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おっぱいにコンプレックスがあった私だから、女性のためにできること

「目の前にいない誰かの視線に怯えなくていい。あなたはそのままで美しい」と私は女性たちに伝える。他人のちょっとした一言で、心の足かせを少しでも軽くするお手伝いができるのであれば、私のおっぱいコンプレックスも無駄ではなかったと思うから。

おっぱいにコンプレックスがあった私だから、女性のためにできること

頭髪が薄く、太った年配の男性が、42歳になった今でも苦手だ。かつて、そういう外見の男性からひどい痴漢被害を受けたからで、そういう人を否定する気持ちはまったくない。私はそのとき20歳だった。

冷静になってみれば「おとなしめな外見のせいで狙われたのだ。もちろん加害者が圧倒的に悪い」と理解できるけれど、当時は「自分が不用心なせいで、赤の他人から性的な目で見られて、被害に遭った=自分が悪い」と考えてしまった。

中でも「わかりやすく大きい見た目のバスト」に対するコンプレックスは、その事件から一気に高まり、しばらくの間、男性からの視線が怖くて仕方ない時期を過ごすことになる。

バストが目立たないように大きめの服を着てみたり(それでも隠れたとは言えない)、小さなサイズのブラで抑え込んでみたり(窮屈なだけ)、背中を丸めて歩く癖もついた。時間の経過とともに、男性への恐怖心は和らいでいったが、バストに対するコンプレックスは変わらず私の生活を脅かす。

あの事件から10年ほど経って、友人から「姿勢が悪い。ブラのサイズも合ってないよね?」と指摘され、そのまま彼女がオススメする下着屋さんへ行くことに。正直なところ、めんどくさいなぁ、どうせ何をしても変わらないから放っておいてよ、としか思えなかった。

ブラジャーのデザインというのは、ある一定のカップサイズ以上になると、販売されていないし、一般的なサイズで売られているものより少ないカラーに限られてしまっていて、好みのデザインで買うということが難しくなる。

だから、ブラを買うときは「素敵なデザインのものを選ぶ」なんていう感覚はなく、「サイズがあれば、買う」という選択肢しかなかった。ブラを選ぶときに突きつけられる「大きいから選べない」という現実もコンプレックスを強くする原因となり、何を着けても代わり映えしない自分の胸と向き合うことになるので、下着屋さんに行くという行為も苦痛に感じていたのだった。

洋服の上からでもわかるくらいブスになっていた私のバストを見抜いた友人に連れていかれたのは、とあるインポートランジェリーのセレクトショップ。そこは今までに見たことのない素敵な下着であふれていて、足を踏み入れるだけで「自分は特別な存在である」という優越感を味わえるほど。

とはいえ「またここでも、サイズがないとか、デザインが選べないとか、残念な思いをするだけだ」と期待はしなかった。友人からショップのオーナーであるマダムを紹介され、簡単に体型チェックをしてもらったあと、試着するように渡されたブラを手に取る。

今まで着けていたブラに比べてなんと美しいことか。そのままマダムのフィッティングを受け、胸にピッタリ合うサイズのブラを身につける。自分の中の自尊心を取り戻すような、気持ちが花開くような高揚感。

■私の体を一番可愛がるのは私

「私のバストって、もしかしたら、きれいなのでは?」

胸に抱え込んでいたコンプレックスが、下着によって薄らいだ瞬間だった。今まで「誰かに見られているかもしれない」という気持ちからバストを隠すことに専念していたが、どこにいるかわからない「誰か」のために怯えていた自分がバカバカしくなるほど、そのブラジャーは快適で、美しかった。もちろん、自分のバストも含めて。

「これは私の人生なんじゃー! お前なんかに、私のバストを潰されてたまるかコノヤロー!」

頭の中のジジイをぶっ飛ばす。見えない「誰か」のために自分を縛りつけるのはやめよう、そう思えるようになった。

それからコンプレックスが完全に消えたというわけではないけれど、「自分の体のことを、自分で好きにならなくてどうする!私の体は、私が一番可愛がる!」という気持ちに徐々に変わっていった。

まずは、体のラインを隠すような洋服をやめた。こんなものは似合わないだろうと思って諦めていたようなファッションにも挑戦してみる。胸は小さくならないけれど、対比でウエストが細く見えることに喜んでみる。

朝出かける前に、鏡に向かって「今日もかわいいね!」なんて言ってみる。こんなところ、人に見られたら恥ずかしくて死にたくなるけれど、ひとりだったらどんどんやるべきだ。

