから、素人とやるしかないじゃんっていう。私はそういうスタンスなんです。セックスによって愛情を交わすみたいなことはどうでもよくて、自分が快感を得ることが目的です。

雄一:彼女のほうが捉え方がより肉体的な感じなんですよね。

由真:人肌にじかに触れている感覚を味わうため……みたいな感じで、“欲”でしかないと思いますね。なので、彼みたいな、これだけ仲良くなった人に自分の欲をぶつけるというのが、嫌というか、恥ずかしい。

――最後にひとつ。お互いのいちばん好きなところを教えてください。

由真:顔?

雄一:すごく同意を求めてくるね(笑)。彼女の顔は前提として大好きなんですけど。飽きさせないところがいいなと思っていて。ふたりでいると変なギャグをしてきたり、ミステリアスな行動をとろうとしてみたりだとか。エンターテイメントを提供してくるので、すごく楽しいですね。

由真:私は、彼が自分自身を好きなところ、自分に自信があるところですかね。一緒にいて楽しいのは、お互いに自己肯定感が高いからなんだろうなって思います。

――なるほど。夫婦であっても、他人だから考え方や物事の捉え方が違って当然で、けれども「夫婦であり続けたい」という思いと、互いを尊重して理解しようと思う気持ちがあれば、いい関係を維持できるのだと思いました。今日はどうもありがとうございました。

※このインタビューは、2020年4月15日に実施しています。

※この記事は2020年5月3日に公開されたものです。

Photo/阿部萌子(@moeko145

大泉 りか

ライトノベルや官能を執筆するほか、セックスと女の生き方や、男性向けの「モテ」をレクチャーするコラムを多く手掛ける。新刊は『女子会で教わる人生を変える恋愛講座』(大和書房)。著書多数。趣味は映画、アルコール、海外旅行。愛犬と暮...

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