\八木奈々さんの過去記事はこちらから/
・「わたしの一部は本でできてる。『モモ』に教わる命のこと【TheBookNook #1】」・「暑い夏には熱い物語を。【TheBookNook #2】」
・「行きたい国に思いを馳せて【TheBookNook #3】」
心が疲れたときは、何をしますか? おいしいものを食べる、音楽を聴く、筋トレする。連載「TheBookNook」Vol.4でご紹介するのは、自分を癒すための装置としての三冊。著者が読者のみなさんに、お守り候補としておすすめしたい「疲れたときこそ読んで欲しい特別な本」たちをピックアップしました。
「本を読むと疲れる」
「疲れて最後まで読むことができない」
そんな声を耳にすることも多いですが、実はその疲れた心こそが新たな気づきや癒しを求めている合図なのかもしれません。心を優しく包み込むような物語や、心に響く言葉の数々。その魅力は、とどまることをしりません。
もし、もしも、一冊の本に触れるだけで、ほんのちょっとでも心が落ち着いたら。
自分のペースを取り戻すことができたら。
ゆったりとした眠りにつくことができたら。
写真はイメージです。
それだけで明日が、目の前の景色が、ほんの少しだけ変わるとは思いませんか?
そんな、心を満たす本との出逢いが皆さんに訪れる未来を願って、今回は「疲れたときこそ読んで欲しい特別な本」を三冊ご紹介させてください。
仕事や人間関係に疲れ切った女性が、山奥へ向かい自ら命をたとうとしてしまうショッキングな物語。……でありながら、死ぬために訪れた土地で出逢った人々の影響で、彼女の慌ただしく不安な心はいつのまにか癒されていきます。
前向きになっていく中で「ずっとこのままではいられない」という気持ちが生まれ、主人公が再び一歩を踏み出すまでの心情が描かれています。
彼女の抱えていた漠然とした生きる不安、気持ちの変化、新たな出会い、旅立つ勇気、寂しさ、それらの全てが静かに自分と重なり、私の心に寄り添う大切な一冊となりました。
読後は、視界がクリアになり、脱皮した様な感覚になれる一冊です。主人公が日常から離れて得た癒しや心の変化は、私が本を通して感じるそれと少し似ているかも知れません。
「きりこは、ぶすである」という衝撃の一文から始まるこの物語。“ぶす”であることから普通の社会生活を送れずに引きこもっていた主人公が、成長していくにつれて見つけていった哲学が、一見ありきたりな意見のようで、巧みなエピソードによって描かれていて、私たち読者の前に圧倒的な説得力を持って提示されます。
読後も日常のふとした瞬間で、その中にある鮮やかなシーンを思い出してしまうような物語であり、いつまでも読者、とりわけ女性を支えてくれる存在でもあります。
自分を愛せなくなったとき、
容姿に自信が持てないとき、
他人の言葉に深く傷ついたとき。
この小説は、あなただけを見つめ「あなたはあなただ」と真っ直ぐに偽りなく語ってくれます。読後は一見地味な日々の営みがほんのり甘く色付いて、自分の存在が限りなく尊いものに思えるから不思議です。
原田マハさんといえば美術関係の作品を思い浮かべる人も多いと思いますが、本書はそんな原田さんの専門分野が解禁される前の作品です。物語は“スピーチライター”という職業にスポットライトが当てられており、作中には名言がいくつも登場します。
そして本のタイトルにもなっている「本日は、お日柄もよく」。物語の序盤でも目にするこの言葉ですが、終盤になるにつれてその素晴らしさが身に染みて、自然と涙腺が緩んでしまっていました。それくらいこの作品は“言葉”の一つひとつが選び抜かれていて、問答無用で私たち読者を虜にしてくれます。読後には少し背筋を伸ばして、自分の発する“言葉”を大切にしたくなるはずです。本日はお日柄も良く。
疲れた自分に寄り添ってくれるような、お守りのような一冊があると、とても心強い気持ちになるものです。
いや、本でなくても構いません。歌でも、映画でも、なんでもいいんです。ここにいる皆様が、今夜、安心して眠れますように。
この連載は、書評でもあり、“作者”とその周辺についてお話をする隔週の連載となります。書店とも図書館とも違う、ただの本好きの素人目線でお届けする今連載。「あまり本は買わない」「最近本はご無沙汰だなあ」という人にこそぜひ覗いていただきたいと私は考えています。
一冊の本から始まる「新しい物語」。
「TheBookNook」は“本と人との出会いの場”であり、そんな空間と時間を提供する連載でありたいと思っています。次回からはさらに多くの本を深く紹介していきますのでお楽しみに。
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