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どうして死ぬまで「1対1」で生きなきゃいけないの? ポリアモリーの夫婦の恋愛観

ひとことで“夫婦”と言っても、形はそれぞれ。『隣のフーフ』は、インタビューを通じてさまざまな“夫婦・家族観”を考える連載です。今回は、夫も妻もポリアモリー(複数のパートナーと関係を築く恋愛スタイル)だというおふたりにお話を伺いました。

どうして死ぬまで「1対1」で生きなきゃいけないの? ポリアモリーの夫婦の恋愛観

出会いは友人の紹介。初めてのデートで「とにかく子どもがたくさんほしい」というお互いの共通点が判明し、とんとん拍子で結婚することになったたくやさん(34歳)、さよさん(29歳)ご夫婦。

しかし、さよさんにはひとつ、望みがありました。それは関与するすべてのパートナーの同意の上で複数のパートナーと愛の関係を築く、“ポリアモリー”のスタイルで結婚がしたいということ──。インタビューを通じてさまざまな“夫婦・家族観”を考える連載『隣のフーフ』、第3回です。(聞き手:大泉りか)

■最初のデートで「今日から子どもを作ろう」と決めた

──おふたりの馴れ初めを教えてください。

さよさん(以下、さよ):
出会いは2018年の3月です。夫も私も仕事がIT関係なんですが、共通のコミュニティがあり、私の友達が部下の彼を連れてきて4人で会食したことがあったんです。それが最初で、そこから1年くらいは友達として付き合っていて。

たくやさん(以下、たくや):あるとき、たまたま一緒になった仕事のイベント帰りに、さよさんが相談があるということで、お茶を飲みながら聞くことになって。

さよ:ちょうど皇居の見えるカフェでお茶をしたんですが、そのまま一緒に皇居ランして(笑)。ノリのいい人だなと印象が変わって。で、ハマっていたボルダリングに彼を誘ったんです。

──いきなり皇居ランはなかなかのスウィング具合ですね。

たくや:そのボルダリングが実質、1回目のデートだったんですが、その日に子どもを作ろうってことになったんです。

さよ:ボルダリングしたあとに、飲みに行って。で、恋愛観の話をしたんですね。それで、「私は子どもが最低5人はほしいし、産めるだけ産みたいタイプだ」って話をしたんです。

たくや:僕も子どもはたくさんほしいと考えていたので、「僕は10人ほしい」って。で、彼女が5人産む場合のスケジュールを考えたら、「すぐ作らないとじゃない?」と気づいて。じゃあ今日から作ろうか、ということになり、それが実質プロポーズになりました。

さよ:だからプロポーズの言葉は「俺の子どもを産んでよ」でした。交際期間は0日で、その日に結婚を決めて。展開が早いですよね(笑)。事実婚なので、結婚記念日はそのデートの日にしてます。そこから通いの週末婚になって、3カ月後の2019年5月に子どもができて。7月末から同居を始め、今に至る感じですね。

■ポリアモリーという概念との出会い

──ものすごいスピード感ですが、さよさんはもともと、ポリアモリーという概念を知っていて、試してみたいと思っていたんですか。

さよ:はい。最初のデートでもいくつか過去の恋愛の話をしたんですが、それまで私は、恋人が複数いる人と交際することが多くて。最初は24歳かな。付き合い始めた人が、彼女のいる方だったんです。「彼女が、もうひとりいてもいい?」って言われて、2対1の三角関係が始まって。結局は、もともとの彼女の方が耐えられなくなり、私の方がフラれて別れることになったんですが……。

それからしばらくは、ちょっと遊んでいる期間があって、パートナーがいる人と恋愛することが多かったんですよね。あと、好きな人がひとりじゃないことも多くて。それで悩んでたときに、「なんで私は複数恋愛ばかりしてしまうんだろう。あるいはなんで、相手にパートナーがいるのが平気なんだろう?」って考えて、ググったらポリアモリーを紹介している記事が出てきたんです。そのときに、こういう言葉と概念があるんだなと知って。たくやさんと一緒になる1年半くらい前のことです。

──ポリアモリーという概念を知ったことで、楽になった部分ってありますか?