■身動きできないくらいのコンプレックスを、軽くできたらいい

現在、私は「All for Me(オールフォーミィ)」というセミオーダーブラジャーのブランドを運営している。自分自身が下着に救われた経験があり、女性下着を製造販売する今の事業に参加できたというのは不思議な縁だと思う(よく勘違いされるのだけれど、この事業は私が始めたものではない)。

多くの女性の悩みをカバーすべく、AAA60〜J100という一般的にはあり得ないサイズ展開にし、デザインも「サイズによって選べない」なんてことがないようにしている。

この仕事を始めたことで、バストに関する悩みが世の中にも多く存在していることを知った。自分もその中のひとりだったから、悩みに寄り添うことはできる。けれど、そこからもう一歩踏み出したところに解決策があり、みんなそれを求めている。

バストに悩みがあっても、誰にも相談できない。比較するのは、下着のモデルさんやグラビアアイドルさんだけ。「誰か」にひどいことを言われた。「誰か」の目線が気になる。そんな状態で、悩みをひとりで抱え込んでいる人が多いと感じる。作り上げられた美しいものと比べるのは意味がないし、あなたのことを傷つけるような「誰か」のために悩む必要はないし、実在しない「誰か」の視線に怯えなくてもいい。

コンプレックスって、人生の足かせみたいなもので、もちろんはずれたら楽になるのだけど、その重さで人間的に鍛えられる面もあるように感じる。コンプレックスがあるからこそ、それを克服するために努力することができたり、改善するための新しい知識を得られたりする場合もあるだろうから、少し残っているくらいが、ちょうどいいのかもしれない。

でもあまりに大きな足かせで身動きが取れなくなっているのなら、それは軽くしたほうがいいに決まっている。

■バストはみんな違って、みんな美しい

All for Meのフィッティングサロンでは、一般的な下着屋さんで行うフィッティングとは異なり、完全予約制で60分間マンツーマンでの対応をする。サイズを測っておしまい、ではなく、一人ひとりの悩みに向き合い、最適なブラの着用方法とサイズの提案をすることで、根本的な問題解決へと導いている。

「背中の脂肪を胸にしたくて、マッサージ頑張ってます」なんていう声もあるけれど、脂肪は大幅に移動しないので、そんなことできるはずがない。こんな風に世間で広まっている間違った知識から、おかしなことをしている方も多く存在している。

All for Meのフィッティングサロンは、世の中の間違った情報について解説し、正しい知識を手に入れてもらうセミナーのような場所でもある。そんなサロンで、私は延べ4000人ほどの女性と向き合ってきた。人の性格や外見がみんな違うように、バストにも個性があり、それぞれが違った美しさを持っている。けれどそういったことがわからず、自信が持てない人も多い。

モデルさんかなと思うような美しい女性が来店したことがある。「胸の形が気に入らなくて、補正下着に頼ってます。でも補正下着は苦しくて……」。市販の下着は不安で着けられないと言うので、普通のブラでもこんな感じできれいに着けられますよ、なんてアドバイスをする。

安心した表情で、なぜ胸の形が気になったかという話をしてくれた彼女。「元カレに胸が小さいって言われてずっと気にしていた」とのことだった。ああ、あなたも目の前にいない「誰か」の視線に怯えていたのか!

悩みの深い人のほうが、真面目で努力家の傾向があり、「誰か」を気にしているように感じる。「誰か」に縛られていた自分自身がそうであったように。サロンに来たお客様には、「あなたの人生の主人公はあなた自身なので、実在しない誰かを想定して怯える必要はない。あなたはそのままでも十分美しい」と伝えるようにしている。

「ただ体に合うブラを探している」という人には余計なお世話かもしれない。胸の大きいあなたには、小さい人の悩みなんてわからない、と思われているかもしれない。だけど、ちょっとした他人の一言で、ブラのフィッティングに来たという体験ひとつで、ほんの少しでも心の足かせを軽くするお手伝いができるのであれば、私のコンプレックスも無駄ではなかった。

未だに自分のバストを完全には好きになれないけれど、不完全な自分もそのまま愛したいと思えるのだ。


Text/マチルダ
Photo/タカハシアキラ(@crystal_style

DRESS編集部

いろいろな顔を持つ女性たちへ。人の多面性を大切にするウェブメディア「DRESS」公式アカウントです。インタビューや対談を配信。

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