さよ:
はい。概念として理解することで、そういう人たちが一定数いるんだなと自己肯定できたかもしれないですね。当時はポリアモリーの当事者コミュニティの存在は知らなかったですが。

たくや:僕は彼女に会うまでは、わりと、後ろめたさを感じながら複数恋愛をしてたんです。付き合っている女性たちに、実はパートナーが複数いるってことは基本的には言わなかったですし、いかにうまく隠すかっていう感じで。けど、彼女と一緒になってからはフルオープンなので、気持ちが楽です。

さよ:初めてのデートで恋愛観についての話をしたとき、彼はポリアモリーという概念は知らなかったんです。けど、浮気が許される夫婦関係にしたかったんだっけ?

たくや:浮気が許されるというか……さよさんと会う前は、それがどういう形かわかってなかったんですけど、過去に付き合ってた人には「他のパートナーがいてもいいよ」って話はしてて。ちょうどパートナーシップの別の形を模索し始めてたときだったんです。

■複数恋愛は、ひとりの相手にすべてを求めなくてもいい

──なるほど。もともと、おふたりとも、複数恋愛がしっくりくるという考えだったんですね。しかし、複数恋愛をいざ実行するには、なかなか難しい部分もあるんじゃないかと思います。複数のパートナーと関係を築くことのよさ、悪さってどういうところだと思いますか。

さよ:
私は、複数恋愛っていいものと悪いものがあると考えています。関わっているすべての人が合意できている場合と、誰かを悲しませている場合の2種類があると思うんですけど、やっぱり誰かを傷つけてしまう恋愛はよくないですよね。合意の上であれば、メリットはすごくあると思っています。むしろ「1対1で死ぬまで50年一緒に生きる」ということに対して違和感があるというか……。そう決められてるのって、不思議ですよね。社会を統制するにはその方がいいのかもしれないんですけど。

──たくやさんはどうですか?

たくや:
僕がいいと思ってるところは、ひとりの相手にすべてを求めなくていいところ。仮に、僕は子どもがたくさんほしいけど、相手はいらないっていう人だったとき、1対1の関係だったら、パートナーシップを解消しないといけないかもしれない。でも複数恋愛ならば、その相手と子どもは作らなくても、他に子どもがほしい相手と作って、両方と恋愛し続けるということもできる。ひとりの相手しかいないと、求めるものを全部ひとりに持ってもらわないと……ってことになる。

さよ:そうですね。自分ひとりで全部担わなくていいので、いい意味で力が抜けるというか、完璧主義じゃなくなりました。あとは、相手と恋バナができるのもいいです。

たくや:そう、我が家はいつも恋バナしてますね。

さよ:一緒に街を歩いてても、「あの子、カワイイ」とか、「あの人、カッコいい」とか話して、友達っぽくなれるのはすごく楽かな。楽というか、楽しい。

──そういうところもすべてオープンにしているんですね。たとえばですが、別のパートナーとのデートなんかもオープンですか?

さよ:
私は、なるべくリアルタイムで彼の動きを知りたくて。「すべて連絡しなくてもいいけど、ホテルに入るときだけLINEして」って言ってるんですよ。デートのエリアと、日時だけは事前に教えておいてもらって、当日はホテルに入るタイミングで連絡をもらってます。

あと、彼のパートナーにはあだ名をつけているんです。「妖精ちゃん」とか「フルーツちゃん」とか、そういう共通名を作っていて、誰と今どんな状況なのかは報告してもらってますね。

たくや:彼女はけっこう嫉妬を楽しんでる感じがあります。ポリアモリーの中にも、嫉妬する人としない人がいて。彼女は嫉妬はするんだけど、その嫉妬が楽しいみたいな。

さよ:いい嫉妬。

──なかなか嫉妬を楽しめる人っていない気がするんですけど、どういう感じで楽しいんですか?

さよ:
ちょっと妄想したりとか。今、他の女とやってるんだ、ムカーみたいな(笑)。

──いわゆる“寝取られ”の嗜好があるのでしょうか……。

さよ:
けっこうありますね(笑)。

■複数のパートナーとの関係の難しさ

──そこを楽しめると、複数恋愛のハードルが下がりますね。今はそれぞれ、何人のパートナーがいらっしゃるんですか?

たくや:
何人ってカウントするのはちょっと難しいです。何かのタイミングで喧嘩別れした女性もいるし、過去に関係したことがあって、その後も連絡を取ってるんだけど、またエッチするわけではない人もいる。ワンナイトで終わっちゃった女性も、今まさにアタックしてる人もいます(笑)。

さよ:私の方は、最近好きな人ができなくって……なので、彼と一緒になってからはまだ他のパートナーがいたことはないですね。彼と付き合ってすぐに妊娠・出産したので忙しかったのと、彼以上の人がなかなか現れなくて。出会いの機会が減ってるっていうのもあるんですけど。彼を超える人じゃないとなんかなぁっていう思いが、今はあって。

──たくやさんがパートナーとして、よすぎるわけですね。

さよ:
そうですね。でも、昔好きだった人とかは普通に会ったりするんですけどね。

──たくやさんは、将来的にさよさんが別のパートナーを作った場合に、それをすっと受け入れられると思いますか。

たくや:
まだわからないです。たぶん嫉妬は多少すると思うんですけど、別にそれが嫌ではない気がしています。彼女の嫉妬に近い感じになるんじゃないかな。寝取られたいとは思ってはないんですけどね(笑)。

──ちなみに、たくやさんが過去に喧嘩別れした女性は、ポリアモリーの関係に耐えられなかったというのが理由ですか?

たくや:
そうですね。実はその方と出会った時期が妻と一緒になった時期とかぶっていたのもあって、最初はその女性には、他にパートナーがいるとは言ってなかったんですね。もちろんあとになって話したんですけど、あまりよくは思っていなくて。

デートしてるときはいい感じなんですけど、会っていないときに「やっぱり私だけにして」とか「扱いがひどい」と言われて、ケンカになることが多くて。何度か別れたりヨリを戻したりしたんですが、最終的には「難しいね」っていうのをお互いに理解して、お別れしました。

■ポリアモリーであることを理解されたいとは思わない

──ポリアモリーという概念は、なかなか理解されにくい部分もあると思います。おふたりのご両親にはどう伝えているのでしょうか。

たくや:
まだ言っていないんですが、いずれ言わなきゃいけないだろうとは思います。うちの父母は大丈夫だと思ってますけど。

さよ:私は、うちの親に理解してもらおうとはあまり思ってないです。親とは40歳離れてるんですけど、生きてきた時代が違いすぎるので……。ただ、親は基本的に子どもが幸せであってほしいと思っているはずなので、私は今幸せだから、それを精一杯伝えようって考えてます。

──ご両親以外には、おふたりがポリアモリーであることは伝えているんですか?

たくや:
家族以外にはまったく隠してないですね。

さよ:これが私たちのライフスタイルだし、言わないとおかしな部分がでてくるので。夫が別の女性とデートに行くとか(笑)。

──お子さんにもいつかは伝えることになると思うのですが、そのタイミングについてはどうお考えですか?

たくや:
いわずとも「(さよさんのほかにも母親が)いるじゃん」ってことになると思うんです。実は今、僕たちはマンション型のシェアハウスに住んでいるんですが、共有のダイニングもあって、同じシェアハウスの住人たちと一緒にごはんを食べたりとか、イベントをやったりとか、コミュニティとして集まってる感じなんです。

うちは新しい家族の形を模索しているので、今入ってるコミュニティも血縁を超えた家族的なつながりを目指していて。それぞれの部屋自体はマンション型で独立してるんですけど、互いの部屋を行き来したり交流があるんです。

子どもがいる家庭も他にいくつかあるので子育ても協力し合っていて、コミュニティの人たちも親のように接してくれている。なので、小さい頃からファミリーの親もいるし、ファミリーじゃない親もいるし、なんか親がいっぱいいるっていう、そういう環境で子どもは育てるつもりです。固まった価値観では生きてほしくないと思っているので、いろんな価値観に触れて、いろんなものを受け入れられるような子どもになってほしいです。

さよ:私は考える子どもになってほしいなと思っているので。別に強制もしないし、これが正しいって言うつもりもないですね。

──なるほど。そういうふうに生活そのものから、ポリアモリーに適応しやすい形を選んでいるんですね。では、事実婚という形を選んだのは、ポリアモリーと関係ありますか? 入籍をしてしまうと、どうしても正妻とそれ以外のパートナーという形になるのかなと思うのですが。

たくや:そうですね。日本では重婚できないし、法律上は正妻以外と関係を持つと不貞行為というペナルティーになるので。

さよ:それに、どのパートナーとも対等な個人であることを尊重したいので、正妻になることで順位がついちゃうのは違うなって思います。

──さよさんは、たくやさんの一番でありたいという欲はないんですか?

さよ:
本心としては一番を求めてるのかもしれないですけど……。でも、彼が「パートナーの順位づけはしないと言っているので、安心はしてるかな。別のパートナーと並列に扱われるのは、いいかなと思ってます。

──ポリアモリーって、やっぱりできる人とできない人がいるなって思うんですが、おふたりから見るとどうでしょうか。

さよ:
向いている人の方が今は少ないと思います。けど最近思うのは、ポリアモリーであることを選ぶ人って、哲学をする人なんだっていうことです。一般的な概念に囚われるのではなく、本質から考えて、制度やシステムに対して疑問を持つ人が向いていると思います。

たくや:僕の意見としては、自分以外の人をリスペクトする姿勢が最低限必要かなとは思いますね。相手に求めるものが多すぎると、うまくいかないと思うんですよ。「この人にこうしてほしい、こうなってほしい」というのを僕はあまり持ってなくて、相手のしたい生き方を実現してほしいと思っています。

さよ:そうですね。向いているのは、自分と他者をちゃんと区切れる自立した人かな。何かあったときに、相手ときちんとディスカッションができるタイプじゃないと難しいかもしれないですね。

■子どもをできるだけたくさん産みたい

──今後おふたりのどちらか……たとえばたくやさんにさよさん以外のパートナーができた場合、住む場所などはどうするんでしょうか。

たくや:
その方の望むライフスタイルによるなと思ってて。さよさんとも相性がよくて、一緒に住みたいというなら、一緒に住むし。

──さよさんもそれは納得の上で。

さよ:
はい。OKです。

たくや:生活が合わない、ということであれば、隣の部屋に住むとか……話し合って、お互いの心地いいところを探していくしかないと思ってます。相手に連れ子がいるパターンもあると思うし、相手に他のパートナーがいるパターンもありえるでしょうし。考えていくと、パターンにきりがなくて。

──さよさんはどういうパターンでも受け入れる?

さよ:
うん。ただ思うのは、彼がこれまで付き合ってきた子とか恋愛する子を見てきて、私との相性がどうしても合わないこともあるだろうなって(笑)。もし相性が悪かったら、同居はちょっと考えるかもしないです。全員で会議したりとか。

たくや:ディスカッションですね。

──お話を伺って、たくやさんには「他人を説得して誘導する」という雰囲気がないのが素敵だなって思いました。

たくや:
人はコントロールできないと思ってます。なので価値観を無理に変えないと一緒になれない方だったら、一緒になるのは難しいね、という結論になると思います。

さよ:自発的にこうしたいっていうのが合致しないとね。

──最後に、今後のおふたりの展開や目指すパートナー像などがあれば、教えていただけますか。

さよ:
今の目標は、彼の子どもを産み続けることですね。もしいい出会いがあって、その人ともパートナーになりたいって思って、相手も同じ気持ちだったら、そのときはまた変わると思いますが。

たくや:最初、さよさんは「子ども5人が目標」と言っていたんですけど、今は10人に変わりまして。

さよ:閉経まで産み続けたいです(笑)。


Photo/阿部萌子(@moeko145

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大泉 りか

ライトノベルや官能を執筆するほか、セックスと女の生き方や、男性向けの「モテ」をレクチャーするコラムを多く手掛ける。新刊は『女子会で教わる人生を変える恋愛講座』(大和書房)。著書多数。趣味は映画、アルコール、海外旅行。愛犬と暮...

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